スベっる心理学27〜心理学さま降臨編〜(長編小説)
「“ヤマ人”とは?」
「……うっそぉ~! どうだ、怖かったか?」
「……」
洋平は、始めからよく理解できていない話がどんどん進行していくことに、どう返したらよいのか分からないようである。
「そうかそうか、怖くて声も出ないんだな」
元気は満足そうな表情で、二度うなずいた。
「今のは心理学では『ハロー効果』っていうんだって。相手の強烈な特徴、新情報を知ることによって、その人に対する見方が変わる。冴えないオッサンだと思っていたら、実はあの名曲もこの名曲も、ついでにお祭りで流れていたあそこの名曲まで、全部そのオッサンが作曲していたと知ったら、その瞬間から、“冴えないオッサン”から“憧れのおじ様”に様変わりだって」
元気はまたまた満足げな顔のまま、二度うなずいた。
「なるほど、たしかにその通りですね。あれ、でも、坂本さんが“ヤマ人”って、それって正しい使い方なんですか?」
「吉沢、オレが地球人じゃなくてヤマ人だって知ったとたん、“プライベートでも親交のある会社の先輩”から、“得体の知れないヤバイ先輩”に印象が変わっただろ。気安く話しかけられなくしちゃってごめんって」
「それは大丈夫ですけど、他にはどういったことが書かれているんですか?」
洋平は、話をそらしたいかのように質問をした。
「待て待て、そう焦るなって。オレも本も逃げたりはしないって」
元気は本日、三度目の二連続のうなずきを見せた。
そして、開いている所からページを戻していくと、洋平が欲していそうなキーワードを探し始めた。
「……おっ、あったって」
元気はそう言うと本を置き、洋平のほうに体を向けた。
そして、円を描くように洋平の周りを走り出した。
「何人だ?」
「えっ、何がですか?」
「オレ、何人いる?」
「何人って、一人ですよ」
「七人だよな?」
「……はい、七人いますよ」
洋平は、少し面倒くさそうな口調で答えた。
「あれって、“三週間前のパンツ”だよな?」
元気は洋平の周囲を走ったまま、ベッドの上に置いてある目覚まし時計を指差しながら言った。
「“三週間前のパンツ”?――“目覚まし時計”のことですか?」
「“目覚まし時計”じゃなくて“三週間前のパンツ”だよな?」
「はい! 間違いなく、これは“三週間前のパンツ”です!」
洋平は毎度のごとく、元気ワールドに合わせてそう答えた。
元気は立ち止まると、えびす顔で洋平を見ている。