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サザエさん一家のドリンク

「ワカメちゃ~ん!お待たせしました~」

「はい、はい~」

返事をしたのは、ワカメちゃんではなく、帽子をかぶったおじいさんであった。といっても、波平さんではない。

これは、桜新町にある「長谷川町子記念館」での出来事である。

長谷川町子記念館は、先にできた「長谷川町子美術館」の向かい側にある建物で、彼女の代表作である国民的マンガ「サザエさん」の世界観を楽しめる空間があったり、彼女が手がけたたくさんの作品の中から、企画ごとに原画などの関連資料が展示されていたりする施設だ。

私はサザエさんも好きだが、誠に勝手ながら、名字が同じというだけで、長谷川町子さんに親近感を覚え、時折、彼女の美術館と記念館に足を運んでいる。美術館は、彼女と彼女のお姉さんが集めた日本画などのコレクションを展示する施設で、こちらも企画展ごとに素晴らしい作品を目の前で見ることができる。

どちらの施設もそれほど大きくはないが、両館をゆっくり見て回ると1時間半くらいはかかると思う。どっぷりと長谷川町子さんの世界に浸った後、記念館の中にあるカフェでコーヒーを飲むのが、私の定番コースである。

その日は平日だったため、館内に人は少なく、私以外の入場者はほとんどが近所の親子連れか高齢者だった。

私は両館を見て回った後、カフェの窓際の席に座って、のんびりとアイスコーヒーを飲んでいた。5月の青空が広がる気持ちのいいお天気で、敷地内にある庭の緑が生き生きとしていた。

そこへ聞こえてきたのが「ワカメちゃ~ん!」である。

ワカメちゃん、と呼びかけたのは女性の店員だったが、返事をしたのが明らかにおじいさんの声だったものだから、私は何が起きたのかと振り返った。

おじいさんは、自分とその仲間が座っているテーブル席から立ちあがると、カウンターで店員からミルク入りのアイスコーヒーを受け取っていた。

なんと、そのカフェではできあがったドリンクを渡す際、番号ではなく、サザエさん一家の名前で呼び出していたのである。

私はこのカフェを何度も利用しているが、コーヒーはホットでもアイスでもブラックだし、混んでいる時間帯に来たことがなかったから、待つことがなかった。もし、ドリンクの提供を待つことがあっても、番号で呼び出されるだろうと思っていた。

番号ではなく、サザエさん一家の名前とは……。

ワカメちゃんと呼ばれたおじいさんの後、しばらくすると今度は

「波平さ~ん!」という声がした。さらにその後で
「カツオく~ん!」という呼び出しもあった。花沢さんかと思ったw

はいは~い、と返事をして席を立ったのは、みんなおじいさんだったが、どの人もなんだか照れくさそうに笑っていて、楽しそうだった。

もし、このnoteを読んでくれた人が、桜新町の長谷川町子記念館へ行ったら、ぜひカフェを利用してほしい。できることなら複数人のグループで行って、ちょっと時間のかかりそうなドリンクを注文してほしい。

きっとあなたも、サザエさん一家の一員になれるはずだ。

長谷川町子美術館の隣にあるサザエさん公園にて

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