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パリ五輪に「サッカー」で出場するドミニカ共和国代表とは

5月まで行われた、U-23アジアカップと大陸間プレーオフの結果
今年のパリ五輪に出場する16チームがすべて決定しました。

「男子サッカーの部」では予選から波乱がありました。

東京五輪金メダルのブラジル、東京五輪銅メダルのメキシコ、
リオ五輪銀メダルのドイツや
9大会連続出場中だった韓国が予選敗退
となった一方で、
イスラエルが12大会ぶり3度目の出場ウクライナが初出場を決めるなど
小さくないサプライズがありました。

そんな中でも、最大のサプライズは
「ドミニカ共和国」の出場ではないでしょうか。


MLBでは何人ものスター選手を輩出しており
2013年のWBCでは全勝優勝の快挙を成し遂げるなど
「野球の国」というイメージが強いと思います。

そんなドミニカ共和国が「サッカー」で五輪に出場するのは
快挙中の快挙
なわけですが、同国がここまで辿り着いたのは偶然ではなく、同国サッカー協会を中心に行った地道な強化がありました。


ドミニカ共和国のサッカーの立ち位置

同国は、2013年のWBC優勝
東京五輪の男子野球の部で銅メダルを獲得したように
世界屈指の野球強豪国として知られています。

その他の球技では
バスケットボールやバレーボールなども盛んに行われています。

というのも、かつてドミニカ共和国は
20世紀初頭にアメリカの占領下に置かれていたこともあり
米国海兵隊を通じて野球やバレーボールなどが
盛んに行われるようになりました。


特に野球においては
19世紀後半時点でキューバ移民から伝えられていたこともあり
いつしか「国技」へと昇華していき
1930年代時点で野球の商業化が始まるなど
「野球の文化」はドミニカ共和国全体に根差すようになりました。


一方で、サッカーもヨーロッパ方面から伝えられてはいたものの
他のスポーツと比べて遅れをとっており
文化として定着してきたのは近年になってからでした。


特に環境面で他競技とは差があり
サッカーコートは同国の都市部にしかなく
さらにそこを利用するのにレンタル料がかかる
ために
「中流階級~富裕層のスポーツ」として扱われてきました。

ドミニカ共和国にとって
サッカーが「マイナースポーツ」だったのは
こういった背景があったからなのです。


状況改善とプロリーグ開幕


▲ リーガ・デ・ドミニカーナ・フットボールのロゴ

こうした状況を打破するため、2000年代にドミニカ共和国サッカー協会は
FIFAからの支援も受けて競技場をはじめとした施設を
同国全域に建設
していきました。


当時の国内リーグはアマチュアではありましたが
FWジョナサン・ファーニャGKミゲル・ロイドなど
国外のプロリーグに挑戦する選手もおり
少しずつ同国サッカーの成長の兆しが出てきていました。

とはいえ
代表チームが、国際大会予選で北中米カリブ海地区を勝ち抜くには
程遠い状況は2010年代に入っても続いていました。


同国出身であったり、同国にルーツを持つ有力選手が
スペインやスイスなどの他国代表を目指すために
代表招集オファーを拒否するなど
ポテンシャルはあるのに代表が強くならない歯痒い状況にありました。


この状況を受けて同国サッカー協会も
2010年代に入ってからは国内リーグのプロ化に向けて動いていき
2015年、ついに同国史上初のプロリーグが設立されました。


同国史上初の「サッカーの国際舞台」へ


◇ 歴史を変えるプロローグ


プロリーグ開幕以降、カリブ海地区のクラブチームの大会では
ジャマイカやトリニダード・トバゴのクラブを下すなど
国際舞台で存在感を表していたドミニカ共和国。

同様に代表チームでも、国際舞台にあと一歩と迫りました。
2019年に行われたCONCACAF ネーションズリーグの予選では
同年に行われるゴールド杯2019の予選も兼ねており、最終戦でバミューダに勝利すれば出場権が得られる大一番まで行きましたが、1-3で敗れたため惜しくも初出場は叶わず涙を飲む結果に。


それでも
国際大会に縁のなかった同国サッカーにおいて確かな足跡を残しました。


そして2022年、同国サッカーの歴史を変える出来事が起こります。

それが、同年に行われるCONCACAF U-20選手権です。


この大会では
ベスト4に残れば2023年のU-20W杯出場権を得られ
更に決勝進出チームには2024年のパリ五輪出場権が与えられるというシステムで行われました。


ただし、この大会では
CONCACAFにおけるU-20年代のランキングで
上位16番目までのチームにシード権
が与えられていたのですが
ドミニカ共和国は17番目に位置していたため
予選から参加することになりました。
(詳しい大会システムはwikipediaをご参照ください)


◇ 難敵セントルシアとの決戦


予選グループではドミニカ共和国は順調に勝ち点を重ね
予選最終戦で2位につけるセントルシアとの決戦に。

セントルシアのセットプレーから前半で2失点を許し
後半40分まで得点が入らず苦しんだドミニカ共和国でしたが
後半43分にエースFWエディソン・アスコナが得点し1点差に迫ると
試合終了間際に再びアスコナが得点し同点に

