スベっる心理学9〜出逢いは偶然に、隠し扉を開いたかの如く編〜(長編小説)
洋平は、兄貴分であり親友でもある男の心の内を感じたのか、“どうかしたんですか”とはきかずに、黙って優しく微笑んで視線を向けた。
四人は待っている数分の間、男女が出会えばとりあえずは自己紹介と言わんばかりに、男性陣から順番に名乗り始めた。
洋平が最初に、次に元気が名乗り終えると、女性二人が続いた。
まず、ショートカットのキャプテン風の女性から話し始め、名前は南沢麻衣(ミナミサワ・マイ)。
そして、元気をカチンコチンのリアル人形にした、美人ピアニスト風の女性は桜井詩織(サクライ・シオリ)。
ともに年齢は二十五歳であり、高校時代に知り合ってからの友達だということである。
洋平は、「坂本さん、三つ年上なんてダンディーじゃないですか」と、元気に会話のきっかけを作ろうとしたのか、少し大げさな口調で言った。
それに対して元気は、「おぅ」とボソッと言い、それっきり口を開くことはなかった。
そして、いよいよ待ちに待ったメリーゴーランドに騎乗する時が来た。
メリーゴーランドが動き出すと、洋平、詩織、麻衣の三人は少し照れくさそうにしている。
一周回るごとに、外から子供だけを乗せた親や、祖父母達が手を振っているからである。
一番楽しみにしていた元気はというと、そんなことなど視野には入らず、前の馬に乗る詩織の後ろ姿に、ただただ見とれていた。
彼だけ時間が止まってしまったかのように微動だにしない。
まるで、回転木馬の上に乗っかったソフビ人形のようであった。
メリーゴーランドを降りた四人は、その後も行動を供にした。
いくつかのアトラクションに乗り、園内で夕食を済ませると、ゲート付近まで移動して解散することとなった。
一緒に行動した元気は、その間、一言も口を開くことはなかった。
「素敵な時間をありがとうございました。楽しかったです」
洋平は、見た目どおりに爽やかな口調に言った。
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」
「ほんと、あっという間の一日でした」
詩織と麻衣もありきたりな言葉ではあるが、心からの笑顔であった。
「よかったら、連絡先を交換していただけませんか?」
「――えっ?」
元気は四人で行動してから初めてそう発言すると、他の三人は、示し合わせたかのように同時に聞き返した。
まるで、ソフビ人形が語り出したかのように……。