W杯北中米カリブ海予選 2次予選までに姿を消した猛者たち
現在アジアと北中米カリブ海地区でW杯は最終予選に入っていますが、最終予選に駒を進められませんでしたが、ポテンシャルを秘めていたチームがいくつかありました。
アジアでも前回最終予選進出国であるウズベキスタンやタイなどの実力国が2次予選敗退の憂き目にあいましたが、その一方でフィリピン、パレスチナ、タジキスタンらが健闘を見せて今後の発展が楽しみなチームがあったのも事実だと思います。
それは北中米カリブ海地区でもそうで、2次予選までに姿を消した好チームがいくつかあります。
今回はその一部を自分なりに紹介したいと思います。
キュラソー
おそらく今回、最も最終予選に近かったチームがキュラソーだと思います。1次予選では難敵グアテマラと同居する難しいグループでしたが、キューバやセントヴィンセント・グレナディーンら相手に勝利を重ね、1次予選最終戦の直接対決で引き分け、勝ち点・得失点差で並びながら「総得点1の差」で2次予選に進出しました。
2次予選の相手は前回W杯出場国のパナマ。アウェーで2点を奪われながらも、1点の貴重なアウェーゴールを奪い結果は1-2で敗れましたがホームゲームに希望を繋ぎました。
続くホームゲームではPKを与えながらもGKエロイ・ロームのビッグセーブで防ぎ、何度も相手ゴールに迫りましたが最後の精度を欠き0-0のスコアレスドローに終わり、健闘もむなしく最終予選進出とはなりませんでした。とはいえ前回予選ではまともに勝つのも難しく、ホーム&アウェー方式だった3次予選のエルサルバドルに悪くない試合をしながらも2試合合計0-2で敗れていたことを考えれば、今回の予選ではチームとして確実に成長したと言えるでしょう。
野球オランダ代表にキュラソー出身者が多いようにオランダ構成国の一つであるキュラソーは、ロームをはじめ代表メンバーの多くがキュラソーにルーツを持つオランダ人選手で、元エヴァートンのクコ・マルティナや元アヤックスのフルノン・アニータなどの欧州リーグで結果を残した実力者はもちろん、オランダの若い年代の選手にも多くアプローチをかけており(有名どころで言えばマンUがパスを持つタヒス・チョン)、持っているポテンシャルを考えれば今後が非常に楽しみなチームの一つです。
ハイチ
2017年に日本代表との親善試合で3-3の打ち合いをしたチームとして覚えている方もいるのではないでしょうか。ハイチもこの地区では実力国の一つですが、残念ながら今回も最終予選には残れませんでした。1次予選では難なく勝ちを重ね、最終節でニカラグアとの直接対決を制し2次予選へと駒を進めました。(セントルシアは予選を辞退)
2次予選の相手はカナダ。ホームの試合を互角のゲームをしながらも序盤の失点を取り返せず0-1で落としてしまうと、アウェーではカナダに圧倒され0-3で敗戦。ハイチの若き守護神ジョスエ・デュベルジェがたびたび好セーブを見せながらも、キックミスで痛恨のオウンゴールをしてしまったこともありました。
代表メンバーは自国リーグのほか、ハイチ系の移民が多いアメリカや、かつてハイチを植民地としていてハイチの公用語でもあるフランスでプレーしている選手が多く、2017年の日本戦で2ゴールを決めシント・トロイデンでもプレーしたデュカン・ナゾンとフランス2部のギャンガンでプレーするフランツディ・ピエロのダブルエースは強力で2019年のゴールドカップでは準決勝にも進出しており高い実力があるチームではあるものの、強豪相手になると歯が立たないのが近年のW杯予選でなかなか勝ち進めない課題ではあります。
ちなみに大阪生まれで日本との親善試合にも出場して話題になっていた日系のザクリー・エリボは、日本代表入りを望んでいましたが2019年のゴールドカップで出場したことにより、正式にハイチ代表を選んでいます。出場国枠が増える次回のW杯予選では是非ともハイチに頑張ってほしいです。
セントキッツ・ネイビス
今予選のサプライズの一つはこのセントキッツ・ネイビスの2次予選進出でしょう。戦力的には恵まれてませんが決して簡単な相手ではないプエルトリコやガイアナにしっかり勝ちを重ねると、予選グループ突破最右翼であるはずのトリニダード・トバゴがプエルトリコとバハマに立て続けに引き分け、なんと直接対決の前に2次予選進出を決めてしまいました。(その直接対決はトリニダード・トバゴに0-2で敗れました)
2次予選ではエルサルバドルに格の違いを見せつけられホームで0-4、アウェーで0-2で連敗し最終予選進出とはなりませんでした。
国内リーグのレベルは高くなく、英国生まれでイングランドやスコットランドの下部リーグやウェールズのセミプロリーグでプレーしている選手もいます。そんな現代表の最大のスターはおそらくロメイン・ソウヤーズでしょう。昨季WBAに在籍し28歳でプレミアデビューを果たした中盤の選手で、今季はチャンピオンシップ(2部)のストークにレンタルしています。