2-2の引き分けとなり
この結果ドミニカ共和国が土壇場でU-20選手権への
出場権を手に入れました


▼ ドミニカ共和国対セントルシアのハイライトはこちら

(ショートハイライト)
Concacaf Under-20 Championship - Dominican Republic vs Saint Lucia (youtube.com)

(フルマッチ)
2021 Concacaf Under-20 Championship | Dominican Republic vs Saint Lucia (youtube.com)


◇ 初の国際大会出場権獲得へ



大会のシステムにより
予選通過チームはノックアウトステージからの参加となり
1回戦では中米の古豪エルサルバドルと対決。


逆転に次ぐ逆転を繰り返し
互いに点を取り合う激しい試合となりましたが
この試合を5-4で制し、見事準々決勝へ進出

▼ ドミニカ共和国対エルサルバドルのハイライトはこちら

(ショートハイライト)
Campeonato Sub-20 de la Concacaf 2022 | Resumen | El Salvador vs República Dominicana (youtube.com)

(フルマッチ)
Concacaf Under-20 Championship 2022 | El Salvador vs Dominican Republic (youtube.com)


勝てばU-20W杯出場権を得られる準々決勝では
カリブ海の雄ジャマイカとの対戦に。

ドミニカ共和国が組織的なサッカーで試合の主導権を握ると
前半8分にスローインからMFアンヘル・モンテス・デ・オカ
見事な抜け出しから先制点を奪取。

後半に入ると、ジャマイカも個人技を生かしてゴールに迫りますが
ドミニカ共和国守備陣の決死のディフェンスもありゴールを許さず
そのまま1-0で試合終了

ドミニカ共和国がU-20W杯出場権を獲得
同国サッカー史上初の国際大会出場という快挙を成し遂げました。

▼ ドミニカ共和国対ジャマイカのハイライトはこちら

(ショートハイライト)
Campeonato Sub-20 de la Concacaf 2022 | Resumen | República Dominicana vs Jamaica (youtube.com)

(フルマッチ)
Concacaf Under-20 Championship 2022 | Dominican Republic vs Jamaica (youtube.com)


◇ 成し遂げた「もう1つの偉業」


そして、準々決勝ではもう1つ大きな出来事が起きました。

ここ3大会連続で五輪に出場していたメキシコが
伏兵グアテマラにPK戦の末に敗れるというまさかの大波乱。

▼ グアテマラ対メキシコのハイライトはこちら

(ショートハイライト)
Campeonato Sub-20 de la Concacaf 2022 | Resumen | Guatemala vs México - YouTube

(フルマッチ)
Concacaf Under-20 Championship 2022 | Guatemala vs Mexico (youtube.com)


その結果
初出場を目指すドミニカ共和国
1988年大会以来4度目の出場を目指すグアテマラ
準決勝で、パリ五輪出場権をかけて戦うことになりました。


前半のうちに2点を失い、更に守護神シャビエル・バルデスが足を痛めて
ハーフタイムで交代
するなど不穏な空気が漂いましたが

後半16分にコーナーキックの流れから零れたボールを
MFギジェルモ・デ・ペーニャが決めて1点差に迫ると

そのわずか90秒後には、エースFWエディソン・アスコナ
グラウンダーのミドルシュートを沈めて一気に同点に追いつきます


その後は互いに攻め込みますが、延長まで得点は変わらず。

延長後半にはグアテマラのPK判定がVAR解析の結果取り消されるということもありました。


そして、パリ五輪出場権をかけた激戦はPK戦で決着することに。

お互い1人ずつ失敗し、運命の5人目。
グアテマラの10番FWアルキミデス・オルドニェスのシュートを
交代で入ったGKオムリー・ベロが横っ飛びでビッグセーブ。

そしてドミニカ共和国の5人目、MFアドホニス・バルガスのシュートは
見事相手キーパーの逆を突き、ゴール。


ドミニカ共和国が、同国史上初めて
『サッカーでオリンピック出場』
という歴史的快挙を成し遂げました。

▼ グアテマラ戦のハイライトはこちら

(ショートハイライト)
Concacaf Under-20 Championship 2022 Highlights | República Dominicana vs Guatemala - YouTube

(フルマッチ)
Concacaf Under-20 Championship 2022 | Dominican Republic vs Guatemala (youtube.com)


ドミニカ共和国史上初の国際舞台出場


ドミニカ共和国サッカー史上初の国際舞台となった
2023年U-20W杯。

登録メンバーの多くが
U-20選手権躍進に貢献したメンバーで構成されました。


しかし、組み合わせ抽選の結果
ナイジェリア、ブラジル、イタリアと同グループという
俗にいう死の組に組み込まれてしまいました。

それでも、初戦のナイジェリア戦では、FWエディソン・アスコナ
前半23分に得たPKをしっかり決めて先制に成功。
しかしその後、前半31分にオウンゴールで同点とされると
後半26分には逆転ゴールを許し、1-2で敗戦。

続くブラジル戦では実に約40本(枠内17本)ものシュートを打たれ
守護神シャビエル・バルデスの好守もあったものの0-6で完敗。
グループ最終節のイタリア戦も、
イタリアの巧みな試合運びの前に0-3で敗戦。

