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リアルタイムで変化するものを、一緒に作り上げていくワクワク感びん リユースへの「理解」を「体験」につなげるラップチャレンジの裏側

日本ガラスびん協会が行っているリターナブルびん・びんリユースの仕組みの価値を再発見・再定義する活動『SO BLUE ACTION』の一環として、2024年夏に『しよう!再使用!リターナブルびんラップチャレンジ』を実施しました。銭湯でリターナブルびん飲料を飲んで、びんを返したら、飲んだ人には10円が戻り、ラップの長さが1秒貯まる――すなわち、びんを返却すればするほど楽曲が長くなり、参加者全員でラップミュージックを完成させるイベントです。結果は415本のびんが返却され、6分55秒もの長さのラップソングが制作されました。
これまでにない“ラップ”という切り口で、多くの若者に関心を持ってもらうイベントを考えたのはタカノシンヤさん。J-WAVE(81.3FM)のラジオ番組『GRAND MARQUEE』のナビゲーターであり、音楽ユニット『Frasco』や『Coldhot』で作曲を手掛け、ダンスミュージックやエレクトロミュージックの制作に取り組んでいます。プランナー兼コピーライターとしても活躍しているクリエイターです。
今回は、世の中の流行の最先端で活躍を続けているタカノさんに、このイベントを考えた経緯と、びんリユースの仕組みを世の中に定着させていく上で必要なことをお聞きしました。

※『しよう!再使用!リターナブルびんラップチャレンジ』のリリースはこちら


ラジオナビゲーターとして日々、今の若者たちの感性に触れているタカノシンヤさん

サステナビリティを流行で終わらせないために

―ラジオナビゲーター、そしてクリエイターとして、今のサステナビリティへの流れをどのように感じていますか?

サステナビリティやSDGsといった概念や目標はとても大事なことだと思いますが、今は言葉が先行しすぎちゃっているようにも感じています。

ひと昔前に「エコ」って言葉がすごく流行りましたよね。今は、サステナビリティやSDGsという言葉がいわば流行っていることで、数年後には「今さらサステナビリティなの」という風潮になってしまうのではないかと心配です。

サステナビリティという言葉を、実体として生活に定着させていくプロセスが必要なのだと考えています。

―言葉を実体として生活に定着させるプロセスとは?

言葉は、その時代の生活の中へ定着していく過程で、変化をしていきます。例えば、「ヤバい」は江戸時代からある言葉とされていますが、肯定的な意味で使われるようになったのはここ30年くらいのようです。「CHILL」という言葉も10年位前からヒップホップの文脈で使われていましたが、一般的に使われるようになったのは4年くらい前からですね。

その時代に生きている人たちの感覚や行動が、ある時にある言葉とピタッとリンクすることで、その言葉は実体として生活に定着していくのかなと思います。

あと、使いやすさも大切です。
例えば、Googleで検索する行為が「ググる」、Zoomを使ったオンライン会話に誘う際に「Zoomしよう」と表現されるように、もとあった名詞が動詞や形容詞になることで、人の行動や感覚を表現する言葉に変化し、もとの言葉以上の広い意味を持つようになっています。こうなると、多くの人が使いやすくなります。

サステナビリティって、まだまだ言いにくいし、使いにくい言葉です。もっともっとみんなの生活の中で使われて、使いやすい言葉に変化していく必要があるんだと思います。

―サステナビリティという言葉を使いやすくするためのヒントはありますか?

ことわざみたいに教訓的な意味合いを持てるといいかなと思っています。現代に新しいことわざができるって想像しにくいですが、ことわざのようにみんなの生活の中に定着していく言葉は生み出し続けられています。
例えば「諦めたらそこで試合終了ですよ」とか。
漫画や映画、歌などストーリーとか文脈が存在するコンテンツの中で使われる言葉は、みんなの心に残りやすいし、定着していく可能性があると思うのです。

また、J-WAVEのナビゲーターをしていて感じるのは、言葉を使いやすくして、気づきやすくする仕組みです。
普段の生活と言葉を結びつけられると強いと思うのです。
例えば、番組には「デカボ」を計測するというコーナーがあります。「デカボ」は、脱炭素を意味する英語「Decarbonization(デカーボナイゼーション)」を略した言葉です。リスナーから「古着が好きで、めっちゃ買ってます」という投稿があると「これはデカボだ!」って評価するんです。特別に環境に関しての投稿は募集していないのですが、リスナーさんの投稿に対して、その行動って「デカボ」だよと伝えることで、みんなが環境問題のことに気づくし、興味を持ちやすくなるんです。
こうしたみんなに気づかせる仕組みって、言葉を実体として生活に浸透させる上では重要だと感じています。


リアルタイムで何かが変化していく
ワクワク感を演出したかった

―今回の「びんリユースを通じてラップの曲作りに参加してもらう」というイベントを考えた経緯を教えてください

日本ガラスびん協会さんからは、さまざまなコミュニティのハブである銭湯を舞台に、びんリユースの価値を伝えるイベントを考えたいという相談をいただきました。
私が最初にお話を聞いて思ったことは、ガラスびんって、歴史がありつつも身近な存在ですよね。デザイン、テクスチャーが美しく品があり、飲み口の滑らかさも大きな特徴かも。炭酸飲料では、特に飲み口の滑らかさに違いが出やすく、私は、ガラスびんで飲むのが一番美味しいです。あとは銭湯や飲みの席などでも、人と人とをつなぐ重要なアイテム、いわば文化として活躍しているものだと思います。

「この文化を、若者にどのように伝えるべきか、しかも銭湯で。」と考えた際、「銭湯といえばサウナ」ということで、早速サウナに出かけました。

そこで改めて、「リターナブルびんを見かけなくなったな」と気がつきました。
思い返せば、私がこどもの頃は、リターナブルびんを酒屋に持っていて何十円かをもらって、そのお金でおやつを買って楽しんでいた体験があります。もしかしたら最近の人たちは、リターナブルびんを返して嬉しかったり、楽しかったりした体験がないのかもしれないし、もし体験できれば意識を変えることができるのかもしれないって思ったのです。

―嬉しいや楽しい体験をつくるためにラップを選んだ?