セントキッツ・ネイビスはW杯、ゴールドカップ共に出場経験がありません。戦力差を考えるとW杯出場はとても厳しいですが今予選の強さを今後も見せることができれば、ゴールドカップ出場の可能性は全然あるので、近いうちにぜひ国際舞台に立ってほしいです。
トリニダード・トバゴ
セントキッツ・ネイビスに捲られる形でまさかの1次予選敗退になったしまった前回最終予選進出国。プエルトリコに引き分けたのも不味かったですが、FIFAランキングで200位代につけるバハマにも引き分けてしまったのは痛恨でした。結果的に最終節を前に敗退が決定してしまい、イングランド人のテリー・フェンウィック監督は解任され後任には元トリニダード・トバゴ代表MFだったアングス・イヴ監督が就任しました。
監督の責任と言えば間違ってはいないですがチームが2006年のW杯出場を最後にチームが衰退しているのも事実で、2010年W杯予選は最終予選で1勝しかあげられず、2014年W杯予選はグループリーグ方式の2次予選でガイアナとバミューダに足下をすくわれ早期敗退、前回W杯予選は最終予選に進出し最終節でアメリカを下すなど最後に予選をかき回しましたが結果を見れば2勝8敗と散々な成績で、同地区の強豪たちとはすっかり水をあけられています。
ギリシャの名門AEKアテネでプレーするレヴィ・ガルシアや、モルドバのシェリフで今季CLに出場しているケストン・ジュリアンなど個々に光る選手はいますが、かつてのスター選手であるドワイト・ヨークやラッセル・ラタピーといったタレントに並ぶ選手は今では皆無で、2006年W杯当時の若手だったクリストファー・ビルチャールやケンウィン・ジョーンズも既に現役から退いています。ゴールドカップでもグループリーグ敗退か予選敗退を繰り返しており、黄金期の再来はまだまだ遠そうです。
モントセラト
2002年、日韓W杯の裏でブータンと「最弱決定戦」をしたことを知っている人もいるのではないでしょうか。今予選のもう一つのサプライズは、モントセラトの大健闘だと思います。米領ヴァージン諸島、グレナダに勝利をあげたばかりか、格上と見られていたアンティグア・バーブーダ、そして同地区の強豪の一角であるエルサルバドルに引き分けるという快挙を成し遂げました。エルサルバドルが3勝1分だったため、モントセラトは2勝2分の無敗ながら1次予選敗退となりましたがW杯予選で初めて目に見える結果が残せたというのはポジティブな要素でしょう。
その後のゴールドカップ予選ではトリニダード・トバゴに1-6と大敗し初出場は叶いませんでしたが、近年の躍進は今後の飛躍を予感させます。
代表メンバーの多くがモントセラトにルーツを持つイングランド人選手で、イングランドの下部リーグでプレーしている選手が大半を占めます。その中でもノッティンガム・フォレストでプレーするライル・テイラーやボルトンに所属するブランドン・コムリーは高いレベルでの経験もあり、モントセラト躍進の象徴とも言えます。
チームとしてはまだまだ発展途上にありますが「元FIFAランキング最下位」がビッグトーナメントに出場する。そんな日が来るのは、もしかしたらそう遠くないのかもしれません。
グアテマラ
またしても、グアテマラの悲願達成はお預けとなりました。14得点無失点という内容ながら勝ち点と得失点が並んだキュラソーとの首位決戦に引き分けてしまい、「わずか1得点」及ばず1次予選で敗退となりました。過去の予選でもアメリカやジャマイカを破るなど北中米の強豪の1つでありながらあと一歩が及ばず敗退を繰り返してきましたが、今回もW杯初出場の夢は断たれてしまいました。
代表メンバーのほとんどが国内リーグ所属ですがこの地区ではレベルは決して低くなく、USL(アメリカ2部)でプレーするダーウィン・ロムや、ペルーでプレーするジェラルド・ゴルディージョ、メキシコ生まれのアントニオ・ロペスなど悪くない選手を擁していますが、かつてグアテマラ代表で得点を量産したレジェンドであるカルロス・ルイスのような「違いを作れる選手」という意味ではタレントが不足している感も否めません。
そもそもグアテマラの場合はピッチ内外の問題が多すぎるのが悩みの種です。2012年には代表選手3人が八百長に関わったとしてFIFAから永久追放になったり、FIFAの汚職事件に元会長が関わって実刑になったり、2017年には政治介入があったとしてFIFAから資格停止処分をくらうなど(最悪の場合、除名の危機もあったが2018年に解除)、たびたび「悪い話題」の方で有名になる方が多いです。その悪い流れを払拭するためにも次回のW杯予選では代表に関わる人々が一致団結し、良い結果を出してほしいところです。
