しゃくな話

付き合っている人から連絡が来た。
「今日暇じゃないです？」
台風の予報、強風注意報。
「今日バイトー」
連絡が来たのは嬉しい。
誘ってくれてるのも嬉しい。
でも、ちょっと、遺憾の意。

先月の約束、ドタキャンしたからその分誘うねって
言ったのになかったじゃん。
ねえ、外は台風って知ってる？
ずっと部屋にいたら分からないものですか。
「飛んでいけたらいいのにね」

月に1回会うか会わないか、みたいな感じで半年と少し。
周りからは「なんで付き合ってるの」とよく言われる。
連絡も少ないし、電話もない。
お互いに、お互いが忙しいからって軽く疎遠。
思うことがないって言えば嘘になる。
不安も怖さも寂しさもある。
でも、別にそれでも生活に支障はないのだ。
占いに行けば言われた。
「別れるのは今じゃなくてもいいけど」

次の日、付き合っている人に連絡をした。
「40分後、5分くれたりしない？」
飛んでいってあげよう。
仕方ないから。
そっけない返事に足を早めた。
40分後、あいつはちょっと怖い顔をして立っていた。
「何」
躊躇って、躊躇って、躊躇って
「ハグしてもらいたくて」

駅に向かう足に文句を言う。
「目的まだ果たしてないんですけど」
部屋の外は嫌だって、触れさえしない人だから。
諦めながらついていく。
「歩いてきたのに」
最寄駅は私鉄だから、いつも大きい駅から歩いていく。
それが大体40分なのだ。
だから察してくれてると思っていた。
あいつはびっくりして、機嫌良さげに笑った。
「5分の為に？」
5分の為に、飛んできましたよ。
あなたが台風の日に会いたいなんて言うから。

他人の目を気にして部屋の外では触れさえしないのに
外で初めて手を繋いで、ハグをして、キスをした。
「もったいないからまとまって来てよ」
もったいないくらいがいいでしょう。
私は遺憾の意なんだもの。

知らないでしょうけど、私が愚痴ったから。
私の友達みんなあなたの好感度はマイナス一直線なの。
ね、あなたも大概よ。
私のせいにしないでよ。
世間と違うとか、優しくないとか、ゴミとかクズとか。
どうでもいいんですよ。
「分からないなあ」
私だって分からないし、
「素直になればいいのに」
それだってお互い様でしょう？

でも、もう今日は許してあげる。
でも、少し遺憾の意だから。
鍋の角煮、焦げちゃえばいいのに。
（キスが煮物の味だったのは黙っててあげるから）