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スベっる心理学28〜心理学さま降臨編〜(長編小説)

「今のは『同調』というもので、例えば、リンゴを手に取って、このリンゴを食べたいですときく。でもその人は、何度きいても、これはリンゴではなく肉まんだと言い張るんだって。そこで、SNSでそのリンゴの画像を公開して、“これはリンゴですよね?”とアンケートをとる。だが一万件の返答を見てみると、一万人全員が、これは肉まんだと答えている。でも実際はリンゴなんだって。吉沢くん、それでもキミは、これがリンゴだと言い切ることができるかね?」

元気は、博士口調で尋ねた。

「それは――肉まんだと思ってしまうかもしれません」

「ビンゴ! そういうことなんだって。少数意見は大多数派の意見に流されてしまいやすい傾向にあるんだって。今のオレ、さえてるだろ」

「本が、いえ、“ビンゴ”が出た時の坂本さんは最強ですよ」

洋平はすぐに言い直して、先輩をヨイショした。

「そうかそうか、ビンゴ! ビンゴ! ビンゴ! どうだ、トリプルビンゴだって」

「最高っす。一生坂本さんについていきます」

洋平の徹底したおだてに、元気は元気いっぱいに、両手でガッツポーズをして応えた。

「他には、どういったことが書いてあるんですか?」

「まぁ待てって……よし、今日はここまでだ。悪いな、普段本なんか読まないから、なんか疲れたって」

「そうですか。残念です」

洋平は、発言通りの表情である。

「じゃあ帰るな。この本借りていってもいいか?」

「どうぞ持っていって下さい。そんなに気に入ったんでしたら、お譲りしますよ」

「ホントか、タダでか?」

「もちろんですよ。本だって、喜んで読んでくれる人のもとにあったほうが幸せだと思いますから」

「そうか、ありがとな」

元気は、洋平の肩に手を乗せてお礼を言うと、玄関に向かった。

靴を履くと、後ろに居る洋平のほうに体を向け、今日一番の笑顔を見せた。

「吉沢、いつもありがとな」

元気はそう言い、深々とお辞儀をした。

「なにを言っているんですか、ボクの方こそありがとうございます。坂本さんと一緒にいると、なんていうか、青春って感じがして、心が温かくなるんです。この先も、ずっとよろしくお願いします」

洋平も、この日一番の笑顔であった。


元気は家路に着くとすぐに、そのままの服装で座布団の上にあぐらをかき、洋平からもらった本の続きを読み進めた。

一通り読み終えると、立ち上がって台所に行き、蛇口からコップに水を注ぐと、一気に飲み干した。

「……ぬるい!」

言葉は満足していないが、表情はご満悦である。

(今のオレは、坂本界一のイケ男で間違いないって。なんか不思議な気持ちだな。不思議の国のサカちゃん、なんちゃって。不思議と冴えてるって)

元気は、不思議な気持ちのまま洋平に電話をかけ、詩織と連絡を取って、もう一度チャンスがほしいと頼んでくれるようにお願いした。

洋平は、元気の依頼を快い口ぶりで引き受けると、その日のうちに詩織に連絡をして事の次第を伝えた。

すると、不思議とすんなりと、会ってくれるとの返事をもらうことができた。

すぐさま、洋平は元気に電話でそのことを伝えると、元気は不思議な笑い声で喜んだ。



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