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スベっる心理学36〜システムの穴の穴編〜(長編小説)

元気の案内で、二人は一度公園の敷地内から出た。

それから三分近く歩くと、一軒の建物の前で足を止めた。

「ここです」

元気は、出入口のすぐ横に設置してある、店の看板を指差して言った。

「『たこ焼き島』ですか。美味しそうですね。早く入りましょ」

元気のお店のチョイスは、どうやら詩織のお腹のツボにドンピシャリだったようである。

詩織は引き戸を開いて、先に店内へと入った。

元気は慌てて詩織の後に続く。

二人用の席に案内されると、テーブルを挟んで向かい合わせで椅子に座った。

メニューを注文すると、店員はいちど厨房へと戻った。

頼んだメニューが運ばれてくるまでの間に、「坂本テクニカル・心理学メソッド」が再開される。

(ここは勝負どころだって)

元気は、心を奮い立たせた。

「たこ焼き屋さんとは意表を突かれました。お祭りみたいでワクワクします」

「喜んでもらえてよかったです。――ところで桜井さん、ボクと一緒にラクダに乗って、世界中を旅しませんか?」

元気は真剣な表情で、唐突にそう切り出した。

詩織は冗談だと思っているのか、何も答えずに、微笑みながら元気の目を見ている。

(よし、出だしは完璧だって。今から『ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック』を進めていく。このメソッドは、最初は本当にお願いしたいことよりも、相手が無理だと思うような大きな事を頼んでみる。その後に、それよりも小さな、本当にお願いしたいことを伝えてみる。すると相手は、最初のお願いを断ってしまったことになんとなく罪悪感を感じてしまっていて、次のお願いは、最初のよりも軽いし引き受けてても良いかなっていうようになりやすくなるんだって。例えば、公園の和式トイレで用を足す。個室は一ヶ所しかない。用事を終えてお尻を拭こうとしたら、トイレットペーパーが切れている。しばらくの間、何も出来ずにその場で困り果てていた。どうしたらいいんだと途方に暮れていいると、誰かが小便器で用を足していることに気が付く。慌てて個室の中から声をかける。すると男は用を済ますと個室の前まで来てくれて、「どうかしましたか?」と尋ねてくれた。そんな時にこのメソッドを利用するんだって。本当にお願いしたいことは、トイレットペーパーが欲しいということだけど、最初はそのことは伏せておく。そして、まず最初はこうお願いしてみる。「すみません、紙が無いみたいなんですが、電気屋さんに行って、洋式の便器とウォシュレットを買ってきてセッティングして頂けませんか?」と。もちろん、相手はそんな大掛かりな要求に応じるわけがない。そこで次はそれよりは断然に軽い、本当にお願いしたかった要求を言ってみる。「すみません、無理言いまして。では、ドラッグストアに行ってトイレットペーパーを買ってきては頂けませんか?」と。すると相手は、最初のお願いを断ったことに負い目を感じているから、「喜んで。少しの間待っていて下さいね」となるわけだって)

元気は余裕のある、穏やかな笑顔で詩織の目を見返した。

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