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苦難と栄光の軌跡 - ブラジル日系移民115年が語る「親日」の真実(後編)-2024年11月

前編では、ブラジル日本移民資料館を訪れることで、日系移民の歴史を紹介しました。その後、以下の本を読み、”美化”されていない別の側面を知ることが出来ました。

前編はこちら


後編では、『百年の水流』という連載を読んで気付いた、初期移民事業の知られざる真実についてお伝えします。以下ヤフーから無料で連載が読めます。

特に、「移民の父」「パイオニア」として称えられた人物たちの実態は、私たちの想像をはるかに超えるものでした。

「偉人」「英雄」と語り継がれる彼らの多くが、ホント、仁義もなく、利己的で、無責任で、無能で。。ホントに酷い。。

初期移民たちの苦難の8-9割は、ブラジル側の問題というよりも、日本の移民事業者たちの無責任さや利己的な行動の結果なのだったようです。。

移民事業を主導した「英雄たち」の実像

以下、少し紹介いたします。


水野龍 - 「移民の開祖」の暗部

後に「移民の開祖」と呼ばれることになる水野龍。第一回移民船「笠戸丸」を率いた人物として知られていますが、その実態は驚くべきものでした:

まず、第一回移民船「笠戸丸」を率いた水野龍。後に「移民の開祖」と呼ばれることになるこの人物がマジで酷いです。。

具体的な記述を挙げると:
■移民募集時に「カフェーを収穫しさえすれば、濡手にアワ式で儲けられ、ひと財産稼いで日本に帰れる」という誇大宣伝を行い(17話)
■ブラジル側との約束を反故して、農業経験のない元巡査、刑務所看守、商人、書生、代用教員、坊主、役者、博徒、船員崩れ、芸者、宿場女郎などを「構成家族」として偽装して送り出し(17話)

ところが、実は農業者は少なかった。それどころか小役人、巡査、刑務所看守、あきんど(商人)、書生、小学校の代用教員、坊主、どさ回りの役者、博徒、船員崩れ、田舎芸者、宿場女郎、三百代言(無資格の弁護士)といった者が多く、ペテン師……の類いまで紛れ込んでいた。(宿場女郎という言葉は、江戸時代だけでなく、明治のこの頃も、使用されていたようである)  正確な処は不明であるが、純然たる農業者は十分の一に過ぎなかった━━と記す資料すらある。

17話

■移民から預かった携行金を保証金に流用し、返還を遅延(19話) ※保証金制度も調査不足で出航直前に判明して移民から搾取
■移民たちの窮状を知りながら、高級ホテル住まいを続け責任を回避(20話)

社長の水野が、その保証金のことを知らなかったのだ。水野は、万事こういう調子だった。(右の外務省については内務省と記す資料もある)  慌てて、船の出航日を遅らせ、必死の金策をした。が、笠戸丸は傭船であり、出港を遅らせると滞船料がかかった。さらに神戸に集まった移民たちの宿賃が必要であった。一日計九〇〇円、それが毎日膨れ上っていく。  追い詰められた水野は保証金を値切り、外務省(あるいは内務省)もそれを容れたため八万円を差し出した。  この時、移民の携行金を「盗難や紛失を防ぐ」という名目で皇国殖民へ預けさせ、保証金の一部に充当した。これには、警戒して応じない者もいたが、応じた者もいた。

しかし船旅を終えた預託者たちは、サンパウロに着いてしまった。彼らは当然、金を返すよう要求した。
 ところが、水野は逃げ回っていて会えない。そこで沖縄県人を代表して城間真次郎という男が、移民収容所で水野を見つけ腕を掴んだ。が、跳ね飛ばされてしまった。

20話

上塚周平 - 「移民の父」の裏の顔

次に、「移民の父」として称えられ、涙もろく移民のために尽くしたとされる上塚周平。

■常に誰かに寄生するように生活し、借金を一切返済しなかった(51話)
■入植者から集めた土地代を適切に管理せず、フェスタなどで浪費(51話)
■「弱々しい姿勢ですぐ泣いてしまうが、いわゆる柳に風で、実に始末に負えない老獪なやり方」と評される手法で人々を操った(52話)

ところが、この上塚にも裏面があった。  例えば、経済的なことになると、常に誰かに負ぶさっていた。判っているだけでも、七年間の帝大在学中の学費、日本からブラジルに戻った時の船賃、その後の生活費や旅費、植民地の土地代、営農資金、病気になった時の長期入院費……を誰かに頼った。が、伝記には、こうある。 「自ら負うた負債は、一つも返済しなかった」  最後まで厚かましかったわけだが、実は本人は、それを気に病んでいた。 「負債は当人にとって、堪え難い呵責になっていた」

