戦略デザインファームのデザイナーが探求する、イラストレーションの可能性
意思ある道をつくり、希望の物語を巡らせる──。
これは、BIOTOPEのミッションです。さまざまなプロジェクトの根底にあるこのミッションを遂行する上で、デザインは欠かせないものだと考えています。
本記事では、ビジネスデザインや理念浸透、組織開発におけるイラストレーションの役割とデザイナーに求められる資質を探索するため、BIOTOPEのデザイナーである松浦桃子と永井結子の対談の様子をお届けします。BIOTOPEにおけるイラストレーションの可能性から、デザイナーという職種の一つの形を見せられたらと思います。
BIOTOPEにおける、デザイナーの仕事とは?
永井 プロジェクトでは、ビジュアライゼーションを通じてクライアントの考えを引き出し、具現化することを行います。最終制作物の形はさまざまですが、プロジェクト全体を通じて頻繁に行うのはイラストレーションです。
なにをイラストで描くかというと、クライアント企業の未来の姿や、事業を通じて創り出したい社会のシーン、いわゆるビジョンマップと呼んでいるものがあります。ご相談の内容によってなんの未来像をどのような目的で描くかは変わりますが、ひとつの例として長野県白馬村のビジョンマップを紹介します。
白馬村は、サーキュラーエコノミーの考えを取り入れたまちづくりに挑戦しています。ビジョンマップには自然と人間の活動の循環を表していますが、これは村内外から集まった人たちの対話からシーンスケッチを描き、さまざまな変遷を経て統合したものです。
シーンスケッチは、参加者の考えを具現化するとともに、さらなる更新を促し、ビジョンマップは、多くの人にメッセージを伝えていく理念浸透の性格を持ちます。ミッション・ビジョン・バリューの策定プロジェクトでは、こうした目的で制作することが多いです。
松浦 プロジェクトでは、社内資料として概念図を描くこともあります。
弊社代表・佐宗の著作『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』の挿絵がその例です。このときは、執筆中の佐宗さんに表現したいことをヒアリングして細部を描きました。
日頃のプロジェクトでも、ビジネスデザインや組織変革のための思考のフレームワークを可視化するときに概念図を描きます。会社のエコシステムを描いたり、バリューチェーンを描いたり、経営ビジョンの構造図を描いたりしています。
デザイン、そしてBIOTOPEとの出会い
松浦 初めてデザインに触れたのは、高校3年生のときです。美術の授業で広告ポスターの制作課題が出され、ケーキ屋さんのPOP広告とメニューをつくりました。この経験はとても楽しかったです。デザインの道に進むことを決めたきっかけになりました。
永井 私は、グラフィックデザインをしたくて大学に入りました。ですが、実際にやってみると、グラフィックよりも文字のデザインが好きなことに気づき、さらに情報のデザインが好きなことに気づいていきました。今では、情報の構造化とコミュニケーションデザインを得意分野にして活動しています。
松浦 BIOTOPEで仕事を始めたきっかけは、情報デザインを専門とする研究者からの紹介でした。初めての仕事は、サービス開発のワークショップから出たアイデアの可視化。その後も、デザインの可能性を一つひとつ確かめながらプロジェクトに関わってきました。
永井 私は、株式会社ロフトワークでワークショップの企画運営やパンフレットや葉書などのグラフィックを主としたクリエイティブディレクション業務に携わったのち、グラフィックレコーダー及びイラストレーターとして独立しました。その後、インターンとして働いていたBIOTOPEでビジネスとデザインの領域に戻ってきました。
松浦 BIOTOPEでどんな仕事をしているかと聞かれると、一言で答えられず、いつも悩ましいです。イラストレーションの制作物に絞って、この機会に考えてみたいと思います。
まず、イラストレーターと違うところはなにかを考えると「徹底的な情報の整理と翻訳」があります。ワークショップや打ち合わせに参加し、イラストにすべき内容を見つけ、整理して構造化しています。
永井 そうですね。そう聞くとグラフィックレコーディングに近いと思われるかもしれませんが、違いはイラストレーションの「即興性」です。情報を整理して図示するのは同じですが、人の動作や感情のシーンで情報を伝えることの比重がより高く、結果的に解像度高くスピード感をもって描くことが求められます。
永井 プロジェクトでは具体と抽象を行き来しながら、クライアントが実現したい未来や組織文化など、目に見えないものを議論しています。
イラストレーションは具体、つまりプロトタイプの役割を担うことが多いです。エンジニアもプロトタイプをつくりますよね。要件定義をもとに動くものをつくってみて、改修していくのと似ています。
例として、参天製薬株式会社と日本ブラインドサッカー協会のビジョンマップとラフ画を紹介します。
