スベっる心理学14〜やってしまった“バナナ男”編〜(長編小説)
すると、詩織と麻衣も笑顔になり、緊張感のあった場の雰囲気は一気に和んだ。
元気が三人の居る場所に戻ると、さっそく店内へと入った。
まず最初に四人の目に入ったのは、出入口のすぐそばに置いてある定番中の定番、“エアホッケー”である。
「あ、ダブルス用じゃないですか。みんなでやりましょうよ?」
洋平が言った。
「いや、止めたほうがいいって。仲間内で争ってもどちらかが傷つくだけだって。しかも、出入口のすぐそばで人通りが多いだろ。負けたほうトラウマになるって」
元気は、即決で拒否した。
だが本当の理由は、“パックがゴールに吸い込まれたときの演出音が怖い怖い病”という、自分で命名した心の病を抱えているためである。
「エアホッケーよりあれなんかはどうですか?」
元気は、不安から遠ざかりたいがために、適当に目に入った対戦型のレースゲームを指差して言った。
「いいですねぇ、オープニングはやっぱりレースゲームですよね。やりましょうよ?」
洋平は、上司にゴマをする部下のように、ころっと意見を変えた。
詩織と麻衣も男二人の意見に賛同して、最初にやるのは、『みんなが一番、ドリフトキング~勝者は一人~』に決まった。
四人は、ゲームの前に行くと首をかしげた。
「なんだよ、みんなが一番で勝者は一人って。やる前からクソゲー決定だって……まぁ、とりあえずはやりますか」
元気は文句を言いつつも、恐怖から救ってくれたこのゲームに敬意を払い、ドライバーズシートに座ってハンドルを握った。
残る三人も後に続いてシートに座ると、洋平の「いきますよ!」のかけ声に合わせてコインを入れた。
そして、コンピュータの音声に従って、それぞれマシンを選択してコースを決めた。
マシンは、男二人は走行性能重視、女性たちはデザイン重視で選択した。
コースは、満場一致で初心者コースとなった。
画面が選択画面からスタート画面へと切り替わった。
臨場感あふれる演出のためか、皆一様に緊張している様子である。
『ようこそ我がレースの世界へ。みんな、一番を目指して仲良くゴールしてくれ』
レースの案内人のセリフに、皆一様に首をかしげた。
元気が、「どっちなんだよ、やっぱりクソゲーだって。ホントにゴールあるのかよ」とボソリと言い終えたのと同時に、レッドシグナルが消灯してスタートとなった。