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【4】スリランカ到着 / アーユルヴェーダ in スリランカ 〜人生を変える医療~


僕はスリランカの首都コロンボに位置する空港、バンダラナイケ空港に降り立った。

視界に入るのはシンプルいう言葉では片付けづらい殺風景な空港の風景だった。朦朧とする意識の中のその殺風景な空港の景観は僕の現実感をより失わせ、足を進めることを躊躇させた。

力を振り絞り足を一歩づつ踏み出すと熱帯特有の湿気と、蒸せ返るような香辛料の香りが鼻に付いた。その鼻に付く香辛料の香り誘われ歩みを前に進めると褐色の肌をした人々が視界に入り始める。時折、色鮮やかなサリーをまとう女性の姿が僕の目を奪う。


「スリランカに着いたのだ。」


僕は少しだけ現実感を取り戻した。


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ここでスリランカという国について少し事前に説明させてもらおうと思う。

スリランカはインドの南に位置するインド洋に浮かぶ北海道ほどの大きさの小さな島国で、旧国名をセーロンと呼ぶ。セイロンティーという名のお茶の名を聞いたことがある人も多いだろう。スリランカは赤道近くの熱帯の南国ではあるが、一部の山間部には冷涼な地域も広がり、イギリスの統治時代の影響で紅茶の栽培も盛んな国でもある。スリランカでは紅茶に限らず、様々な植物が島全体で繁茂する。

島の大部分を覆う深いジャングルでは様々なフルーツやハーブなども所狭しにたわわに実り、スリランカは別名”緑の島”とも呼ばるほど自然が豊かな国なのである。その多種多様のハーブが群生する気候を土台に長い年月をかけアーユルヴェーダは発展していったようだ。


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スリランカの国家の起源は紀元前5世紀ほどにインドから流れてきたインド人達によって作り上げられた国家であり、その後イギリスの統治時代を経て60年前に独立を果たした。その為に国民の多くが現地語とは別に英語を話す事ができコミュニケーションも比較的取りやすい。見た目はインド人と変わらない褐色の肌をしているが、インドと大きく違うのが国民の大半が献身な仏教徒であり、水や食べ物も豊富な環境の中で育った人々はとても穏やかで優しい。インドからの長旅で疲れた旅人達はスリランカを楽園のように感じると言う。

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僕はそんな事前情報を鵜呑みにして比較的安心した気持ちでスリランカの空港に降り立った。

ホテルの予約の際の話では、ドライバーが僕の名前の入ったサインボード持って空港に迎えに来ると言っていた。僕は目を眠い目を擦りながらおぼつかない身体を揺らしてゲートをくぐった。


僕は倒れて以来不眠症になり、睡眠導入剤を飲まずには寝れない日々が続いていた。スリランカに行くにあたり、睡眠導入剤を断ち切ろうと思い立ち、一切の薬を持って来ていなかった事が災いして案の定飛行機の中でも一睡もできなかった。眠くても寝れないという事は本当に辛い。常に思考が酩酊し、身体に力が入らない。やる気の「や」の字も湧いてこず、視界は狭く朦朧とした状態が1日中続く。僕はおぼつかない足取りで重い荷物を背負いあげてよたよたと空港のロビーに向った。

出迎えロビーに着くとスリランカではドライバーが迎えるスタイルが常識なのか客の名前入りのサインボードを持った人で溢れかえっている。日本人の僕からすると、目の前に広がる褐色の肌のスリランカ人たちは誰もが同じ顔のように見えてその同じ顔をした人だかりから僕の担当ドライバーを探すのが億劫になる。仕方なく僕は前から順に一つづつ名前の入ったボードを確かめっていった。

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10分近く同じ顔をする人だかりをかき分けて半ば諦めかけた頃に、WELCOME に続く僕の名前が目に入った。そのボードによたよたと近づき顔を上げると、周りのスリランカの人たちとは似つかわしくない風貌の男が立っていた。

