「蛇と老婆の森」
我が子と信じてヘビを育ててた老婆がいた。森の奥で身を潜めて暮らしている。誰も近寄ることのない、孤独と暗黒が色濃く漂う辺境だった。
針葉樹が辺りをおおう炭火小屋にて、古びたセピアの写真には、誰だか忘れた見知らぬ青年が笑っている、変わらないままの笑顔が埃まみれで笑っていた。
我が子と信じてヘビを育てる老婆には、温いミルクを飲めない子供が憐れでならず、二つに分かれた舌を這わせる我が子の姿は不思議で不気味で気が向いては叫んだ。
樹々が葉を散らせるほどの絶叫、かすれたノコギリの軋む声、鳥たちが森を去ってゆく。
我が子と信じてヘビを育てる彼女には、いくつになっても立たず話さず地を這う子供が恨めしく、嘆き悲しみ、毒入りのミルクを与えようと、眠る前の「我が子」を見ては涙を流した。
育ったヘビはそれが毒入りだと分かったうえで舌を出した、そして枯れ枝のようやな老いた母である老婆に巻きつく。
終わりがきたよ。
そう呟いて、彼女を丸ごと飲み込んだ。
森は焼かれた、老婆とヘビは誰にも知られないまま、灰になってそして終わった。その悲劇はいつまでも経つも寓話となって、かつての森には生きたヘビが寄りつかない。
永遠の終わりがかの地を包む。
photograph and words by billy.
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