飼育日記「めだかのきもち」㉚水の中は凪
朝、メダカ鉢を覗くとあちこちの水草の下から顔を出して、一斉に勢いよく回遊を始める。
浮かんでいるゴミをつまんだり、伸びすぎた水草をトリミングするために手を突っ込んでも警戒する様子は全くない。
唯一、サッと逃げ出すのは、メダカを移そうと網やお玉を手に取った時である。
メダカは名の通り、目の位置が高いので上部の情報を素早くキャッチする。
感心するのは、飼育者が覗き込めば、ごはんだ!ごはんだ!わーいわい!、網を見れば、ヤバイ!逃げろ!、と瞬時に判断することだ。
網を何度か差し入れているうちに、群れの中で狙われているのは自分だと察知するフシもある。
本能なのかもしれないが、知性とも感じられる。
そこでまた妄想が膨らむ。
文鳥が手乗りをするなら、メダカはどうだろう。イルカのように、水の中で人間と戯れたいメダカがいないとも限らないのではないか。
手始めに掌を水に沈めてみる。
最初遠巻きにしていた稚魚が、徐々に近づいてきた。1匹が掌の上を通り過ぎる。やがて数匹が手のひらに集まってきた。
指を広げて立てると、指の間をすり抜ける。指の腹を口でツンツンするメダカも現れた。
親メダカたちは賢明に遠くで迂回する。インコも文鳥も雛のうちから信頼を築かないと手に乗せるのは難しくなるという。
まずは稚魚に期待しよう。
小指の爪に何かが触れた。ヌマエビが爪の先につかまってホジホジしている!
目を凝らすと、周囲の足で体を固定し、内側の足(手?)でせわしなく何かを掻き取ろうとしている。華奢なボディにして意外と強いグリップ。こんな風に彼らは苔を掻き込むんだ。
くすぐったいので指を振ると離れるが、すぐにまたやって来て指を登ったりしている。水草に触れただけで瞬時に姿を消してしまうあのヌマエビが何と!初日に手乗り成功!
…夏の波乱万丈が夢のようだ。
地震は怖かったけれど、水の中は凪である。
10. 8