
生物多様性シンポジウムの講師を務めました
2024年10月13日(日)、千葉県流山市が行っている生物多様性シンポジウムの講師を務めました。
流山市で活動している「NPOさとやま」が市から委託を受け、そこから私に話がありました。昆虫を中心に生物多様性の大切さについて話してくれないかということです。
以前にも、親子向けに同じ会場(おおかたの森センター)でお話をしたことがあります。今回は親子連れは少なく、大人、特に男性が多いようでした。
この日のシンポジウムは、私の話が40~50分、「NPOさとやま」の斉藤さんが現在おおたかの森で見られる昆虫のスライドを約20分、会場から出ておおたかの森での観察が30~40分。移動を含めて全体で2時間くらいでした。
私の話は、『魅力的な昆虫の多様性~私たちは昆虫なしには生きられない』という題にしました。「昆虫なしには~」は『サイレント・アース~昆虫たちの「沈黙の春」』からヒントを得たものです。この本については以前noteに書きましたので、よかったら見てください。
話の内容は
スライドを使って次の内容で順に話を進めました。
1 昆虫の多様性について
2 あらためて「生物多様性」とは
3 今、昆虫は世界で減少している
4 私たちは昆虫なしでは生きられない
5 私たちに何ができるか
それぞれの内容を紹介します。
1 昆虫の多様性について
昆虫は非常に多くの種が生息しています。全生物の半分以上が昆虫というデータもあります。日本には、チョウ、ガだけで6500種、カメムシが3800種、ハエやアブは7600種、甲虫に至っては14500種も見つかっています。地球は「昆虫の惑星」という研究者もいます。種が多い理由は、翅の獲得、変態、繁殖力の強さなどがあげられます。
2 あらためて生物多様性とは
次に本題でもある生物多様性についての説明です。1992年リオでの地球環境サミットで「生物多様性条約」が採択されました。「生物多様性」には、「遺伝子の多様性」、「種の多様性」、「生態系の多様性」の3つの階層があります。
同種内で「遺伝子の多様性」であるほど、天敵から逃れる可能性が高くなります。例えば翅は、色に変化があれば、見つかりにくい個体もあり、その分、生存の可能性が高くなります。「種の多様性」が高い生態系は安定しています。ある一次消費者が激減しても、ほかに一次消費者がいれば、二次消費者は生き残れます。「生態系の多様性」については、北海道でニシンが減少したのは森の伐採が関係してます。森の恵みが河川の上流から下流に行き、河口から浅い海へたどり着きます。沿岸で育つ稚魚に必要な栄養分の供給を受けているので、森が無くなると栄養分の供給もなくなります。森の生態系と浅海の生態系はつながっています。
つまり、「遺伝子の多様性」、「種の多様性」、「生態系の多様性」の3つの階層は互いに関連があり、どれも大事です。
3 今、昆虫は世界で減少している
長い間の昆虫の調査の結果、世界的に昆虫の減少が明らかになっています。ドイツの自然保護区での調査は、27年間、63箇所で実施したものです。76%も減少していたことがわかり、世界の研究者に衝撃を与えたようです。ミツバチや赤とんぼの減少は日本でも明らかになっています。先ほど(2024年10月)報道された「モニタリングサイト1000」でもスズメ、イチモンジセセリといったごく普通にいた動物も急速に減っていることがわかりました。

4 私たちは昆虫なしでは生きられない
これは昆虫が好きな人、一部のマニア?の話ではありません。例えば昆虫がいなくなるとチョコレートは食べられなくなります。カカオは虫媒花なので、果実が実らくなります。ほかにイチゴ、リンゴ、唐辛子、カボチャ、トマトなども虫媒花です。
「おおたかの森」ではヒラタシデムシをよく見かけます。森のお掃除屋さんです。死んだ虫やミミズなどを食し、生態系の中で分解者の役割を果たします。昆虫を食べる二次消費者も多く、生態系の中で昆虫はなくてならないものです。
夏のホタル、秋の虫の声・・・昆虫を通して四季の変化を感じるなど、生活を豊かにしてくれます。
SF映画「宇宙戦争」や「インディペンデンス・デイ」では宇宙からの侵略者が登場しますが、ヒトよりも前に、ほとんどの生物がすでに存在していました。それらの生物にとっては、ヒトが新参者で地球の侵略者なのです。
5 私たちに何ができるか
昆虫が私たちの生活に必要なら、昆虫がこれ以上減らないようにしなければならなりません。
先ほどから紹介している『サイレント・アース』は、第5節「わたしたちにできること」と題して、17章「関心を集める」、18章「都市に緑を」、19章「農業の未来」、20章「あらゆ章場所に自然を」、21章「みんなで行動する」でそれぞれ具体的に提案しています。
今回のシンポジウムでは、3つの例を紹介しました。
一つは「NPOさとやま」が「流山おおたかの森」で実施している活動。「関心を高める」については、観察会や小学校との連携、まさにこのシンポジウム。「都市に緑を」については、森の維持管理作業や県立公園化を後押してきた活動もこれにあたります。
二つ目は、流山市が「自然共生サイト」に登録をめざし、市内の高校や小学校と協働で昆虫などの調査をしていること。私も調査に協力しています。
三つ目は、自宅の庭やなど身近なところでみどりを残すこと。草を全部ぬかず、少しでも残すとか。
昆虫のスライド
私の話の後は、「NPOさとやま」の理事で、日ごろからここで昆虫や鳥類などを観察している斎藤さんが、撮った昆虫のスライドショーです。写真だけでなく、虫の鳴き声もあり、なかなか面白かったです。クマスズムシなど初めて聞くものも多く、新鮮な感じでした。日ごろ見ている人は良く知っています。
実際に昆虫を見に行く

このあと、おおかたの森センターから歩いて数分の「おおかたの森」(市野谷の森)に出かけました。林縁を通り、草地を中心に昆虫を観察しました。捕虫網や虫かごをもっているこどもたちもいて、見つかった昆虫を斎藤さんや私が解説する展開です。
実質30分足らずでしたが、ツチイナゴ、ミツカドコオロギ、オンブバッタ、コバネイナゴなどたくさん見つかりました。バッタ・コオロギ類の生息を期待して、草とりを控えている場所です。
少しでも自然(みどり)を残すだけで、昆虫が生息できることをシンポジウムの参加者は実感したようです。
(最初の写真は、理事の辻さん、最後の写真は理事長の岡田さんから提供していただきました。)