全員参加の「独身の日」というイベント
11月11日は「独身の日」、中国のECサイトで1年に1度の大型セールが行われる日でした。
2019年の独身の日の売り上げは2,684億元という新記録を達成し、ついに日本円にして4兆円の大台を突破しました。
楽天の1年間の流通額を足し上げて、それでも追いつかない数字。それをアリババ単体が、1日で。
私は2016年、2017年は店舗側としてこのセールに参加しています。
様々な購買データが一挙に公開されるので、毎年楽しみにしているイベントです。
・・それにしても数字大きすぎない?笑
これだけの売上はもはや中国にEC文化が浸透している、人口が多いという理由の範疇を越えている。
じゃあ一体、何がこの売上を作っているのか。
色々考えていると、中国独特のあらゆるものを巻き込んで熱狂を作り出す ”エモさ” にたどり着く気がしたのです。
あ、2008年の北京オリンピックに目が釘付けになったあの時の感覚に似ていると。
一体どういうことか。
まずは独身の日の売上について、文化的側面と技術的側面で整理をしてみます。
正体1)文化的側面
■「とりあえず買う」文化
中国でおもてなしを受けた人なら分かると思います。中国では食べきれないほどの料理を平気でオーダーすることが多いです。むしろ、それがマナー。そして余ったら持ち帰る文化があります。
これ以外にも、とりあえずやってみて、後から考える・修正するという前提の元行動する場面に度々遭遇します。
中国のECは、基本的に返品OK。
「とりあえず買って、使うかどうかは後で考えればいい」といった心理的なハードルの低さは、購買を後押ししていると考えます。
余談ですが、私が天猫国際でアパレル店舗の運営をしていた頃、日本のアパレルECと比べると返品率が感覚値で3〜5倍多いように感じました。
■圧倒的定番商品の存在
口コミやインフルエンサーによって定番商品が醸成される文化があると思います。自分の趣味嗜好に沿って自分だけの商品を見つける<流行っているものをそのまま買う。
そのような定番商品はW11にセールをすることがあらかじめ分かっているので、この日に購入が集中する。
ランキングを見ても、特定のブランドが大きな売り上げを作っていることがわかります。今回10億元以上の売上を作ったブランドはAppleやユニクロなど15ブランドありますが、合わせると最低でも150億元以上。たった15のブランドだけで、全体の5%以上の売上を作っています。もう一度振り返りますが、全体の金額は4兆円です。えぐい。
→2020追記:KOLの在り方も変化してるし、ここの「定番品」の定義は若干変わってきてる気もする。でもどの店舗に行っても「買うべき」商品はすでに決められてるんだよな
■一人当たりの平均予算が大きい
シンプルに、一人当たりの平均予算が高いと感じました。
Twitterを見ていても7,000元購入完了!8,000元使った!などの投稿を見て、その予算の大きさに驚きました。全体のお財布がこの日に集まっている。
最大24回手数料無料の分割払いといった支払い方法もあり、一気に買って少しずつ返済できる仕組みも、平均予算UPの後押しになっていると考えます。
そして、季節が秋。
秋はガジェットの新製品の発表がありますよね。服もブーツやアウターなど、単価が上がります。普通に暮らしていても購入単価の上がる時期。
季節要因も大きな売上を作る要因の一つだと思います。
※2020追記:今年は特に分割推しがメインビジュアルにも組み込まれるように感じた。スマホなどのガジェット商品だけでなく比較的高額な美容液など。
正体2)技術的側面
■決済、物流の処理能力の向上
これだけのトラフィックを支えるインフラ技術、これだけの受注量を出荷する物流能力があってこその売上です。
事前に投入されているカートの情報から出荷数を予測をし、適切な物流配置するなど、年々物流体制が最適化されています。
また、中国の記事などを読んでいると、アリババが日頃から行なっている農村とECをつなぐ取り組みが独身の日に花開いているように感じます。
■店舗も成長している
売上を作るには、売上を作るだけの在庫を用意する必要があります。
このために売れる金額設定と適切な在庫配置が必要となりますが、店舗側も独身の日のノウハウが溜まってきているのを感じます。
プラットフォームとしても店には売上を作ってもらいたいので、積極的に情報開示をします。タオバオ大学など、店舗がプラットフォームでより露出する方法などを学べるオンライン講座もあります。
独身の日は商品最安値保証をするため、在庫ロックや価格ロックと言った厳格な出品ルールが存在します。
店舗が好き勝手個人戦をするのではなく、プラットフォーム側と密に連携し、きちんと準備をした店舗に対してはプラットフォーム側もそれなりのトラフィックを調整する。
まさに、店舗×プラットフォームによる売上最大化の団体戦です。
このように、消費者の購買意欲はもちろん、それに応えるだけの店舗やプラットフォーム側の努力があることも忘れてはなりません。
2020年追記:W11店舗ページのトンマナとライブ配信背景のトンマナを完全に合わせている店舗が多く、ノウハウ溜まってるなーという印象。店舗デザインも下にスクロールさせるものではなく、ファーストビューにメインの情報を置いて商品ページに遷移させる作りが多かった。
まとめ:誰もが「物語の参加者」になりたい
このように振り返ると、「独身の日」はプラットフォームだけでなく、店舗を巻き込み、ユーザーを巻き込んで育て上げた「みんなのイベント」のように感じます。
前日までにカートに入れておくワクワクから、前夜祭、開始直後の爆発的な数字を含め、全てが「独身の日」というストーリー。
アリババが刻一刻と発表する売上画面に書かれているこのコピーに、全てが凝縮されているなと思いました。
「下一秒,是我们亲手创造的新世界纪录哦」
ー次の1秒、私たちの手で世界新記録を生み出す
この”私たち”はアリババだけを指しているのではない。店舗、そして消費者。
安い、お得、と言った合理的な買い物はもちろんですが、それよりもワクワクした雰囲気・感動・みんなで作り上げると言った感情に動かされて生み出されたのが、今回の売上ではないかと思っています。外から見ると、余計に。
立場は違っても全員が参加して、記録を塗り替える物語を作る。
そんな熱狂は、私の心が完全に動いてしまった、あの北京オリンピックの熱い空気と、根本的には同質だと感じました。
来年は2020年。どんなストーリーが生まれるか、楽しみです。
2020追記:作り上げるまでの熱狂、一体感はすごいけど、終わった後は一気にただの消費者に戻る、みたいな側面もあると思います。祭りの翌日に静まりかえった街と消費者が落としていった大量のゴミをひたすら片付ける主催者のような
最後まで読んでいただきありがとうございます!!!!いい一日になりますように!