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【シカゴでバードウォッチング!】 番外編 Coyote
昨年のクリスマス前にひどい風邪を引き、五日もベッドで寝っぱなしという悲惨な年末を過ごし、その後寒いこともあり、バーディングはしばしお休み状態でした。
でも、そろそろいつもの公園 Park 566 (前掲記事参照) で、私の好きな冬の鳥達、Short-eared Owl (コミミズク、前掲記事参照) や Northern Harrier (アメリカチュウヒ、前掲記事参照) に会いたいと思い、気温は摂氏マイナス8度でしたが、鳥見に行ってきました。
でも、期待に反してShort-eared OwlもNorthern Harrierもいず、鹿もいず、寂しい冬枯れの公園でした。ミシガン湖には、80羽ほどのCanada Goose (カナダガン、前掲記事参照) と 130羽ほどのRed-breasted Merganser (ウミアイサ、前掲記事参照) 、数羽の Bufflehead (ヒメハジロ、前掲記事参照) と Common Goldeneye (ホオジロガモ) がいただけで、 仕方がないなと思いながら家路につこうとしていたら、ミシガン湖のビーチに私が好きな哺乳類がいたんです!それも三匹も!
そこで、今回は、バーディングに行って会った哺乳類 < コヨーテ > について番外編として書くことにしました。
今まで何度もコヨーテを見ていますが、一匹ずつでした。一度だけ、グループで鳥見をしていた時に、私のすぐ横の草むらを二匹のコヨーテが忍者のように音もなくサッサッと走り去って行ったのがチラリと目に入ったことがあります。
ですから、コヨーテが三匹一緒にビーチをのんびりと歩いているのを見て、嬉しくて、嬉しくて! かなり遠かったので、写真がボケていますが、どうぞ。
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一番右を歩いているコヨーテ、左の後ろ脚をかばっている感じ。あとになって、このコヨーテが片足を引きずっているのがわかりました。怪我をしていたんですね、かわいそうに。
そして、家に帰って来てから下の二枚の写真を見て、夫曰く、「なんか凄いドラマがあったかも。怪我をしているコヨーテが違う方へ行こうと岩を上がって行く時に、それを見た元気な一匹がわざとバカにしたように放尿したみたい。」と。まるで「怪我なんかしやがって、このノロマが!」と罵っているような・・・。悪く考えすぎ?
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前を行く元気な二匹に威嚇されたのか・・・。 ©Dan Lory
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怪我している個体の尻尾も顔も萎縮していてスゴスゴという感じ。
それを見て、元気な一匹が放尿! 凄まじい物語がありそう。 ©Dan Lory
この後、怪我をしている一匹は足を引き摺りながらトボトボと隣の公園の方へ歩いて行ってしまいましたが、元気な二匹はそのままビーチ沿いを歩いて行きました。いったい何があったのか気になりますね。
さて、コヨーテは、北アメリカ原産のイヌ科の動物で、アメリカン・ジャッカル、プレーリーウルフ、ブラシウルフとも呼ばれていて、北米全域の森林や山間部だけでなく、シカゴのような大都市にもいます。時々シカゴのダウンタウンの少し北にあるゴルフ場に現れますし、私の家から徒歩15分で行けるJackson Parkにもいます。ご存知のように日本には生息していませんから、アメリカへお越しの際は探してみてください。
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©Dan Lory
コヨーテは、一雄一雌型で年に一回冬に繁殖し、春に子が生まれ、子育ては両親一緒に行い、前年に生まれた子が手伝うこともあるそうです。Park 566は、そんなに広い公園ではありませんが、コヨーテが好きなモグラやネズミなどの小動物や昆虫や蛇、それにカモメなどの鳥もいますから、なんとか命を繋いでいっているようです。
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https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428836/
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夫はその一部始終を遠くから見ていてカメラに納めましたが、残酷なシーンなので最後のショットだけ。
©Dan Lory
コヨーテは駿足で、時速65キロぐらいの速さで走ることができます。もちろん猫や犬よりも速いです。実際にフルスピードで走っているのを見たことがありますが、速くてカッコよかったですよ。
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Park 566 は、東側がミシガン湖で西側には幹線道路があり、そこをよく救急車や消防車がサイレンを鳴らして通ります。するとコヨーテがそれに和するように鳴くんです。下の動画は、2012年にノースカロライナ州の高速道路で栄養失調状態で助けられたScooterというコヨーテが、救急車と一緒に鳴いているところです。もしよかったらご覧ください。
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コヨーテは、草むらに上手に隠れます。自然環境の中でバッタリと遭遇しても、人間を避けて向こうが逃げて行きます。私自身、振り向いたらコヨーテがすぐそこにいてお互いに驚いたことが何回かありましたが、オオカミというより犬のような感じで、さっと向きを変えて遠ざかって行ってくれたのでホッとしました。
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コヨーテは昔から神話や物語の中でトリックスターとして扱われたため、必要以上に人間に恐れられてきました。その見方を正すため、2000年に Urban Coyote Research Project がシカゴで始められたそうです。人間がコヨーテにどのように接するかによってコヨーテの態度が変わるので、害獣としてただ単に目の敵にするのではなく、共生するために相手を知ることがまず大切であるという考えに基づいて、研究者達は、都市部にいるコヨーテを捕獲して無線追跡の首輪をつけ、捕獲場所にまた放し、コヨーテが都市部でどのように生活し、他の野生動物や家畜、人間とどのように関わり合っているかを詳細に調べて、人間とコヨーテの共生の道を探っています。
今まで人間は一方的に動物や鳥などを自分達の支配下に置くことを考えてきましたが、このプロジェクトの基本理念のように、動物や鳥をまず中心に置いて、人間がそれにどのように対応して共生していくかを考えるというやり方がこれからは必要とされるのではないでしょうか。
また、オハイオ州立大学の野生生物生態学の Stanley D. Gehrt 教授 は、著書 “Coyotes Among Us” の中で、「都市生活者にとって最も危険な動物は何かと聞かれたら、それは White-tailed Deer (オジロジカ) だと答える。過剰繁殖のため、シカは交通の妨げになるし、状況によっては攻撃的になることもある。(中略)都市の生態系において捕食は本当に重要なことで、コヨーテは、シカの個体数を減らすことができる唯一の動物として重要な役割を果たしている。」と書いているそうです。https://blockclubchicago.org/2024/04/09/coyotes-among-us-authors-tell-chicagoans-respect-but-dont-fear-these-smart-predators/
確かに、シカが道路に飛び出してきて車が凹んでしまったり事故になることがありますし、塀を飛び越えて庭に入ってきて、綺麗な花が咲くはずだった植物をムシャムシャと食べてしまうこともあります。私自身、耐鹿性の植物と明記された花や草を植えなかったために、庭を無惨な状態にされて泣かされた経験があります。
シカは見た目が可愛いからいい動物で、コヨーテは怖いから退治すべき動物。こういう単純な先入観で判断せずに、生態系全体を見てどう対処するか考えないといけないんですね。
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三匹のコヨーテを見たことから、Urban Coyote Research Projectの取り組みとGehrt教授の本のことを知ることができました。そして、先入観に惑わされずまず相手を知ろうとすること、また小さい事象だけにフォーカスせずに全体を俯瞰することを忘れないようにすることの大切さを改めて考え、心に留めておきたいと思っています。
年初にこんな大切な気づきのきっかけを与えてくれたコヨーテ三匹に感謝です。ありがとう、コヨーテたち! Park 566で、ずっと元気でいてね。
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