スベっる心理学13〜やってしまった“バナナ男”編〜(長編小説)
約束の日、待ち合わせの時間の十五分前には、洋平、詩織、麻衣の三人は現地に到着していた。
洋平は緊張しているためなのか、“おやつを勝手に食べたのは誰”と、母親が子供たちに詰め寄るような口調で、現在の天気の話をした。
ぎこちない空気に包まれた中、「お~い!」と軽快なリズム音のような声がした。
三人が声のするほうに視線を向けると、洋平にとっては救世主であろう姿がそこにあった。
「坂本さん……」
だが、“待っていました”とばかりの渇望の表情ではなく、不思議なモノを見た時のような表情である。
詩織と麻衣も同じような表情で、元気の姿を見ている。
「お待たせしました」
「お疲れ様です。坂本さん、その格好は――」
洋平はたまらずにきく。
「格好? やっぱり迷ったときはジャージだって。変か?」
「変です!」
元気の問いかけに対して、三人は事前に打ち合わせをしていたかのように、同時に言った。
「そうか? 上下黄色で、バナナみたいで可愛いだろ?」
「いえ、やっぱり変です!……すみません」
またしても三人はシンクロした。
そして、うっかりバカにしてしまったことに対して謝罪した。
「失礼なこと言ってすみません」
詩織が申し訳なさそうな顔をしてそう言うと、麻衣も頭を下げた。
「……」
元気は、謝罪とはいえ詩織に声をかけられて、緊張のために何も言い返せずに固まってしまった。
(まずいぞ、これじゃ吉沢に言われたソフビ人形じゃないかよ。どうせ最後は普通に話せているんだ。だったら最初からキメてやるって)
元気はそう決心すると、詩織の前に立った。
「桜井さん、手のひらを見せてくれませんか?」
「はい。右手でいいですか?」
「両手がいいです」
「こうでいいですか?」
「はい、そうです。それでは、このままの形で手のひらをボクの顔に近づけてください」
詩織は元気に言われるままに、隣り合わせに接した両手の手のひらを、彼の顔に近づけた。
「……うわぁ、桜井さんの手からソルト光線が、ダメだ、まぶしい」
元気はそう言うと、全速力で詩織から遠ざかった。
数十メートル先にある電柱のそばで止まると、裏側から顔を出し、三人のほうを物珍しげな表情で見ている。
「あ! バナナが一本だけ枝にくっついている!」
洋平は、笑いながら元気のほうを指差して言った。