【写真】(let's)get our #slowlight
「おひさまの季節」
春の雨、それは夜の孤独が零す、
数滴足らずの涙にどこか、
似ているようだと精霊たちのおしゃべり聴いた、
羊たちは背を向け夕へと歩を進め、
犬は追わずに揺れる葉の下、眠り続けた、
天上は、透き通らぬ冷たい青で哭いている、
それから君は、それから僕は、
家に帰って見慣れた映画を観ようとうなづく、
例えば、「ジョゼと虎と魚たち」、
それがいいねと微笑む横顔、
子供のころ、いまや恨めしい生家には「いつでも捨ててやる」と笑顔を浮かべる男がいた。気分次第でゴミのように扱われ、ときにはカギをかけられた。
僕は、行く場所を探していた。ここではないどこかへ。しかし、いざ、どこかへ行けば、見つけ出されて、連れて帰らされた。追い出すのに、捕まえて叱るのだ。
やがて、成長した僕は、タバコを買いに行く、とだけ言い残して、友人のいるところで寝泊まりして、三日や四日、ときには一週間、帰らなくなった。父親は母親を口汚く罵り、やがて、母はストレスだろう、病気になり、苦しみ抜いて死んだ。母の病中とその死後、父はその牙を僕に向けた。
生ごみ。くず。負け犬。
帰宅するたびに罵られたものだ。そのくせ、嫌われたくない妹には、子犬のように甘えた声を出す男だった。
僕にとって、生きるとは、最初から生存を賭けた戦いだった。
「捨てられるべき人間なんだから、君は父親を捨てればいい」
友人、知人、血縁者まで。誰もがそう言った。なかなかできなかった。でも、いざ、やってみれば簡単なことだった。入るお墓はなくなるけれど、そんなものなくていい。二度と戻らないと決めて、どこか遠くへ、好きな土地へ行くだけのことだった。
呪縛から解き放たれたら、きっと意外に澄んだ景色が見える。海はどこまでも透き通り、静かで、激しかった。
それなのに。
思い出してしまう。後悔はしていない。もっと早く、ずっと前に、そうするべきだった。そうできずに過ごした時間のことは悔いる。何年を、何十年を無駄にしてしまったのだろうという後悔だ。時間は返ってはこない。耐えるなんて、時間の無駄なのだから。
乗り越えて、踏みつけ、その影に火を点けて、元に戻らないように、その魂までを灰にして、その炭までを焼き尽くさなくてはならないことがある。
過ぎた日々に舌を出し、ありったけの嘲りを込めて、にやっと笑って、小便だって引っかけてやれ。
それから、ビールを、ハイボールを飲もう。サンキュー、アサヒビール。サンキュー、サントリー角ハイボール。
正直者って、嘘をつかない人のことじゃない。嘘を見抜く人のことを正直者と言うのかもしれない。
僕はとても正直者だから、それがよくわかる。
鈍臭い真実より、華麗な嘘のほうがいい。
華麗な嘘は、真実そのものに気づかせない。
だって。真実なんて、どこにもないんだから。
君が思う真実なんて、どこかの誰かが作ったまやかしなんだから。
学生のころ、西村良太という友達がいた。
良太は学生寮に住んでいた。閉鎖された病院の、入院設備をまんま利用している寮だった。良太の部屋は、鉄格子に封鎖された渡り廊下の向こうにある、隔離された棟だった。
小さな部屋にたくさんのレコードを飾っていた。レコードはあくまでインテリアだったが、クラッシュやラモーンズや、あるいはダムド、ブルーハーツ。良太自身もときどき、レザーのライダースを着ていたので、
「良太はパンクが好きなんや」
と、訊ねてみた。それに対して、良太は、
「パンクって。パンクってなに?」
良太はパンクロックを知らなかったのだ。わけがわからない。
天才には敵わないと、つくづく思った。
photograph and words by billy.
【おまけ】
この目って、手術していて、人工水晶体が入ってるんです。酷い近視だったけれど、いまは1.5くらい視える。老眼になる心配もない。
でも、近視、遠視に対応した遠近の水晶体なので、中間が視えにくいんです。ちょうど、パソコンを眺めるくらいの位置関係。中間鏡というメガネは作っているんですけど、まあ、見事に使わない。
日常でいちばん見づらいのは、足の指の爪切りのとき。ぼんやりしてしまう距離なので、なんとなくの感覚で切っている。たまに爪先を切ってしまって、血を見ては「ひー」と言っております。
それでは、また。ビリーでした。