全国学校・園庭ビオトープコンクール2023報告書から(後半)
全国学校・園庭ビオトープコンクール2023の上位5賞のうち、文部科学大臣賞(福島大学附属中学校)と、環境大臣賞(堺ひかり会登美丘こども園)の紹介を前回しました。今回はその後半になります。各賞に優劣はなく、今回も、素晴らしい活動です。
国土交通大臣賞・・・千葉市立稲毛第二小学校
千葉市立稲毛第二小学校は、特に人と自然が共存するまちづくりとのつながりが秀でている点での受賞です。
学校は海を埋め立てた住宅街に位置し、校庭の一部にあたる1000㎡の面積が、池、小川、草地、森、湿地帯を含むビオトープ(いのちの森)です。周囲に自然がないので、同じ流域の里山から土壌や樹木を運びこみ、新しい里山環境をつくりました。すでに2001年、文部科学大臣賞をとっています。
ビオトープには、現在もヘイケボタルやアカガエル、モクズガニが生息するといいます。20年以上も環境を維持していることは特質すべきことです。この間、いろいろな問題も起こりましたが、その都度改善が図られています。例えば、ニホンアカガエルが見られなくなった際には、草地の野草の刈り取りが、餌のバッタの減少を招いたと考え、野草を復活させました。その後またカエルが産卵し、鳴き声が聞こえるようになりました。年々、コナラなどの樹木は大きくなるので、切って萌芽更新を促しています。
これらの活動は、「PTAいのちの森保全委員会」、学校ビオトープ支援団体「グループ2000」の継続的なかかわりが支えています。10年ほど前、高校の教員グループと実際に訪問し、支援している方にお話を伺ったことがあります。海を埋め立て市街化した場所に里山を創出したことで、子どもたちはさまざまな自然体験ができ、いのちのつながり、大切さを学び成長すると語ってくれました。
同じ地区の小中学校にもビオトープがあり、生物の行き来も観察できます。長年の活動で地域の拠点になっていて、環境を大切にする卒業生などの人のつながりも生まれています。
ドイツ大使館賞・・・ 学校法人東京内野学園 東京ゆりかご幼稚園(八王子)
東京ゆりかご幼稚園は、特にユニークな学習・体験活動を行っている点を評価されての受賞です。
東京都八王子ニュータウンと特別緑地保全地域に囲まれた自然豊かな場所にある幼稚園です。恵まれた環境を利用した里山教育の実践を行い、ユネスコスクールの認定を受けています。園庭全体が田んぼ、池、小川、草原、森の5つのビオトープになっています。すでに2015年ビオトープコンクールで国土交通大臣賞をとっています。
森のビオトープに隣接した木々でムササビを見つけたことがきっかけで、さまざまな活動が展開されていきます。保護者の協力を得てムササビを観察するために夜間にテントを張りました。専門家に話を聞き、ムササビのための巣箱を設置し、さらに観察用にツリーハウスの設置もしました。
ムササビの住む森を守りたい
巣箱にムササビがすむようになって、滑空するようすも観察できました。園児たちは会えた喜びを表現したくなり、歌や劇をつくることになります。そこでは園児が作詞、セリフや振り付けを考え、大道具をつくるようになりました。
巣箱にカメラを取り付けると、ムササビの生活のようすが観察できました。ムササビの生態がわかってくると、天敵に襲われないような対策を考えるようになりました。ナラ枯れで減った樹木を増やすためにどんぐりを育てたり、ムササビの生息できる森づくりにも関心が及ぶようになってきました。
園児たちの森の認識が、遊び場としての森(愛着へのめばえ)、ビオトープとしての森(生き物への関心)、ESDとしての森(大切にする行動)へと変容していきました。
これらの活動も、保護者・卒業生、小学校、八王子市、大学、NPOなどと連携をして成り立たせています。特に「おやじの会」はツリーハウスの設置など全面的な協力が大きいと思いました。
日本生態系協会会長賞・・・大阪市立瓜破西小学校
大阪市立売破西小学校は、特に地域とのパートナーシップの観点で秀でている点を評価されての受賞です。
校内にグランド以外に、「アトリパーク」と名付けられたエリアがあります。池や小川、草地、湿地などが設けられている、かなり広い面積を有する学校ビオトープです。(「アトリ」は飼育しているヤギの名前です。)
ビオトープでは4つのつながりを重視しています。
1 自然とつながる・・・自然とつながることで学習する
2 人とつながる・・・・地域や保護者、多様な分野の専門家とつながり、子供たちにとって価値のある出会いの創出する
3 学びをつなげる・・・・・ビオトープでの活動で生まれる疑問や課題は主体的な探究的な学びの生み出す
4 心をつなげる・・・・・・ビオトープで展開される多様な活動は、子供たちが活動する場を与えてくれる
アトリパークでの活動は?
それぞれの具体的な活動は、
1 自然とのつながり・・・お米作り(6年生)、在来種エリアの環境整備(5年生)、河内木綿の栽培・糸紬・染色体験(4年生)、ヤギのアトリとの世話などを行っている。
2 人とのつながり・・・教職員・保護者・地域住民からなる「瓜西ネイチ ャークラブサポートネット」が小学校と協働し、専門家、大学生、企業、他校・他園などとの出会いの場を作っている。
3 学びとつながる・・・課題解決学習(5年生)では、ビオトープを観察し課題を見つけて解決にむけて活動している。
4 心をつなげる・・・子供たちが属する「瓜西ネイチャークラブ」で、ビオトープの環境整備やアトリの飼育を子供たちが行います。落ち葉を集めて、アトリのふんと混ぜて堆肥を作る。堆肥で野菜を育て地域の方に購入してもらうクラブの活動費にする。園児や高齢者の癒しの場にもなっている。
受賞理由にあるように地域・外部のとのかかわりが強いように感じました。
学校・園ビオトープで大切なことは?
全国学校・園庭ビオトープコンクール2023報告書をもとに、上位5つの学校・園のビオトープの活動についてまとめてみました。
ビオトープつくりの経緯はさまざまですが、学校・園内部に組織があり、保護者や地域との連携を活発に行っていることは共通しています。必要に応じて専門家に助言や協力を求めています。ビオトープの継続性には、特に公立では、教職員は異動があるので、頼れる外部の組織・人の存在は必須かもしれません。また、小中学校に比べて、幼稚園・保育園の自由度の高さに感心しました。