「広告」という名のコピーライター
人って少なからず、自分の「名前」に人生を左右されるのかもしれません。
野球選手に「球児」さんがいるように、そしてサッカー選手に「修斗(しゅうと)」さんがいるように。僕も「広宣(ひろのぶ)」という名前でコピーライターをしています。
きっと、スポーツ選手の場合は、そこに親の夢や期待が込められている。でも、僕の親に「将来は広告の仕事に」なんて期待は微塵もなかったようです。その証拠に、大学生の頃「コピーライターになる」と親に告げると、「なんで大学出てまでコピーをとりつづける仕事をするんや」と反対されました。いやおとん、そのコピーちゃう。
ですが、この名前のおかげで「広告」という字づらに親近感が湧いたのか、大学の図書館でたまたま手にした本がきっかけとなって、今こうしてコピーライターをしているのですから、不思議なものです。
これで電通や博報堂にいて、誰もが知るようなCMや超バズる動画なんかをつくって「神童」とか呼ばれていたらめちゃくちゃかっこいいのですが、そこまでできた話ではありません。
それでも、名刺交換をするたびに
「広告をやるために生まれてきたような名前ですね」
「広告の申し子じゃないですか」
「名前負けできないですね」
とハードルを上げられる僕が、いったいどんな仕事をしているのか。ご笑覧いただければ幸いです。
1、フリーランスのコピーライターとして
■”人生”広告の制作
コピーを書く仕事をはじめて今年で14年目になりますが、僕はコピーライターのキャリアを「求人広告」からスタートさせました。リクルートの代理店に、アルバイトとして入社したのが最初です。そこで契約社員、正社員となりながら、年間500本の求人広告(リクルートでは「人生広告」と言ったりします)の制作を約10年つづけて独立。現在5期目ですが、今も採用系のコピーを担当することが多いです。
FCCやCCN(※)で賞をいただいたのも、下着メーカーの新卒採用のためにつくったポスターでした。
※FCC=福岡コピーライターズクラブ、CCN=コピーライターズクラブ名古屋
最近は大手鉄道車両メーカーや自動車メーカー、総合スーパーや菓子メーカーなどの採用に携わることも増え、テレビで見るような有名な社長にインタビューする機会をいただけることも。ありがたいかぎりです。
■企業理念の策定
社長インタビューといえば、「想いはあるが、言葉にできない」という経営者の方々にお声がけいただき、企業理念や行動指針、ビジョンなどの言語化をお手伝いする仕事も増えてきました。
事業の拡大においてはもちろんですが、今後はより良い人材を採用していくうえでも、社内向けの言葉が重要度を増していくように思います。
■クラウドファンディングの企画・ライティング
クラウドファンディングが一般化し始めた数年前から、さまざまな企業からプロジェクトの企画やライティングでお声がけいただくことが増えてきました。
1400年続く【鬼瓦】の職人による、悪い男を寄せ付けない『良縁鬼顔』のお守り
これは、住宅の多様化によって日本家屋の屋根に飾られなくなった『鬼瓦』と、その鬼瓦を手がける職人『鬼師』を多くの方に知ってもらい、その文化と技術を次世代へ伝え継いでいくために生まれたブランドです。
『鬼瓦』は古くから病気や天災など厄災を祓い、家内安全を祈願する役割を担ってきたもの。現代の生活や価値観に合うカタチに生まれ変わらせようと、「鬼瓦の技術をつかってお守りをつくる」いう取り組みでした。※「良縁鬼顔」というネーミングも担当しました。
■持ち込み企画
上記のような仕事を手がける一方で、自ら企画したものを企業などに提案することもあります。昨年は自分が住んでいる市の100周年プロジェクトの一環で、下記のようなポスターを制作する案を提案し、実現。Yahoo!ニュースやNewspicksにも取り上げていただきました。(愛知県岡崎市は徳川家康の生誕の地)
もともと、公共広告機構(AC)のような公共性の高いソーシャルグッドなことをやりたくて広告の道へ進んだところがあるので、これからも持ち込み企画はつづけたいと思います。
2、中小企業の経営相談所の相談員として
僕がフリーランスのコピーライターをするかたわら務めているのが、「OKa-Bizのビジネスコーディネーター」。なにそれ?という感じですよね。OKa-Biz(オカビズ)というのは、愛知県岡崎市にある“売上アップ”に特化した中小企業のための経営相談所。…と言うとなんだかおカタイ感じがして「つまらなさそー」という顔をされるのですが、実はこれがめちゃくちゃクリエイティブなんです。
お金をかけずに「知恵(アイディア)」で流れを変えて、売上を上げる。そんな手法で、どん底だった企業がV字回復するような例がたくさん生まれている相談所です。「売上アップ」という具体的な成果が出て、かつ再現性のあるその手法が注目されて、今では全国20以上の自治体にまで広がっています。
※参考
◎WEB RONZA
「地方で広がる中小企業支援の拠点「Biz」」
(上)https://webronza.asahi.com/national/articles/2018092000004.html
(下)https://webronza.asahi.com/national/articles/2018092000005.html
「広がる、中小企業支援の新しい形」
https://webronza.asahi.com/business/articles/2017111700002.html
