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Black Friday

金曜日の夕方は調子が悪い
この1週間もダメな自分だったと振り返ってしまう
仕事を休んで曜日など関係ない暮らしをしてもう1年も経つのに

金曜日の夕方はいつも調子が悪い
頓服薬が効くまでここに気持ちを書き留めておこう
冷静になったときに振り返られるように
ここは私の闘病記録だから
きっと許してもらえるだろう

金曜日の夕方は思えばいつも調子が悪かった
終わらなかった仕事の山を見てげんなりして
やる気を出せばすぐ終わるはずの仕事も先延ばしにして
結局終わらなかった
ああ自分はなんてダメなやつだって

明日は休みだからいくら残業して
自分を追い込んでも大丈夫だと
気合いを入れてブラックコーヒーを買って
みんながポツポツと帰っていくのを横目に
永遠に終わらない仕事を半分くるった頭でやる

花金だなんて世間は言うけど
土日も予定なんてないし
ただ横になっているだけ
だから
金曜日はいくらでも頑張れる

ガランとしたオフィスに書類の山
ブラック企業ではないから
深夜残業までは流石にしてないし
このくらい会社員なら普通だ
仕事が終わらなかった自分のせいだって

人臭さに混じったお酒の香り漂う地下鉄に乗って帰る
夜空を見上げる余裕もないままトボトボと歩いて帰る
真っ暗な家に着いて食べる気力もなく
ボーッとして夜中まで眠れずにいる
遠くに響くどこかの談笑
酔っているのかいつもより大きい

大丈夫 明日は土曜日だから
金曜日は眠れなくたって大丈夫
仕事から帰ってきた身のまま
何もせずただ時が経つのを待つ
土曜日の昼までただただじっと
大丈夫 夕方になれば少し調子が上がるから

愛さなければいけない人からの連絡を待つ
それは来ることはない
沈黙に耐えられず結局泣きながら
連絡をする日曜日の夜
あなたは悪くないのに泣いてしまったと
電話を切ってまた泣く

泣き疲れてようやく眠りにつく
そうしてまた新しい月曜日がやって来る

仕事をしているうちは気が楽だ
けれど効率がわるくて自分が嫌になる
自分を責めてまた金曜日がやってくる

私はそうやって
うつ病へのトンネルに向かっていった
俯いていたから気づかなかった
トンネルに向かっていることに

ずっと前から金曜日は変だった
仕事に行けてるからまだ大丈夫なんて思わないで
ある日突然それはやってくる

眠れない日やふと涙が出て止まらない日が
毎日じゃなくても時々やってくるなら
それはコップが満タンに近づいているしるし

私は無遅刻無欠勤にもかかわらず
ある日を最後に突然会社に行けなくなった
それも金曜日

来週やらなければいけないタスク
几帳面にデスクに積み残して
まさか翌週から行けなくなるなんて思わずに
綿密な計画を立てて会社をあとにした金曜日の夜

あの日曜日
めずらしく公園に一人で散歩に出かけた
季節は思いのほか進んでいて驚いた
俯いていた時の長さに気づいてしまった

楽しそうな家族連れを見てなぜだか涙が溢れた
メガネにマスクだからと人目も避けずにボロボロと
家に着いてからはもう動けなかった

なぜだかわからない
なんであの日に最後の一滴が注がれたのだろう

受診や相談や休職を迷っている人へ
まだ大丈夫と思ってるうちに思えてるうちに
何とか助けを求めてほしい

私の病いは良くなってきたけど
それでもこんなふうに
訳もわからないタイミングで
ドン底のような気持ちになる

休むことは恥じゃない
自分に正直になって現実を見つめて
堂々と休むことはむしろすごく尊い

現実から目を背けて元気な自分を
他人にも自分にも演じていても
それはいつか剝がれるメッキ

私は自分が病気だなんて
人に言われるまで気づけなかった
去年の今頃の自分に言ってやりたい
あんた早く病院に行けと

ここまでせっかく読んでくれたなら
周りの人やあなた自身のメッキの下の
中身を見てあげてください

そのままの姿と言葉をゆっくり
文字ではなく言葉を
言葉だけでなく姿を
なるべくありのままに

(ある最悪な金曜日の日記より)

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