スベっる心理学24〜心理学さま降臨編〜(長編小説)
そして、クローゼットの扉を開けると、中から耳当てを取り出して戻ってきた。
「これなんかどうですか?」
「……吉沢、ふざけてるだろ。今は夏だって。ジャージに耳当てって、白クマに耳当てみたいなもんだろ」
「すみません、冗談です。ちょっと待っていて下さいね。次はちゃんとしたモノを持ってきますから」
洋平はそう言うと再び隣の部屋に行き、先ほどと同じクローゼットの違う引き出しから、白い布に包まれた何かを大事そうに持ってきた。
「何だよそれ? 期待できそうな感じだな」
元気は汚職まみれの権力者のような、不適な笑みを浮かべた。
「はい、どうぞ」
洋平は布から中の物を取り出すと、元気に手渡した。
「松ぼっくり?」
「いいえ、違います。“思い出の松ぼっくり”です」
「……一応聞く、“思い出の松ぼっくり”ってなんだ?」
元気は、冷めた目で洋平を見てきいた。
「この“思い出の松ぼっくり”はですね、忘れもしません、小学二年生の十一月のことでした……」
洋平は子供に向かって、昔話の朗読をするような口調で語り始めた。
「違う時代の出来事じゃないんだから、いつも通りの話し方で頼むって」
「すみません。つい力んでしまいました。そう、小学二年生の頃のお話です。当時好きだった娘が持っていた物なんです」
「持っていた物? もらったんじゃないのか?」
「はい、“持っていた物”です。その日は放課後に、同じクラスの男たちでグラウンドに集まってサッカーをしていたんです。でも、いつものメンバーと同じようにプレーしていたんですけど、なぜだかソワソワするんですよ。第六感っていうのが働いていたんですかね。それで気になって辺りを見回してみると、なんと大好きなユカちゃんが、友達と二人で朝礼台に座って僕らのことを見ているではありませんか!」
洋平は、当時のことを思い出して気持ちが高ぶっているのか、どんどん声のボリュームが上がっていき、最終的には舞台俳優のようであった。
「分かったから落ち着いてくれって。それで?」
「ユカちゃんはボクの初恋の人なんです。そのユカちゃんが僕たちのプレーを見ているんですよ。もう左サイドから、彼女がより近くにいる右サイドに勝手にポジションチェンジして、サッカーそっちのけでチラチラと見ていましたよ」