スリランカの男性は基本的に、髪を短く刈り上げでこざっぱりしているのだが、彼の風貌は日本で言うギャル男風。明らかに他の人に比べてチャラいのである。シャツの胸の部分か大きく開け、ゴールドに輝くネックレスが目を留める。そのあまりに周りとは違う彼のチャラさに僕は思わず一瞬挨拶の握手を躊躇した。


( すごく怪しい、、、、。)


僕は心の中でつぶやきながらそっと右手を差し出した。


僕は以前にインドに行った際に何度も騙された。北インドでの旅では当たり前の話だが、タクシーの運転手がまともに目的地に行くことは少ない。勝手に絨毯屋に行ったり、宝石屋に行ったり、旅行会社に連れて行ったりして何かを売りつけようとする。慣れてくるとその馬鹿げたやり合いも楽しくなってくるのだが、初めは彼らのそんな信じられない行動に面を食らったものだ。

だから今僕の目の前にいるインド人のような顔をした彼を疑ってしまう。しかもその彼の風貌はとてつもなくチャラい。怪しまずに居る方がどうかしている。


「 Welcome to Sri Lanka !」


彼は透き通った声で、二重の大きな瞳で僕をじっと見つめ右手をしっかり握り締めた。握手とは不思議なもので、握手でその人なりが理解できるというといささか大袈裟ではあるが、握手をすることでその人の人なりの片鱗を感じることができる。


( 何だかインド人とは少し違うようだ。)


彼の大きな穏やかな手は僕を少しだけ信用させた。握手を交わし少しだけお互いへの理解を深めると、彼は僕の大きな荷物を代わりに担ぎ、車まで案内すると空港の外へ向かった。


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空港の外にでると、鼻の奥の方にうっすら感じていた雨に濡れた植物の匂いが大きく広がった。

彼は車をパーキングへ取りにいくのでここで少し待つようにと僕に言い、颯爽と深く広がる闇の中に消えて行った。その闇に消えゆく彼の後ろ姿を眺めて目を凝らしていると、闇の奥には僕の鼻の中で広がる雨に濡れた植物の匂いがあることに気がついた。

空港を一歩出ると遠くに見えるまばらな街灯以外ほとんど何も見えない闇だ。ビルらしきものや家らしきものも見当たらない。この鼻に広がる濃い植物の匂いと遠くから聞こえる鳥たちの鳴き声から察するに空港以外の部分は全てジャングルに覆われているようだ。妙な静けさと時折聞こえる朝を迎えようとする動物の鳴き声が未だ深い夜の闇にこだまする。僕は瞬間的に巨大なジャングルに囲まれるちっぽけな自分を想像し大きな孤独感に襲われた。


深い闇を見つめながら一人孤独を感じていると、ドドドドと遠くから低いエンジン音が聞こえてくる。すると黒い闇の中に突如、透き通る空のような青い塊が深い闇をかき分け現れた。その青いの塊は周りの風景とはあまりに不釣り合いで、誰もがその青い塊に注目せずにはいられない。真っ暗な宇宙に浮かぶ人工衛星のように、大自然の風景に迷い込んだその真っ青な異物はその場にいる人間の視線をクギ付けにする。皆がその青い塊に視線を奪われていると「Hello !!」と中から誰かを呼ぶような声が聞こえた。

僕はおよび腰でそっとその青い塊の中を覗いてみると、クルクルに巻いた髪形のファンキーなお兄さんが爽やかな笑顔で座っているではないか。それはなんともド派手なお兄さんの愛車のジャガーだった。


「なんなんだこの車 !?」


僕がそのスリランカの風景には似つかわしくないファンキーな色をした高級車に呆然と立ち尽くしていると、これまたファンキーなお兄さんは自慢げな顔で「乗れ!」と男前な顎で後部座席を指し示した。あのファンキー風貌にこのド派手な車。ますます怪しい、、、。


安堵に向かいかけた僕の心は再び不安と孤独でいっぱいになった。僕は一体何処に連れて行かれるのだろうか。


まだ明けぬスリランカの闇の中へ真っ青ジャガーは走り出した。


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