スベっる心理学26〜心理学さま降臨編〜(長編小説)
番組の進行に合わせて、マイケル山下がよく分からないことを言ったらツッコミを入れ、ウンチクを披露したら知ったかぶりをし、歌のコーナーになれば一緒に口ずさみながら、マイベストな“装備”を探し回った。
そして、三十分の番組も終わりに近づこうとしたとき……。
「お~い! 見つけたど~ん!」
軽快なリズムが部屋中に響いた。
「なにか良いモノが見つかったみたいで! どれどれ!」
洋平は、元気のいる部屋へと駆け寄る。
「手に持っているのは、本ですか?」
洋平がきくと元気は満足げな笑顔で、手に持っている本のタイトルを後輩に見せた。
「『心理学』ですか?」
「“心理学ですか”って自分で買ったんじゃないのかって?」
「買ったような買っていないような。読んだ記憶が無いんです」
「なんだよそれ。本棚の中にある数少ないうちの一冊だろ。怖いって」
「たしかに、ちょっとしたホラーですよね。それにしても『心理学』って、何のひねりもないタイトルですよね」
「売る気ゼロだって。この媚びない感じがオレと重なるだろ」
「そうですね……」
洋平は、お世辞笑いのような表情で言った。
「それにしても、心理学とは坂本さん、目のつけどころが違いますねぇ~」
洋平は言い方こそ太鼓持ちのようではあったが、表情は一転して、心から感心している様子である。
「そうか。今からオレは、“坂本さんゼロ式”だ、はぁ!」
元気は腰を落として、持っている本を前に突き出し、ヒーローが変身するかのように叫んだ。
「……」
「なんか言ってくれって、カッコイイだろ?」
「そうですね……」
洋平には、ヒーローとは何たるかがよく分かっていないようである。
「さっそく変身だ」
元気はそう言うと、その場に座り込んで、さっそくページをめくって熟読し始めた。
洋平もその場に正座して、黙って、ただただ先輩の姿を見つめている。
時折ページをめくる音が聞こえるだけであり、二人は微動だにせず、まるで絵画に描かれた人物のようである。
「……吉沢、実はオレ、“地球人”じゃないんだ。“ヤマ人”なんだ。言い忘れてたけどごめんな」
数十分間の沈黙の後、元気は視線を本から洋平に移して、真顔でそう言った。
「え?」
洋平は、元気の不意をつくような地球人離れした発言に、思考がついていっていないみたいである。