新しい!?懐かしい!?いま注目を浴びるリターナブルびんの可能性とは
みなさんはリターナブルびんをご存知でしょうか。リターナブルびんとは、飲み切った空きびんを回収して再利用するびんを指します。居酒屋で頼んだ時に出てくる「びんビール」と聞けばイメージできるでしょうか。いま、このリターナブルびんが注目を集めています。昨年には、大手メーカーがリターナブルびん入りの清涼飲料を販売し、大きな話題となりました。
こうした社会の動きと共に私たち日本ガラスびん協会が進めているのが、『SO BLUE ACTION』という、リターナブルびんの価値を再発見・再定義する活動です。
当活動の一つとして、富士ボトリング株式会社『足柄聖河』(リターナブルびん入りミネラルウォーター)の東京23区限定Eコマース販売を、2022年4月から開始しています。
今回は、『SO BLUE ACTION』活動に参画いただいている、リターナブルびん入り飲料の製造と大手飲料メーカーや製薬メーカーのびん飲料の受託製造、そして自社ブランド『足柄聖河』の製造販売を手掛ける、富士ボトリング株式会社の代表取締役 山崎和彦さんに、なぜいまリターナブルびんが注目されているのか、お話を伺ってきました。
40代を境に反応が大きく変わる
リターナブルびん
いま注目を集め始めているリターナブルびん。実は、年齢によってリターナブルびんに対する反応が大きく異なるといいます。
「もともと、日本ではリターナブルびんが幅広いシーンで活用されていました。それが40年ほど前にPETボトルが登場すると、瞬く間に飲料や調味料の容器はPET素材へと置き換わったのです。軽くて、持ち運びに便利。落としても簡単には割れないPETボトルの利便性は圧倒的でした」
「昨年、大手メーカーから依頼され、製造したリターナブルびん入りの清涼飲料は、私にとっては懐かしいという感覚でした。しかし、30代くらいまでの人たちにとっては、かつてリターナブルびん入りの清涼飲料が一般的であったことを知らないので、とても新鮮なものに映ったようです。とてもきれいなびんでしたから、空きびんを返却せず、家に飾ってしまう人も多かったと聞いています」
びんは20回、ケースは50年以上
繰り返し使用できる
山崎社長によると、リターナブルびんには、大きく2つのメリットがあるといいます。
「まず、飲料の風味が違います。PETボトルや缶は、わずかですが容器の素材の香りが飲料に移る『着香』が起こります。一方、ガラスびんは天然素材でできているため、『着香』は一切起こりません。大した違いではないと思われがちですが、飲み比べてみればその違いに驚くと思いますよ」
そして2つ目は環境への負荷の低さ。
「清涼飲料のリターナブルびんは洗浄することで約20回繰り返し使えます。しかも、廃棄物が出ないという点で、とても環境に優しい容器といえます。
弊社のリターナブルびん入りミネラルウォーター『足柄聖河』をご利用いただいているホテル様では、PETボトルからリターナブルびんに置き換えたことで、廃棄されたPETボトルと段ボールを一時保管するスペースが不要になりました。キャップを分別する手間もなくなりました。もちろん廃棄物の処理にかかる費用も不要になりますし、廃棄にかかっていた人件費すら不要になります。商品価格はリターナブルびんの方がPETボトルより高いので、コスト面のメリットは少ないかもしれませんが、外資系ホテル様を始めとした環境意識の高いホテル様では、部屋で提供する飲料を積極的にリターナブルびんに置き換えています。リターナブルびんの持つ環境負荷軽減という意義はとても大きいものである、とご判断いただいているのだと感じています」
※プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環法)が2022年4月に施行されて以来、ホテルや旅館では歯ブラシやクシ、シャワーキャップなどのアメニティグッズを始め、‟特定プラスチック使用製品の使用の合理化”に取り組むことが求められています。
大きな転機となった
ケース置き場での大発見
山崎社長も一時期、PETボトルや缶への対応を考えたことがあったそうですが、リターナブルびん一筋で今日までやってきたのには、大きなキッカケがあったそうです。そのキーワードが『72』という数字。
「流れが変わったのは2018年頃。『SDGs』や『サステナブル』といった言葉と共に『脱プラスチック』を目指す動きの中で、リターナブルびんへの注目度も高まってきました。
恥ずかしながら、それまで私はリターナブルびんの環境メリットについて強く意識していませんでした」
山崎社長がリターナブルびんの魅力と可能性を再認識したのは、自社の空きびん置き場を歩いていた時だといいます。
「ふと目にしたリターナブルびんのケースに『72』という数字が書いてあったのです。この数字を見て、私は衝撃を受けました。この数字は製造年を表しており、1972年につくられたこのケースは、その時まで現役で使用されていたのです。ケースの原料はプラスチックですが、一度作ってしまえば50年間使用可能。メンテナンスは水洗いだけ。究極のエコケースです。『これはすごいことだ』と震えたのを覚えています。」
「先ほども申し上げましたが、リターナブルびんとケースは、何度も繰り返し利用ができ、最も環境負荷の低い容器です。このことをもっと多くの人に知ってもらわなければならない。次世代のためにリターナブルびんをもっと広めなければならないと、使命にも似た想いを持つようになったのです」
その結果生まれたのが、自社ブランド『足柄聖河』だといいます。
自社で物流まで行うことで見えてきた
リターナブルびんの可能性
『足柄聖河』の立ち上げに関しては、社内に反対意見もあったといいます。それでも、自社ブランドの立ち上げを推し進めたのは、社員一人ひとりに自信を持って欲しいという山崎社長の想いがありました。
