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マインドの壁

29年前、シアトルにあるワシントン大学3年生のとき、友人のフランス人から「日本はサッカーワールドカップでフランスには100年かかっても勝てないね」と、言われた。
「絶対なんて言えないだろ」とかムキになって言い返した記憶が残っている。はっきりと覚えているのはそれだけ根に持っているからだろう。

2022年11月、ワールドカップ一次リーグで、日本代表がドイツに2-1で勝利した。サッカーに詳しくない私だが、終了後の選手のインタビューに聞き入った。

ひとつは、前日にサウジアラビアがアルゼンチンに勝利したことのマインドへの影響。
吉田選手
「きのう、サウジアラビアが1点のビハインドから逆転したので『自分たちも』という気持ちで戦った」
世界強豪に格下チームが勝てるのだ。
これは一種の「効力感」だと思う。
効力感は、自分からわき上げるだけではなく、他の人(チーム)が「できる」ということを見ることで得られることも多い。
その昔、1マイル4分を切るのは不可能で、挑戦すれば死に至ると言われていた。しかし、ロジャー・バニスターが1954年に4分を切ると、その後さらに良い記録が続々と出た。

もうひとつは、壁を感じない選手たちのマインド。
堂安選手
「俺が決める、俺しかいないという強い気持ちでピッチに入った」
浅野選手
「自分がピッチに立てば100%プレーする。それだけを意識していた。チャンスがあればシュートを打つというのはずっと決めていた」
相手は関係ない。

私たちの世代(アラフィフ)は、欧米に対してどこか特別感を持っている。私は18歳からアメリカへ渡り6年間生活したが、この壁は今もどこかに感じている。飛行機に乗って海外へ行くのが一大イベントだった時代だ。「NOと言える日本」が1989年に話題になった。NOと言えない時代だったのだ。

ところが、サムライブルーの若武者にはこの壁がない。
それには先人の功績も大きいと思う。1977年に日本人初のブンデスリーガーとなった奥寺選手。1995年に米国に渡り、メジャーリーガーとして活躍した野茂英雄投手。壁を超えて、世界を切り拓いてきた人たちだ。
そして時代は移り変わり、生まれたときから、日本人選手が海外で活躍し、自分自身も努力して、やれるという感覚をつかむ選手が増えた。どこの国の選手だろうと同じ人間だ。
徐々に徐々に、選手たちの中の壁は低くなり、なくなったのだと思う。越えたのではない。消えたのだ。

これには長い時間とたくさんの人の努力と汗があってのことだ。
世代間で記憶やいろいろなものが伝承されていって今があると思う。

パフォーマンスを発揮するのに技術や身体のことがいわれるが、実はマインドという壁が一番大きいのではないかと感じた一戦であった。

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