ビジョンマップは、クライアントの想いの現れです。意味のないものは描きませんし、一つひとつのイラストには誰かの想いが込められています。ワークショップやクライアントとの対話を重ねながらシーンと構図のスケッチを繰り返し、仕上げていきました。
松浦 もう一度、イラストレーターとの違いはなにかに立ち戻ると、「絵柄を変える」ことも私たちはやっています。
永井 そうですね。それを深掘りする前に一つだけ、私たちが描くイラストは質朴な、飾りけのない絵柄であることをお伝えしたいです。英語を日本語に翻訳するときに、意訳しすぎないことが大事だったりしますよね。ふとした言葉や、まっすぐな思いがそのまま表れるように描いています。
絵柄を変えるのは、そのうえで「クライアントが自分たちの物語を語ることができる」ことを重視した結果です。
松浦 人工流れ星を創る宇宙スタートアップ ALE のビジョンマップがよい例かもしれません。
ALE は人工流れ星というエンターテインメントのためだけでなく、科学の発展に寄与することにも情熱があり、その想いを社内外に伝えていくことを考えていました。ビジョンマップには、宇宙を舞台に実現していきたいことを時間軸とともに描きました。初めてこの会社を知った人たちにも、ALE の物語が伝わってくると言っていただきます。
永井 ビジョンマップは、理念を社内外に伝えるために使われますし、クライアントがステークホルダーを巻き込むときにも使っていただいています。会社の物語を語ることは、ステークホルダーにも物語を構成するいちプレイヤーとしての役割を理解してもらうのに役立つからです。
日々行う業務は苦労の連続かもしれません。ビジョンマップで目指す先を確認し、わくわくし、歩み続けてもらえたらと願っています。そのためにも、ビジョンマップを使う人たちが自分の物語として語れることを大切にして制作しています。
ビジネスのファシリテーションによって引き出されたものを、異なる形で改めて表現する。そんな翻訳者として、クライアントに寄り添うのがデザイナーの仕事と言えそうです。
なぜビジネスのプロトタイピングに関わり続けるのか
松浦 実は、仕事とは別に、コミックアートやファインアートと呼ばれる領域の創作活動をしていますが、絵のテイストは全く違います。
なぜビジネスのプロジェクトをやっているかというと、初めてこの仕事に出会ったときに、イラストレーションの可能性に好奇心が沸いたから。
イラストがビジネスの場で役立つことを知って、この領域で活躍するデザイナーとしての希少価値を感じました。実際にやってみたらできちゃった、というのもあります。ほかの人がやっていない面白さを見つけたと思います。
永井 私がビジネスのプロトタイピングをやっているのは、自分が携わる意味を大切にしたいからです。依頼された内容をもとに制作するクリエイティブも楽しいですが、それだけだと、心がそわそわしてしまうことがありました。今振り返れば、社会の誰かのためになっていることを実感したかったのだと思います。
BIOTOPEでは、企業の上流の議論に触れることができます。制作を受注するだけでは見えない、水が湧き出る源泉を見ているような感覚があります。
しかも、この源泉の周辺には、デザインの可能性がたくさんあることも分かりました。コミュニケーションデザインによる介入やブランディングの提案、グッズなどのプロトタイプ制作もあります。こうした様々な仕事も総じて、楽しいです。
永井 社会を見渡すと、誰かにメッセージを伝えること一つをとっても、もっとうまくやれるのではと思うことがたくさんあります。今後は、イラストレーションに加えて、相手の内側から想いを引き出していくファシリテーションもやっていけたらと考えています。
松浦 私は、大きな企業が変化することから生まれるインパクトの大きさに、いつもわくわくしています。この組織は変わらない、と諦められていた会社でも、プロジェクトを通じて兆しが見え、希望となるビジョンに向かって進んでいくのを見てきました。社会がよい方向に変わるかもしれないという期待を、これからも感じていたいです。
そのために私自身も、グラフィックデザインや、デザインを用いたコミュニケーションの可能性にさらに働きかけていけたらと考えています。
BIOTOPEでは、ビジネスとデザインを横断してプロジェクトを組成し、クライアントに伴走します。イラストレーションのほかにも、ビジネスにおけるデザインの可能性は豊かにあります。今後もさまざまな強みを持つデザイナーと共に、自分たち自身の可能性と、ビジネスの変容、ひいては社会の変容をもたらしていきたいと考えています。
BIOTOPEのデザイナーにご興味がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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Interview & text by Momoko Imamura
Photographs by Kosuke Machida