「当時、リターナブルびんの需要は一定数あり、わざわざ新しいチャレンジをしなくても事業継続は可能でした。しかし、自分たちの仕事がこんなにも社会に貢献できることを知ってしまったのです。
もし、社員が旅行に行った際、旅館やホテルで自分たちの商品を手にしたらどんなに嬉しいでしょうか。未来の地球を守る立派な仕事であることをこどもに伝えることができたら、どんなに誇らしいでしょうか。私たちが手掛けるリターナブルびんを社員一人ひとりが自信を持って取り組める仕事にしたいと思ったら、自社ブランドを立ち上げないという選択肢はありませんでした」
とはいえ、リターナブルびんの最大の課題といわれているのが物流。送り届けるだけでなく、回収まで責任を持つのがリターナブルびんです。
さらに、『足柄聖河』の採用を決めていただいたホテルからは、各階まで商品を上げて欲しいと前代未聞の依頼をされてしまいました。
「これまで商品配送に関しては、専門の物流企業に依頼していました。そこで、ホテル(各階)への納品も物流企業に依頼したところ、『そこまで手間のかかることはできない』と断られてしまいました。
それならば『自分たちでやるしかない』 『これだけ社会に貢献できる商品なのだから、諦めるべきではない』と考えたのです。そこで、思い切って自分たちでトラックを買い、ホテルの各階まで商品を届ける体制を整えることにしました」
不屈の闘志で自社物流を実現した山崎社長ですが、さらなる意欲が湧いてきたというから驚きです。
「『どうせ物流まで自分たちでやるのならば、他の企業ではできないことをやろう』と考え、配送の帰りにフロアやエレベーターの清掃も行なうことにしました。他の物流企業では、各階への配送すらできていない状況でしたから、『富士ボトリングは、なぜそこまでしてくれるのか』と驚かれ、非常に喜んでいただいています。私の想いは、リターナブルびんをより広く普及させることです。リターナブルびん飲料を選んでいただいたホテル様には、選んで良かったと思っていただきたいですし、自社物流によって空きびん回収をするタイミングがあるからこそ可能なサービスだとも思っています」
日本ガラスびん協会との共同プロジェクト
SO BLUE ACTIONへの参画
富士ボトリング株式会社は、日本ガラスびん協会との新たなチャレンジもスタートさせています。
それが、冒頭でご紹介した『SO BLUE ACTION』。日本ガラスびん協会が推進している、リターナブルびんの価値を再発見・再定義する活動です。この活動では、Eコマースと自治体回収システムを融合させた、新たなガラスびんリユースモデルを構築するための実証事業に挑戦しています。
リリース:http://glassbottle.org/glassbottlenews/3453
日本ガラスびん協会から『SO BLUE ACTION』への参画の話をもらった時、山崎社長はこう感じたそうです。
「よくぞ声をかけていただいたと思いました。私たちは自社ブランドでリターナブルびんの普及を目指し始めましたが、やはり一社では限界があります。日本ガラスびん協会と一緒になって、業界全体でリターナブルびんの普及に努めていく。その中で、リターナブルびんが消費者の意識変革のキッカケになるのであれば、とても嬉しいことです」
「リターナブルびんは物流コストがかかるから、必ずしもエコではないという意見もあります。でもよく考えてください。商品をトラックで運んで、帰りのトラックに空きびんを乗せてくるだけです。トラックが走る距離は変わらないのです。みなさんが廃棄した空のPETボトルや空き缶も回収業者が回収しています。その回収に係る環境負荷も考えてみたら、リターナブルびんがいかに環境に優しいかをご理解いただけるのではないでしょうか」
PETボトルを全部なくすのではなく
役割分担が重要
最後に今後の抱負を山崎社長に伺いました。
「現代社会からPETボトルや缶をなくすことはできないと思います。PETボトルは持ち運びや災害時にはとても有用です。
大切なのは役割分担だと考えています。PETボトルや缶が適しているシーンと、リターナブルびんが適しているシーンを一人ひとりが意識して使い分けることができれば、社会は変わっていくのではないでしょうか。
こうした意識の変化は飲料メーカーの中で広がってきており、リターナブルびん飲料の検討も進んでいると聞いていますので、今後の動向に期待したいですね」
『SO BLUE ACTION』では大学での実証実験にも取り組んでいます。
「東京家政大学キャンパス内のコンビ二エンスストアで『足柄聖河』を販売し、学内で回収する実証実験に協力させていただいています。
最近はマイボトルを持ち歩く人が増えていますが、持ち運べる量は500mlくらいです。これでは一日分には足りません。かといって、追加でPETボトルの飲料を買ってしまっては、せっかくのマイボトルの意味が薄れてしまいます。それならば、リターナブルびんでマイボトルに飲料を補充してもらおうという試みです。
その場でマイボトルに継ぎ足すのであれば、リターナブルびんの有用性を十分に発揮できます。
こうした役割分担を積極的に提案し、みなさんの生活に取り入れていただくことで、環境負荷の少ない社会をつくっていきたいと考えています」
『脱プラスチック』や『サステナブル』といった社会の大きな流れの中で再び脚光を浴び始めたリターナブルびん。
山崎社長はその流れにただ身を任せるのではなく、流れをより大きくするために日本ガラスびん協会と協力し合い、リターナブルびんの理解と利用促進に向けて絶え間ない歩みを続けています。
富士ボトリング株式会社
所在地 神奈川県足柄上郡大井町西大井 901
代表取締役 山崎和彦
公式サイト:富士ボトリング株式会社 – 未来につづく社会貢献
足柄聖河ブランドサイト:足柄聖河公式サイト