スベっる心理学21〜やってしまった“バナナ男”編〜(長編小説)
「どうかしましたか?」
元気は、詩織の涙に動揺を隠すことができずに、おどおどとした口調できいた。
すると、麻衣が椅子から立ち上がり、座っている元気の前に立った。
「あなた、さっきからどういうつもりなの! 詩織が嫌がっているの分からないの? ムカつく! 詩織、帰ろう」
麻衣は声を荒げながらそう言うと、詩織のもとへと行き、一緒に帰ることを促した。
詩織は椅子から立ち上がると、「ごめんなさい、今日はこれで失礼します」と頭を下げ、麻衣と共に出入口へと歩いていった。
元気は口を半開きにして、茫然自失とした表情で、黙って二人の後ろ姿を見ている。
「待って下さい!」
洋平は、慌てて二人を追う。
「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした!」
洋平は、誠心誠意あたまを下げた。
「吉沢さん、顔を上げて下さい」
詩織は、慌てるようにして言った。
「そうですよ、吉沢さんは何も悪くありません。悪いのは、常識知らずなあの人なんですから」
麻衣は、元気を睨みつけるようにしてそう言った。
「行こう」
麻衣は詩織を見て言った。
「ごめんなさい。今日は帰ります」
「そうですよね。気をつけてお帰り下さい。今日は、本当に申し訳ありませんでした」
洋平は再び頭を下げると、詩織と麻衣も軽く頭を下げて、二人はその場を後にした。
洋平は顔を上げると、呆然と立ちつくしている元気の所へと行った。
「……どうやら、やらかしてしまったみたいだって。どうしたらいいんだ?」
「……そうですね、日を改めて謝罪するしかないかと……」
「そうか……」
「そんな顔をしないで下さいよ。済んでしまったことを後悔してもしかたありません。これから挽回出来るようにがんばりましょうよ」
洋平は笑顔ではあるが、目はうるんでいる。
「なんで吉沢が泣くんだよ。ありがとな」
元気はそう言うと、洋平の肩に手を置き、不甲斐ない自分を励ましてくれる後輩に感謝をした。
「これからどうします?」
「そうだな、今日は吉沢んちに泊まる」
「そうですか。そしたら晩ご飯を買って帰りますか」
「うん」
まるでカップルのようなやりとりにも、今の二人には、何の違和感も感じていない様子である。
二人は、洋平の家の近くにあるスーパーに行くと、カレーライスの材料を買ってから家路に着いた。