見過ごされている?高齢者同士のパワハラ問題
某県の知事のパワハラ問題が世間を賑わせているけど、わたしの身近でもパワハラ被害があった。
家を出た母、父との二人暮らし
母が「実家を片付けるため帰省する」と言って家を出た。とはいえ祖父も祖母ももう亡くなっているので母の実家は空き家になっている。帰省と言っていたが実際は家出をした形だ。
母は父に対する怒りポイントが溜まるとプチ家出を何度かしていたので、わたしとしては「いってらっしゃい。帰ってくるときは連絡して」くらいの感覚だった。
ただ、そうなるとわたしが父の食事や洗濯などの身の回り世話をしなくてはならない。食事は基本的には総菜などを買うことが多かったが、時間に余裕があるときは作ったりもした。そのときは「味が薄い」とか文句を言ってくるときもあった。
「ああ~こういうことの積み重ねで母は家出をするんだろうな」
と家出をする気持ちが多少は理解できた。
そんな父との生活が進む中で、父の食の好みというのがわかってきた。父はとにかくお酒に合いそうなものを好む。父にとってお酒が毎日の楽しみだった。
父が好きそうなものを買って夕飯に出したときはとても嬉しそうにしていた。あまり感情を表に出さない父が子供のように「美味しそうだなあ」と言っていた。
職場でパワハラをされていた父
そんなある日、お酒もよく進みほろ酔いになった父が自分の職場のことについて話し始めた。父は既に定年退職しており、市が運営するシルバー人材センターから紹介された大きな公園のような施設で週に3回程度働いている。
その父の職場にある人が赴任してきたのだという。その人は白井(仮名)といい、公務員を退職し父の職場に天下りのような形でやってきたので立場的には父より上になる。
その白井に父はパワハラを受けていると話し始めた。「へ?パワハラ?」と最初は何言ってるのという感じだった。
というのもパワハラとはベテランの上司が若手の部下にするものだと勝手に思い込んでいた。父はもう70歳で白井も65歳くらいなので高齢者による高齢者へのパワハラということになる。わたしはその状況は全くの想定外だった。
その状況が理解できたとき、わたしは可笑しくなって思わず吹き出してしまった。しかしわたしはここで吹き出してしまったことを今でも後悔している。
父の話を聞くうちに「ああ~これはちゃんとしたパワハラだなあ」と思うようになっていった。(ちゃんとしたパワハラとは何かということはここでは置いておこう…)
白井は父がミスをすると、とにかく怒鳴るのだという。父は片方の耳がほとんど聞こえていないので電話が掛かって来た時などは反応が遅れてしまう。それは父にはどうしようもないことで、周りのサポートが必要なことだ。
しかしそこも白井は容赦ないのだという。
白井は以前、公務員として勤務していたので規律やルールに厳しくそれは公園利用者に対しても例外ではない。
父は人に対して指摘するのが苦手らしく、利用者が多少ルールとは異なる行動を取ったとしても見過ごすことがある。しかしそれは白井にとっては許されないことで、そういう利用者がいるとわざわざ父に指摘させる。
これは父自身も見直すべきことかもしれないが、完全に父は委縮してしまっており白井と一緒にいるだけでストレスを感じてしまっている様子だった。
にも関わらず白井はお昼休憩の時も父が見える場所にいることを強要し、それだけでなく休憩中にスマホを触っているだけで注意されるらしい。
その状況を聞くに、言わば監獄のなかの看守と受刑者のような関係性みたいだった。
父は最近夜寝つきが悪いらしく、特に白井と同じシフトの前日は全然眠れないので、眠剤を利用していると話した。
改めてわたしは父に対して吹き出してしまったことを申し訳なく思った。
父がわたしに話してくれた理由
しかしどうして普段自分のことを全く語らない寡黙な父が、ましてや自分の弱みなど見せたことない父がわたしにこんな話をしてくれたのだろうか。
実はわたしは以前、父の職場の公園に遊びに行ったことがある。そのときに妙に威圧的な中高年の男性がいた。わたしは父にこっそり「あの人高圧的やな」と伝えた。
その威圧的な人こそが白井であり、父は「お前も分かったか!」と監獄から助けてもらったかのような顔をしていた。
そのことがあって父はわたしにパワハラを受けていることを話してくれたのだ。
複雑な高齢者のパワハラ問題
解決策としては職場を変えることを進めてみたが、父は今の仕事が好きでなるべく転職はしたくないと言った。シルバー人材センターの人にも相談することを進めてみても、それは抵抗があるみたいだった。
父は高校を卒業してから定年退職するまで同じところで働いていて、転職したことがない。今の公園の仕事が好きなのも分かるが、仕事を変えても新しい仕事が好きになることがあるかもしれない。これは勝手な想像だが、今まで転職経験がないことが転職することへのハードルを上げているのかなと思った。
また父がまだバリバリ現役だったころは、パワハラという言葉は存在せず、でも今以上にパワハラが蔓延っていたと思う。だからこそ自分がパワハラを受けたとしても他の人に言うことができない、もしくは言わないのが当たり前という環境の中で数十年も生きてきて、それを中々打ち明けられないのも理解できる。
わたしに打ち明けてくれたのもよっぽど精神的に苦しかったのだと思う。
定年退職した高齢者でもセカンドライフの中でパワハラは存在する。パワハラは現役世代だけの話ではない。そのことに気付けている人は案外少ないのかもしれない。そしてそれを相談せずに抱え込んでしまっている高齢者も多くいるのかもしれない。
高齢者による高齢者へのパワハラは決して笑い事ではないと肝に銘じておきたい。
しばらくして母が帰ってきて日常が戻って来た。母にも父のことは伝え、母もとても心配していた。
でも父がパワハラのことについて詳しく話すことはあれ以来ない。聞いてもあまり話そうとしない。
わたしたちの心配をよそに今日も父は公園へと仕事に行った。
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