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「ファントム」

雨の日なのにポリエステルのシャツを着て、
折れた傘をぶら下げている、
ロールスロイス・ファントムに、火がつけられるのを黙って見てた、

明け方よりも見開いている、睫毛に青い滴、
泥水が流れる裂け目の先に拡がる孔、
渡り鳥たちは声なく東へ突き刺さった、

ロールスロイス・ファントムが吐き出す炎、
雨なのに鎮火しない、その様子を嬉しそうに見ている子供、ぬかるむ路傍に飛び込んだ、
最後の朝を迎えた老父はわざわざ椅子まで持ち出して、
火を放たれた、ロールスロイス・ファントムを眺めてる、

太陽は雲の向こう、冷ややかに地上見下ろす、
今日はもう眠ろうと、燃え落ちつつあるロールスロイス・ファントムが、
溶けてゆくのをじっと待ってた、
ガソリンタンクに火が点いて、間もなくそれは爆発するって怒鳴り散らす拡声器、
人々の、営みに呆れたふくろうたちは森へ帰るとホーホーホー、
ほら車体がかたちをなさなくなってゆく、

爆発するぞとビルの影に駆け行く少年、
その子に手を握られて、駆け出しサンダル忘れる少女、
垂れ下がる万国旗、覚束ない光を保つ水銀灯、
その下の、ロールスロイス・ファントムには昨日死んだ独裁者の骸が乗っている、
裸足でまで駆けつけた、眺める人の嬉しそうな笑顔を俺は、
忘れようと思ったけれど、研ぎ澄ませて思い出すだろう、
亡霊が、煙になって雨の中、
神が待たない天上へと昇ってゆくよ、

photograph and words by billy.

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ビリー
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