ギャップの頃合い
何とも思っていなかった人を好きになるきっかけの一つに、「ギャップ」というものがあります。こんな人だと思っていたのに、ある日、意外な一面があることを知り、それがキッカケとなって恋に落ちてしまうというような。
そんな人間関係、特に恋愛に関しては絶大な効力を発揮するであろう「ギャップ」。そのギャップを例える上で昔からよく使用されている例えに、「学ラン姿のこわもてな不良少年が、空き地で捨て猫を優しい表情で抱いている」という表現が用いられています。
「ギャップ」にはスタンダードとなる指標があり、それに「学ラン姿のこわもてな不良少年が、空き地で捨て猫を優しい表情で抱いている」という例えが当てはまるのではないかと思います。この例えがギャップとしては百点満点であり、ここから程度が離れていけばいくほど、ギャップ点数が下がっていき、相手がギャップだと感じる度合いは低下していくのではないのかと考えます。
今から例を二つ、男性視点と女性視点からあげてみます。一つ目は男性視点の、スタンダードからは遠く離れた、百点満点を大きく下回るギャップの例です。
鈴木(スズキ)くんは、清楚な雰囲気の女性と交際することになり、この日は初めてのデート。待ち合わせ場所に到着すると、横断歩道の向こう側には彼女の姿があります。
お互い嬉しそうに手を振り合っています。赤信号で二人は車道を挟んで、向かい合わせで立ち止まっています。
彼女は水色のワンピース姿。お互い早く会って話がしたくてたまりません。
そして待ちに待った青信号。彼女は少しでも早く鈴木くんに会いたかったのか、世界陸上の男子短距離走選手のような走り方で、手をパーにして頬の肉を揺らしながら、全速力でこちらに向かって来るではありませんか。
これはスタンダードなギャップからはかけ離れすぎていて、もはやギャップとはいえないのではないのでしょうか。僕が鈴木くんだったら、全速力でこちらに迫ってくる大好きな彼女と同スピード、もしくはそれ以上の速度で逃げることだと思います。
触れあった瞬間に、全てが終わってしまうような気がするから……。
次に女性視点の例です。クラスの八割の女子が恋してしまうような、いつもクールで超絶にイケメンでカッコイイ男子生徒、風間(カザマ)くんがいました。それは体育祭での最終種目のリレーでの出来事です。
風間くんは四人走者でのアンカーです。学校の女子たちは風間くんのかっこ良さに目が釘付けです。
そんな中で最終走者である風間くんにバトンが渡りました。そして、風間くんが勢いよく走り出した。
女子たちからは黄色い声援が飛び交っている、と思いきやグランドは静まり返ってしまった。なぜかというと、風間くんは足が速いには速いのだが、走り方が、マリオのBダッシュのようで現実離れしていたからです。
僕が女子生徒の一人だったら、風間くんから視線を落として、運動靴の靴ひもをいちどほどいて、再び結びなおしながらを繰り返しながら、走り終えるのを待つことだと思います。憧れのままでいたいから……。
これもスタンダードなギャップのインパクトを大きく上回っており、ギャップ点数でいうと赤点になるのではないのかと考えます。
このように、ギャップには頃合いというものがあり、「学ラン姿のこわもてな不良少年が、空き地で捨て猫を優しい表情で抱いている」という程度のものが百点ギャップであり、この例えよりも強烈、もしくはインパクトが弱くなっていくにつれて、ギャップ点数は下がっていくのではないかと、個人的にはそう考えます。