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「ラーズに会いに」

夏を間近な日照りのあまりの激しさに、
昨日今日明日、目をしかめるだけの無力よ、
喪失しながら狼狽え続けるやわな記憶が、
いつか見た気がする草原へ、
走り続けた犬と羊と白いシャツを繋ぎ止めては止まらせようと掴む影、
焼け野をうろつく肋の浮いた野良犬たちは、逃げ場に屋根に十字を保つ荒屋へと軽い軽い躰で這うのさ、
サイレン鳴ったら残念だけれど焼夷弾が落ちてくるから、この地の生き物すべて灰になるまで焼かれるぞ、
逃げろ逃げろと僕は叫んだ、泣きながらも叫んだはずさ、
巡礼者が焼き落とそうと火を放つ、地獄を作っているのは他でもないヒト、
ほら、いま、犬は焼き払われて、その尾に火がついたまんま蹴飛ばされたよ、
その泣き声に笑っているのがヒトの姿だ、俺はもう逃げないぞ、
君の笑顔に火を点けようと、暗闇からほくそ笑んでる誰かもいるんだ、
君を追う悪い誰かの夢なら死ぬまで見てしまうだろう、
それでもいいさ、夢なら目覚めて悪夢だったと笑えばいいんだ、
呪いの言葉を振り解こう、
生きている、それだけで、祝福だって受けられるんだ、俺はずっとそれを知ってた、
春の始まる木漏れ日は、日陰の色も深く濃くなる、そこには日向に出てこない、
穢れてしまった魂たちがこっちに向かって息を潜める、
ほらいま舌舐めずりをして、細めた眼が俺たち見てる、
どうにもやわな魂と、鍛えたところで所詮は脆い身体で、それでも生きてゆくしかないのが俺たちなんだ、
光を一筋、見つけただろう、それを手にするのはまだしばらく先だろう、
「さあ行こう」ってラーズが鼓舞した、
それから君は、それから僕は、
海へと向かう汽車に乗るのさ、
流星つかみに走って来た人々と、骨を流しに歩いてきた若い父娘と、
ありとあらゆる祈りと願いを持ち寄り魂たちが集まる海へ、
やがて来る、光をつかむ旅に行くんだ、
祝福は、歩き続ける未来にあるんだ、世界の果てでビールを飲もう、
ラーズが御崎で笑っているから、
見つけたぞ、永遠を、それは、
人がつくる物語のなかにあるんだ、

#slowlight
photograph and words by billy.

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ビリー
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