ドミニカ共和国サッカー史上初の国際舞台は、3戦全敗とほろ苦くも
国際大会初ゴールを決めるなど、大きな経験となりました。


「新興国」から「強豪国」への序章


国際舞台の出場や、国内のリーグやサッカーの環境の発展
ドミニカ共和国にルーツを持つ選手に対する
非常に大きなアプローチ
となりました。

今年に入ると
特に、招集に向けて熱心にアプローチをかけていた内の一人、
元ベティス、バルセロナで現在リーズに所属している
DFジュニオール・フィルポが
遂にドミニカ共和国代表としてプレーすることを決意。

フィルポは
過去に非公式の親善試合で1試合の出場歴はあったものの
以降は出生地であるスペイン代表を目指すため
ドミニカ共和国代表入りを断っていました。

欧州の主要リーグで戦うレベルを誇るビッグネームの代表入り
同国のサッカーファンは歓喜に沸きました。

そして同時に、
今後の更なるアップデート(ルーツを持つ選手の到来)に
期待する声
も大きくなりました。

実際、フィルポの他にも
元レアル・マドリードのFWマリアーノ・ディアス
レアルの下部組織出身で
来季からヘタフェでプレーするFWペテル・ゴンサレスにも
同国協会施設に招待するなどアプローチを行っており
好感触を得られているようです。
(ゴンサレスは、パリ五輪の本大会メンバーにも選出されています)

また、国外出身選手だけでなく
国内リーグから他国リーグに挑戦する選手も増えており
同国の代表チームが着実に強くなっていることがうかがえます。


パリ五輪で「ダークホース」になれるか


そして先月末、パリ五輪に挑む最終登録メンバーが発表されました。
(フィルポはリーズが派遣を拒否したようで登録外となりました)

〇数字が背番号 ※マークがオーバーエイジ枠
■ GK
① シャビエル・バルデス(ヒューストン・ダイナモⅡ/MLS Next Pro)
⑬ エンリケ・ボスル(インゴルシュタットⅡ/ドイツ5部)
 
■ DF
② フランシスコ・マリザン(フォレンダム/オランダユースリーグ)
④ エドガー・プジョル(RM・カスティージャ/スペイン3部)
⑤ ルイイ・デ・ルーカス(AELリマソル/キプロス)※
⑫ ジョアン・ウルバエス(レガネスB/スペイン5部)
⑯ ネルソン・ルメール(ユニオンSG U-23/ベルギー3部)

■ MF
③ ジョスエ・バエス(O&M)
⑥ ハインツ・メルシェル(無所属〈前ウーイペシュト/ハンガリー〉)※
⑧ アンヘル・モンテス・デ・オカ(シバオFC)
⑭ オマール・デ・ラ・クルス(パトリオタス/コロンビア)
⑮ ファビアン・メッシーナ(無所属〈前FSVフランクフルト/ドイツ4部〉)

■ FW
⑦ オスカル・ウレーニャ(ジローナ/スペイン)
⑨ ラファ・ヌニェス(エルチェ・イリシターノ/スペイン4部)
⑩ エディソン・アスコナ(ラスベガス・ライツ/USL)
⑪ ペテル・ゴンサレス(ヘタフェ/スペイン)
⑰ ホセ・デ・レオン(アラベスB/スペイン4部)
⑱ ノウエンド・ロレンソ(オサスナ・プロメサス/スペイン3部)


◆予備登録メンバー
■ GK
㉒ アンソニー・ヌニェス(マンフィールド・タウン/イングランド3部) 

■ DF
⑳ トーマス・ユングバウアー(ディナモ・チェスケー・ブジェヨヴィツェB/チェコ3部)

メンバーを見ると、多くが国外組となっており
国内組が中心だった一昨年のCONCACAF U-20選手権や、昨年のU-20W杯のメンバーとは大きく一新されました。

CONCACAF U-20選手権で躍進し、U-20W杯とパリ五輪出場へ導いた
キューバ人のウォルター・ベニテス監督は昨年退任しており、

新たに、今年の2月にスペイン人のイバイ・ゴメス監督を招集。
現役時代は主にアスレティック・ビルバオでプレーした経歴を持ち、
新シーズンからはスペイン4部のアレナス・ゲチョの新監督になることが決まっています。

予選突破に貢献した選手・監督の多くが入れ替わっていることに
一抹の寂しさを覚えますが

それと同時に、昨年のU-20W杯を経験したことで
「国際大会で勝つことにフェーズが変わったからこその変化」

とも言えるでしょう。

大会直前のテストマッチでは
開催国で優勝候補のフランスに0-7で完敗を喫しましたが
むしろ、世界で戦うための課題が明白になったとも言えるかもしれません。

同グループの相手はエジプト、スペイン、ウズベキスタン。
いずれの国も各大陸の厳しい予選を勝ち抜いてきた猛者たちであり、
ドミニカ共和国からしたら当然格上となります。

それでも、予選から同国の躍進を見てきた以上
ドミニカ共和国の躍進に期待したいと思っています。



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