スリナム
オランダの元植民地であり、オランダ代表のスター選手達のルーツとして知られるこのスリナムも扱い的には北中米カリブ海です(地理的には南米)。1次予選では格下相手に圧勝しながらも、格上カナダには0-4と完敗という良くも悪くもスリナム代表の現状を表すような戦いぶりでした。(その後のゴールドカップでも格上コスタリカとジャマイカに敗れ、格下グアドループには勝っています)
代表メンバーの多くがスリナムにルーツを持つオランダ出身者で、先に述べたキュラソーと同様オランダリーグに所属する選手が多いのが特徴ですが、違いはスリナムが二重国籍を認めていないことです(キュラソーはそもそも現在もオランダ領)。
ルーツを持つ有望な選手が何人もいながら、その多くがオランダ代表入りを目指すので地道な強化には上手くいっているものの、悲願であるW杯出場はまだまだ遠い印象です。それでもアヤックスでプレーするショーン・クレイバーやウニオン・ベルリンでプレーするシェラルド・ベッカーなど欧州1部で活躍する選手がスリナム代表を選択するなどアマチュア主体だった2010年以前と比べればレベルは格段に上がってきています。
しかしスリナムサッカーの最近のニュースで話題にあがってしまったのは、ブランズワイク副大統領がCONCACAFリーグで試合出場でした。スリナムの副大統領でありインテル・モエンゴタポエというクラブのオーナーである彼は現在60歳でありながら兼任選手でもありどうやら度々試合に出ていたようですが、CONCACAFリーグという「同クラブ史上初のCONCACAF主催大会出場」とあってかこの試合に出場し54分までプレーした挙句試合後には対戦相手のオリンピア(ホンジュラス)の選手ロッカーに出向きお金を配るなどまさにやりたい放題。結局これが問題となりモエンゴタポエもオリンピアも失格になるという、スリナムサッカー界の悪い部分を見せてしまう結果となりました。(ちなみにインテル・モエンゴタポエにもスリナム代表選手が所属しています)
ニカラグア
メジャーリーガーを数人輩出しており野球のイメージが強いニカラグアですが、実はサッカーでも実力をつけてきています。今予選ではハイチに0-1で惜敗し1次予選敗退とはなりましたが、近年では2017年・2019年とゴールドカップに連続出場したり前回予選ではジャマイカを追い詰めるなど同地区の強豪相手にも戦えるレベルを誇っています。
国内リーグでプレーする選手が多いですが、国外組も決して少ないわけではなくコスタリカや欧州の2部や3部でプレーする選手も何人かいます。スペイン生まれでノルウェー2部でプレーするマティアス・モルドスクリードや、コスタリカで育ったバイロン・ボニージャなど国外で暮らす選手の招集も多く、グアテマラやエルサルバドルら中米のライバルと比較しても決して見劣りしない戦力を誇っている印象です。
そんなニカラグアに足りないのは「結果」です。親善試合とはいえ中米のライバル達にも渡り合える力を持ちながらもゴールドカップではまだ1勝もあげられておらず、W杯予選でも前回・今回と後一歩及ばず早期敗退を喫しています。決して実力が低いわけではなく躍進するポテンシャルも秘めているからこそ、出場国枠が増える次回の予選でどんな結果を出すのか注目です。
ドミニカ共和国
ポテンシャルだけなら飛躍する可能性を秘めているのがドミニカ共和国です。メジャーリーガーを何人も輩出しているようにニカラグア以上に野球のイメージが強いですが、2015年からはサッカーのプロリーグも発足し、まさしく「これから」のチームです。今予選では2勝をあげましたがパナマとの決戦に0-3で完敗し1次予選敗退となりました。
代表メンバーは国内リーグのほか、スペインの下部リーグに所属する選手が多く、母国出身者のほかスペイン出身のドミニカ共和国人もいます。そのほかフィンランド1部でプレーする27歳のルイ・デ・ルーカスやイタリア生まれでセリエCでプレーする21歳アントニオ・ナタルッチなど中堅、若手に悪くない選手層を持っています。
とはいえ、ドミニカ共和国にルーツを持つ選手が皆こちらを選択してくれるわけではないのも事実で、レアル・マドリードでプレーするマリアーノ・ディアスや元バルセロナでリーズでプレーするジュニオール・フィルポなど実績・実力共に十分な選手達はスペイン代表入りを望んでいます(マリアーノは親善試合、フィルポは非公式戦でドミニカ共和国代表として1試合のみ出場したことがあります)。
彼らのような実力者を代表入りさせるためには、地道なアプローチと強化を続けていくしかありません。「野球の国」「サッカー後進国」であるドミニカ共和国のサッカーが今後どのような発展を遂げていくのか、今後も目が離せないチームになりそうです。