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ライバルは「逃げ恥」だった?新垣結衣と星野源には、かないません。

 birdfilmの映像作家、増田達彦です。
テレビ番組を作り続けて43年。日々作っては消えていく泡沫(うたかた)のような番組作りが生業のため、今まで賞とはほとんど縁のない私でしたが、それでも数回「賞」なるものを頂いたことがあります。今回はそんなレアなお話を一つ。

 数年前、CBCテレビのお仕事で、伊勢神宮の背後に広がる「神宮宮域林」と五十鈴川の自然を1年間密着取材し、ドキュメンタリー番組を作らせていただきました。
 五十鈴川というのは、内宮正宮へ参拝する前に手を洗い清める御手洗場(みたらし)を流れる川です。

伊勢神宮内宮の御手洗場(みたらし)と五十鈴川

 「神宮宮域林」は、その五十鈴川の源流の森で、一般の人は決して入る事が許されない、広大で神聖な森です。

 

神宮宮域林の一部

 この森に取材で入る事の許されたのは、私と、ADのF君、CBCテレビのプロデューサーのS氏の三人だけ。S氏は他にもたくさんの番組を担当しているので、毎週通ったのは、私とF君の二人だけです。ネイチャードキュメンタリー番組の撮影としては信じられない少人数です(某公共放送なら最低でも8人~10人のスタッフで撮影するでしょう)。 
 しかもCBCテレビとしては初の4K映像ドキュメント作品。ところが、道なき道や水中撮影もあるため、PRO用の大きな機材は持ち込めず、ミラーレス一眼レフのLumixGH4(パナソニック)をメインカメラに、Goproなど、とにかく小型軽量の機材を駆使して1年間、取材・撮影させていただきました。   時に激流に溺れそうになり、道なき道で転んでろっ骨を骨折し、マダニに噛まれて死の恐怖を味わうといった、非常にスリリングな撮影でした。

五十鈴川の源流の一つの洞窟
五十鈴川最上流域での水中撮影

 で、1年間の撮影後、過酷な編集作業や音楽、ナレーション入れ(MA)も終え「伊勢神宮・神々の森~五十鈴川を行く」というタイトルで放送されたのが2016年11月3日。
 

番組の宣伝用絵はがきより

 その翌年、出品された様々な番組コンテストの中で「日本放送文化大賞」というのがありました。なんでも、その年のテレビやラジオで放送されたすべてのジャンルの番組の中から一等賞を選ぶ権威ある賞らしく、東京都心の立派な会場で、盛大に催されました。司会はTBSの安住アナとテレビ朝日の宇賀アナ。時の安倍総理のビデオメッセージも流れる、それは賑賑しいセレモニーでした(タイトル写真)。

 それ以前から「日本民間放送連盟賞」というのはあって、それはドラマ部門とか教養部門とか報道部門とかに分かれていて、私も含めbirdfilmとしていくつか賞を頂いたことはあったのですが、「日本放送文化大賞」というのはその時初めて知りました。
 この大賞は、まず日本各地で予選みたいなものがあり、中部北陸地区大会で、なぜか最優秀賞をいただき、全国大会へとコマを進めることになったのです。
 
 そもそもこの番組は、スタッフ3人で細々と撮影し、神宮の厳かな神事以外では人間は一切出てこず、出てくるのは虫や魚やカエルや鳥、花といった生きものたちだけ。
 
 そんな生きものたちが主人公で、メインの語り(ナレーション)も、地元三重県の女子高生という質素な作りの番組だけに、大それた賞などそもそも想像だにしていなくて、予選に出していただけるだけでありがたい限りだったのですが、数ある中部地方各局選り抜きの素晴らしい番組の中で大賞に選ばれ、全国大会、すなわち、「日本放送文化大賞」に進むことになりました。

 そしてコンテスト当日、まず日本民間放送連盟の受賞作品の発表・表彰があり、ドラマ部門の最優秀賞は「恋ダンス」が一世を風靡したTBSの「逃げるは恥だが役に立つ」でした。
 ドラマもドキュメントも、そんなメジャーな錚々たる番組が並ぶ中、いよいよ日本放送文化大賞のノミネートの発表。全国の地区予選で選ばれた番組が紹介され、我らが最少人数ロケ番組(ただし音楽はすべてオリジナル曲で、ホールを借り切って楽器演奏を録音した5.1サラウンドの素晴らしい楽曲)「五十鈴川を行く」も賑賑しく紹介されました。

ノミネート作品の発表

 いよいよ大賞の発表です。コンテストにありがちなドラムロールとムービングスポットライトののち、グランプリに選ばれたのは山口放送のドキュメンタリー。準グランプリも、山形放送のドキュメンタリー。
「五十鈴川を行く」はまったくカスりもしませんでした。
 
 まあ、撮影・編集・監督としてコツコツ作って来た人間としては、(当然の結果だろうなあ、だって人間出てこないんだもん、虫や魚や花や鳥だけではね~、)と素直に思ったのですが、後から聞くと、この「日本放送文化大賞」というのはこの年が最後で無くなってしまう賞だったらしく、中部北陸地区代表に選ばれただけでも記念すべき事でした。
 厳密には同じ土俵での賞ではないとはいえ、こうした賑賑しいセレモニーでは、やはり画面いっぱいで繰り広げられる「逃げ恥」の新垣結衣の演技や「恋ダンス」の可愛らしさにはかなわないなあ、やっぱテレビのエンタメの主流はこれだよな~、と実感した次第なのであります。

 とはいえ「五十鈴川を行く」は、4K徳島国際映画祭大賞、シカゴ国際映画祭で入賞、ニューヨーク・フェスティバルNature&Wildlife部門での銅賞など多数の賞を国内外で受賞。CBC-TVと共に、これら身に余る賞を弊社birdfilmも多々いただけたのは、本当にありがたい限りです。
 
 一緒に森の中でマダニやヤマビルに襲われながらも撮影してくれたSプロデユーサーやADのF君、ドローンを飛ばしてくれたMさん、深夜の神事を撮影してくれたCBC技術やCBCクリエイションのカメラクルーのみなさん、雑多なコーデックの4K映像をグレーディングからコツコツ仕上げてくれた編集のAさん、サウンドデザインを統括してくれたSさん、素晴らしい音楽を作曲してくれたHさん、ピアノなど多種のアコースティック楽器を演奏してくれたみなさん、その音を丁寧に録音してくれたNさん、そして、ナレーションのTさんとCBCのOアナ、賞に応募してくれたCBC編成など各部署のみなさん、そして、神聖なる森の中の撮影を1年間許可していただいた神宮司廳広報部と営林課のみなさん。
 そんな多くの皆さんの想いや努力が、こうした作品に実り、世界からも評価いただける結果に結びついたのは間違いありません。
 この作品に関わっていただいたすべての人々、いや、被写体となってくれた生きものたちすべての受賞なのです。

ニューヨーク・フェスティバルの受賞楯

 私としては、伊勢の森に棲む地味で小さな生きものたちのささやかな日々の営みが、神宮の神聖な神事とともに、多くの人々の目に触れたことが、何より嬉しい事でした。
 だって、湧き水の中に棲む小さなカゲロウやカワゲラの幼虫たちが主役になる番組なんて、他にないですもん。ね。

黄金色に輝くカゲロウの幼虫の一種


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