最初に、「リターナブルびんを返却すると10円戻ってくるよ」と伝えても、広まりづらいだろうなって思いました。
頭で理解するだけでなくて、リアルタイムで何かが変化していく様が目に見えて、最終的に何か大きなものが出来上がれば、みんなはワクワク感を持って参加してくれるのではないかと考えたのです。

それで思いついたのが、ラップの長さが変わるということでした。
返却されたびんの本数に応じて楽曲の長さが決まるこのプロジェクトでは、「最終的にどれくらいの長さになるのだろう」と興味を喚起し、参加意欲を高められると考えました。
そしてラップならたくさん言葉を詰め込めるので、伝えたいことをしっかりと伝えきれるだろうと選びました。
もともとラップミュージックは、社会に対して主張する色合いが強い音楽ジャンルですので、今回のイベントの趣旨にもピッタリだと思いました。

―楽曲の長さがどうなるかわからないというのは、とても緊張感があるように感じます

すごくドキドキしましが、最終的には音楽的に成立する長さになって良かったです。
でも、イベントを盛り上げるという意味では、もっともっと長すぎて困るという展開も面白かったかもしれませんね。1時間くらいになって、アーティストから「どうしよう」ってリアクションがあるくらいの方が話題になっただろうし、もっともっと飲んで、返却してほしかったですね。

ラジオでイベントの話をしたら、リスナーさんが楽曲づくりに参加したいと、実際に妙法湯へ行ってくれました。「リターナブルびんを1本返却したので、私も曲の1秒に参加しました」と。びんリユースの知識や理解という段階から一歩進んで、実際に体験する機会をつくれたことは、とても大きな意味があることだと思います。

―楽曲を作っていく上で大切にしたことは?

楽曲としてのキャッチーさはとても大事です。ですので「ブルブルびんびん」というフレーズはかなり最初の段階から歌詞に入れようと考えていました。
あとミュージックビデオもすごく良い仕上がりで、より印象的に内容が伝わるものになったのではないかなって思います。

楽曲とは直接関係ないですが、今回イベントで特設したwebサイトもとても重要でした。毎日、びんの本数、楽曲の長さが変化していく。自分の行動の結果がリアルタイムで見えることは、参加者のモチベーションを高める上でとても大切なものだったと思います。

「#しよう再使用」のミュージックビデオ

※「#しよう再使用」のミュージックビデオはこちら

リターナブルびん返却時に帰ってくる10円の価値を
どのように伝えるかがポイントになる

―今回のイベントをさらに発展させるとしたら?

一つは、もっと多くの人に参加してもらいやすくするために、舞台となる銭湯の数を増やしたいですね。
もう一つは、今回はラップでしたが、音楽だけじゃなくて例えば文字が増えていく、イラストが増えていく、映像が変化していくなど、さまざまな表現で展開できる可能性はあると思います。

また、リターナブルびんやびんリユースを普及させていくためには、銭湯以外の場所、例えばコンビニや駅といった生活同線上にある場所でも開催できるといいですね。

あとは、1本10円という価値の伝え方で何かできないかなって考えています。
今、世の中にはポイント還元ってたくさんありますが、せいぜい100円で1ポイントです。でも、リターナブルびんは10円戻ってくる。ポイントに置き換えて考えると、すごくお得だと思うのです。
物価高騰の今、「10円で何ができるの?」という意見もあるかもしれませんが、この10円をどう使うかを考えてもらいたいです。
例えば、戻ってきた10円を環境対策や貧困で困っている人たちに募金できるようにしたら、この10円に大きな価値が出てくると思います。10円を社会に還元する。それもとても大切な循環ですから。

また、活用のしやすさでいえば、デジタル化もあると思います。
リターナブルびんを返却して10円玉を財布に入れてしまうと、その10円の存在を忘れてしまいがちです。でも、ポイントサービスのようにデジタルで貯めることができたら、100ポイント貯めてまた1本買おうとか、寄付しようとか、10円の使い道を通してその価値をより意識することができるのではないでしょうか。

今の若者は、リターナブルびん・びんリユースの良さをすぐに理解してくれると思います。あとはそれを理解から体験につなげ、そしてどのように生活に定着させていくのか。まだまだできることがありそうです。

タカノシンヤさん
J-WAVE「GRAND MARQUEE」ナビゲーター
音楽ユニットFrascoColdhot 作曲家・作詞家
プランナー・コピーライター

【番組概要】
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:GRAND MARQUEE
放送日時:月曜~木曜 16時~18時50分
ナビゲーター:タカノシンヤ、Celeina Ann
番組サイト:https://www.j-wave.co.jp/original/grandmarquee/
番組twitter:https://twitter.com/GRANDMARQUEE813
ハッシュタグ:#マーキー813