◎ハフィントンポスト
「中小企業支援の新たな形「f-Bizモデル」に全国50超の自治体が熱視線」
https://goo.gl/kJoFxo
◎朝日新聞Web
「広がる、中小企業支援の新しい形」
https://goo.gl/8yxWKq
■事業・商品のコンセプト設計
僕はそこで、主に事業や商品のコンセプトメイク、ネーミング、コピーライティング、採用を担当しています。
何がクリエイティブって、その支援の方法です。相談者である企業自身が気づいていない強みを明確にし、お金をかけることなく、その強みがもっとも活きるターゲット・市場に向けて新商品・サービスをつくって投入していくんです。すると、驚くほどの成果が生まれる。百聞は一見にしかず。いくつか事例をご紹介します。
即完売する和菓子の老舗の新商品
小野玉川堂さんは、岡崎市で大正11(1922)年からつづく和菓子屋さん。「もっと若者に来て欲しい」とご相談にお越しになりました。
聞くと「一度食べてもらえればリピーターになってもらえるが、お客さんがどんどん減っていってしまっている」とのこと。不思議ですよね。どんどんリピーターになるのに減るって。要は、リピーターのお客さんが高齢化していて、どんどん亡くなってしまうので減っているとのことでした。小野玉川堂さんは、今もなお薪であんこを炊いているほどのこだわりよう。味は確かであることが類推できました。そこで、OKa-Bizからご提案したのがこの商品でした。
愛犬家、愛猫家をターゲットとした「肉球羽二重餅」。毎月11日(ワンワン)と22日(ニャンニャン)に限定発売したところ、「めざましテレビ」をはじめ数々のメディアに取り上げられ、発売日には行列ができ、即完売してしまうほどの人気商品に。狙いどおり、若者が訪れるお店になりました。**
人気花火の「復刻」で世界に発信**
愛知県岡崎市は、花火の産地。天下統一後、戦がなくなったことから、家康が火薬職人に花火をつくることを命じたことがルーツだそうです。
しかし、業界は中国産の安価な花火に押され、まさに風前のともし火。OKa-Bizに相談に訪れた太田煙火製造所さんも例外ではなく、クラウドファンディングで開発資金を募り、新商品をつくりたいというご相談でした。
よくよく話を聞いてみると、同社は実は噴き出し花火の代名詞とも言える、あの「ドラゴン」のメーカー。しかも、2008年にやむなく生産中止にされたとのことでした。もともとはまったく別の商品をお考えでしたが、僕たちが提案したのは「ドラゴンの復刻プロジェクト」でした。
プロジェクトが開始するや否や、Yahoo!ニュースに取り上げられたことで支援が加速し、早々に目標金額を達成。新聞6紙、テレビ5局、71のWEBメディアに取り上げられ、NHKからは世界150ヶ国へ配信もされました。
プロジェクトから2年たった今もその余波はつづいており、社長は先日、NHKの番組でAKBの指原さんとも共演されていました。
レトロな百貨店のテナント募集に50件超の応募
岡ビル百貨店さんは、愛知県岡崎市の主要駅の駅ビルに入る商業施設。創業60年を迎える岡崎最古の百貨店です。
ご相談内容は、テナントの募集についてでした。大部分を占めていた書店が撤退したことで、かなりのスペースが空きテナントになってしまっているということでした。
お話を伺ってみると、なんと坪1000円〜貸し出されているとのこと。駅直結という好立地であるにもかかわらずです。いわく、数年以内の建て替えが決まっていて期間限定になってしまうため、格安にしているとのことでした。
駅直結で、破格の条件。知ってもらいさえすれば、借りたい人はいるはず。そう思って提案したのが、下記のコンセプトによるキャンペーンでした。
一般的に審査が厳しく、また賃料が高くハードルが高い百貨店出店。でも、岡ビル百貨店なら格安ですぐに出店ができる。そんな魅力を端的に伝えるために「いきなり百貨店」と銘打って展開しました。
すると、岡ビル百貨店さんも情報番組や地元紙に取り上げられ、応募開始から数ヶ月で50件超の問い合わせを獲得。その後、うち1件の新規出店を実現しました。
ご紹介した3件は、ほとんどお金をつかっていません。強みを活かして、知恵で流れを変える。そんな支援から生まれた成果です。けっして珍しいものではなく、f-Bizをモデルとした全国各地の「〇〇Biz」では、こうした事例が数多く生まれています。
コピーライターにできることは、もっとある。
僕はOKa-Bizで働くようになってから、コピーの、そしてコピーライターの可能性をより感じるようになりました。それこそ、言葉ひとつで流れを変えられることだってあるからです。
ただ商品のキャッチコピーを考えるだけじゃなくて、コピーの考え方をつかって、商品そのものやビジネスをもつくっていく。コピーライターには今後、そんな働きが求められていくように思います。フリーランスのコピーライターと、OKa-Bizのビジネスコーディネーター。その2足のわらじを履きながら、コピーライターの可能性を追求しています。
広告の「広」に宣伝の「宣」で、「広宣(ひろのぶ)」という名前のコピーライター。
名前だけでも覚えていっていただければ幸いです。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
松田広宣
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