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スベっる心理学43〜河川敷は不思議スタンダード編〜(長編小説)
日曜日の午前六時四十分、待ち合わせの時刻の二十分前に、洋平は元気との待ち合わせ場所である河川敷にあるテニスコートの敷地内に到着した。
洋平は、心持ち浮かない様子である。
「だぁ~れだ」
洋平が到着してから数分後、背後からいつも耳にする愉快な音色が聞こえてきた。
「おはようございます! 池沼社長」
「なんだって」
洋平は冗談で言ったのであろうが、後ろを向いたら、そこには元気の後ろ姿があった。
元気は、せわしなく辺りを見まわしている。
「冗談ですよ、坂本さん」
「何が冗談なんだよ」
「池沼社長のところです。社長はここにはいませんよ」
「……吉沢、暴れるぞ」
元気は洋平のほうに体を向けると、冗談まじりでそう言った。
「それより、なんでそんなに沈んだ顔をしているんだって」
「だって、すでにこの天気じゃないですか。昼過ぎから雨だっていうから、朝早くに待ち合わせしたのに……」
「大丈夫だって、天気予報を信じようって」
「そう言われましても、すでに小雨が降っているじゃないですか。それに、あの雲の群れは絶対ヤバイですって。近いし明らかにこっちに向かって来ていますよね。あれが昼過ぎに来る予定の雨雲ですよ」
「大丈夫だって、色だけで判断するなって。オレたち素人なんだし……」
元気は、すぐそこまで迫っている真っ黒な雲の群れを見ながら、不安を隠しきれない表情で強がった。
「吉沢、傘はあるか?」
「持って来てません。いま大丈夫だって」
「よし、それでいいって。傘なんか持っていると、あの雨雲にナメられるだけだって」
「“色だけで判断するな”って言ったばかりじゃないですか。“雨雲”って認めちゃってるじゃないですか」
「大丈夫だって。あれは雨雲だけどこっちには来ないって。こんなところで傘を持っていないヤツが二人で堂々と立っているんだって。うかつに手を出すと、何を知れかすか怖くて向かって来られないって」
「そうだといいんですが」
二人は、この後ずぶ濡れになることを悟ったような表情をしている。
黒い雲の群れはどんどんと、元気と洋平のいる地点に向かって来る。
そして、小雨から大粒の雨に変わろうとすると……。
「ヤバイって」
元気は小声でそうつぶやくと。
「ちょっと坂本さん!」
ダッシュでその場を後にした。
「もう! 待ってくださいよ!」
洋平は慌てて後を追う。
洋平はすぐに追い付くと、元気の真横に並びながら、運動会の二人三脚のようにして並走している。
洋平は隣を走っている元気に、何か言いたげな口もとで先輩の顔を見た。
すると、元気は口を半開きにして目を閉じて、アゴを上げながら苦しそうにして走っている。
その姿を見た洋平は、クスッと笑うと元気の背中側に移動して、黙って後に続くようにして走り続けた。
二人は、テニスコートから一番近くにあるコンビニにたどり着くと、店内で少しの間、商品を吟味しつつ休憩をとった。
呼吸が整うとそれぞれビニール傘と軽食を購入して、この日の“自分探しの旅”は中止して、この場で解散することとなった。