スベっる心理学20〜やってしまった“バナナ男”編〜(長編小説)
「はい、そこまで! ケンカなんかしない! みんなが楽しめるよう、お互いに思いやって行動しましょう!」
麻衣は、幼稚園の先生が園児たちを諭すような口調で言った。
「そうだぞ、吉沢、しっかりやってくれって」
「だからやめなさい!」
「はい、南沢先生、ごめんなさい」
元気は、いじけた口調で謝った。
「気を取り直して他のゲームでもやりませんか?」
詩織が言った。
「それもそうですね。でもその前に、あそこに座ってジュースでも飲みませんか?」
元気は少し離れた所にある、四脚の椅子が置かれた丸テーブルを指差して言った。
ぎこちない雰囲気の中、他の三人も了承して、自動販売機で飲み物を買って椅子に腰掛けた。
「……ここってゲームセンターだけじゃなくて、上の階に行くと、カラオケボックスとか映画館、それにレストランなんかもあるんですよ」
洋平は、気まずい雰囲気を払拭するかのように三人に話を振った。
「そうなんですか。毎週でも通えちゃいますね」
「ホントだね」
麻衣と詩織が、続けて洋平の話に乗るように言い、良い方向に向かっていくかのように思われた。
しかし……。
「一ヶ所で全部済まそうなんて手抜きですよね? 吉沢、もっと人のことを大切におもてなそうとは思わないのかって?」
事の元凶は、それを許さなかった。
「そうですよね。すみません……」
洋平は、少しむっとした顔をして下を向いた。
そしてこれから数十秒後に、またもや元気はやらかしてしまうこととなる。
「ところで、桜井さんの飲んでいる紅茶って何味ですか?」
元気が尋ねた。
「レモンティーです」
「アイスですか? ホットですか?」
「アイスです」
「どれどれ」
元気はそう言うと、詩織が手に持っている、アイスレモンティーの入った紙コップを手に取り、自分のもとへと引き寄せた。
そして、何を言わずにひとくち飲むと、何事もなかったかのように、無言で中身の残っている紙コップを詩織に手渡した。
「間違いなく、アイスレモンティーです」
「はい?」
「桜井さんが飲んでいるのは、アイスレモンティーで間違いありません。どうぞ、このままお飲みください」
「はい……」
詩織はひと言返事をすると、飲み物には口をつけずに、手に持った紙コップをテーブルの上に置いた。
目には涙を浮かべている。