51話

上塚が、サントスでカフェーの船積み人足をしていた沖縄県人から、郷里に送金してくれと託された金を流用してしまい、依頼者が気づくまで放っておいたという話。(その金は南樹が借りて、賭け事ですってしまったという説もある)
 植民地の基礎作りは南樹と自分がやり、上塚はピンガを呑みながら、入植者をタラシこんでいただけ……という意味の文節もある。
 その植民地で、亭主と別れて事務所用の小屋に泊まっていたオバさんに、上塚が夜這いをかけてハネつけられた、という話まで出てくる。

52話

平野運平 - 「悲劇の主人公」の無能

そして、「悲劇の主人公」として美化されている平野運平は、献身的で誠意はあったようですが、、無能というか、、

■医療体制も整えないまま多くの移民を未開の地に送り込み(39-40話)
■事前の調査を怠り、マラリアによる大量死者(60-80人)を出す大惨事を引き起こし(40話)
■病気対策として必要な栄養管理の指導も怠った(39話)
■ただ、平野は最期まで責任を感じ、ピンガ(酒)に溺れ「どうして眠れるものか、あんなに殺してしまって」と苦しんだとされている(43話)。

かくして平野はブラジル日本移民史上の悲劇の主人公となった──。  しかし、これはおかしい。犠牲者の多さからすれば、笠戸丸以上の失敗、水野龍以上の大罪といえる。  
前出の青柳郁太郎は、ブラジル経験は僅かであったが、イグアッペで植民地造りを始める時、まず医師を日本から呼び寄せて常駐させた。その医師は、最初に奥地を回って、風土病の調査をしている。  北島研三といった。日清、日露の両戦役に軍医として従軍した後、イグアッペに招かれた。十年、献身的に尽くした後、任地からほど遠からぬジュキアで、風土病が流行した時、応援に駆けつけ、自身感染、落命している。北島の献身の対象は、非日系人にも広く及び「神」とまで慕う患者もいた。  
平野植民地は、そういう良医どころか医師そのものを確保せず、入植を始めた。しかし平野は、この国に来て七年になる。風土病の危険は耳にしていた筈である。しかるに前記の如くであった。

41話


なぜこのような事態に?


実は、ブラジルとの国交樹立当初の日本の公使たちは、移民・植民事業に反対の立場でした。

その理由は、ブラジル政府が既に受け入れていた欧州の労働者たちが、事実上の奴隷のような扱いを受けていることを知っていたからです。また、移民募集で業者が真実を伝えずに人々を騙して連れてきている実態も把握していました。(8話)

公使館は、その反対論を、何度か本省に送っているが、その中に、次の様な指摘(要旨)があった。
一、ブラジル政府は移民を導入するため、良いことだけを宣伝、悪いことは隠す。
二、移民会社は、甘言を使って愚民を誘う。
三、右の宣伝や甘言を信じて移住すると、痛烈な失望を味わう。
四、その結果、移民の不平、苦情などの悶着が無数に出、収拾できぬ有り様となる。移民は他に仕事も無く、落ちぶれ、食にさえ窮し、結局、自国の在ブラジル領事館に泣きつく。

 右の指摘とは別に、公使館は「移民を考えるなら、日本の資本家の経営による植民地を、この国に造り、そこに自営農として入れる以外にない」とも具申していた。
(中略)
日本公使館は、二代目公使の時代も、カフェー園移民には反対であった。

8話

移民事業者の失態

百年の水流を読む前は、「移民で来られた人は苦労して大変だったんだな。」くらいに思っていましたが、この本を読んで、その苦労の大半は人災であり、8割以上がブラジル側ではなく、日本の業者の問題。。

ウガンダで事業をしていた時に、中東での魅力的な仕事を斡旋する詐欺に引っ掛かった人を何人か見てきました。
保証金を騙し取られ、実際には片道切符でパスポートを取り上げられ、約束された仕事内容とは全く異なる現実に直面する—。そんな詐欺的な構造が、当時の移民事業にも存在していたのですね。

現在なら、まだ情報の取得のしやすさ、連絡のしやすさ、飛行機を使った逃亡などの選択肢もありますが、100年前の通信、移動手段では、今よりずっと大変だったことは想像に難くありません。。

歴史の裏にある二面性を知る

今回に限らず、歴史は往々にして美化され、単純化されて語られがちです。

資料館で語られていることも事実です。上記で挙げられた人も、数十年を経て、実物を直接知らない人たちがイメージを作り上げていって、実際に功労者として持ち上げられていったことが、百年の水流の中でも描かれています。

どちらも真実ですが、他の面からみると印象が大きく変わりますよね。。

また、この側面を知ること自体は、決して先人たちの功績を貶めることにはなりません。その大変な中で、逆境をはねのけて、困難をも乗り越えて、今日のブラジル日系社会を築き上げた先人たちの力強さは想像を絶するものがあります。

今ならヤフーで無料で読めるのでホント、おススメですー!以下が一話目になりますー

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『百年の水流』はAmazonでも売っていますが、Kindle版はなく、書籍版は12,000円とめちゃ高い本になっていますー。。
※私はヤフーの連載記事を読みました。

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Jun Ito
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