スベっる心理学25〜心理学さま降臨編〜(長編小説)
「そのまま告っちゃえって。それで?」
元気は、今起こっている出来事かのように告白を促す。
「気がつけばチラ見からガン見に変わっていたと思います」
「好きならそうなるって」
「ジロジロと見ていたら、ユカちゃんが右手に何かを握っているのに気づいたんです。それから一足先に彼女たちはその場を後にしました。帰る際に、ユカちゃんはずっと手に持っていた物を朝礼台の上に置いていったんです。ボクは完全にプレイを中断して、カラスに持って行かれる前にダッシュで朝礼台まで行き、ユカちゃんの持っていた物を慌てて取ってポケットの中にしまい込みました」
「それがこの松ぼっくりだな」
「そうです。正確には“思い出の松ぼっくり”なんですけど」
「初々しいじゃないか。ユカちゃんとは、その後どうなったんだよ?」
「ユカちゃんは、小学三年の夏休み前に転校していきました。それっきり、今日まで一度も会うことなく……結局、三年間ひと言も口を利くことも出来ずに……」
「分かるってその気持ち。辛かったろうに」
元気は、目に涙を浮かべながら共感した。
「遠い過去の話に共感してくれて涙を流してくれるなんて。坂本さん、一生ついていきます」
洋平も、下を向いて泣いてしまった。
「吉沢、顔を上げてくれって。もう一杯イカ刺しいっちゃいますか」
「そうですね――って、ボクの思い出話なんかより、坂本さんの“装備”ですよ」
「思い出の松ぼっくりじゃ、“装備”にならないってことは分かっているんだな」
「はい、ついつい懐かしくて持って来ちゃいました。でも、参りましたねぇ。どういったモノが“装備”になるのか見当もつきませんよ」
洋平は、心底困ったような顔をした。
「ちょっと部屋の中探させてもらうぞ」
「どうぞどうぞ」
元気は洋平の許可を得ると、さっそく部屋の中を詮索し始めた。
まず、元気が向かった場所は……。
「坂本さ~ん、そっちはトイレですよ。何もないと思いますけど」
「ただしたいだけだって」
トイレから出てきた元気は、ズボンのポケットの中にポケットラジオを入れて、ちょうど好きな芸能人であるマイケル山下がパーソナリティーをつとめる番組が始まる所だったので、始まると同時に、“装備”探しを開始することにした。