【神奈川のこと48】中華街の片隅で、自由とチャーシューについて考える(横浜市中区)
今回の緊急事態宣言発出の前日、中華街に行った。
よってこれを書く。
神奈川新聞を読んでいたら、中華街にあるギャラリーで、横浜在住の写真家、中村康伸氏による「香港の民主活動家たち」という写真展とトークイベントが開催される記事が出ていた。
早速主催者に連絡し、参加を申し込んだ。
その日は、朝、大船の整形外科で五十肩のリハビリテーション、その後、カトリック大船教会で教会報発行のお手伝いをしてから、夕方、京浜東北線で石川町駅に到着。
1年半ぶりに訪れる中華街にワクワクした気持ちで向かった。
中華街は、それなりに人出はあったものの、いつもの立錐の余地もないというほどではなく、ところどころ、店には休業の看板が掲げてあった。
お目当てのギャラリーは、「路地裏」という表現がふさわしい場所に存在していた。1階は薄暗いバーになっていて、タバコの煙が漂い、幾人かがグラスを傾けていてこちらをジロリと見やる。映画ディアハンターでのワンシーンを想起。バーカウンターの奥の部屋では、ロシアンルーレットが行なわれているのではないか。一瞬、ためらいと恐怖を覚える。店員なのか常連客なのか判別が難しい男性が、ニコッと笑顔で「こんにちは、2階へどうぞ」と案内。
木製のやや頼りない階段をトントントンいや、ミシミシミシと上がる。すると中二階があり、そこは別の絵画展が催されていたが、人の気配はない。更に上を目指し階段を上がると、会場があった。屋根裏のような狭い空間に、結構な数の人がいて「密」な状態に怯む。事前申し込みした旨を伝えると歓待され入室。
所狭しと、香港民主化運動活動家たちの写真が展示されていた。
写真からは、香港を訪れたことが無い私にも、その暑さ、湿度、人々の息遣いと鼓動がありありと伝わってきた。
最も気にかけている存在、周庭/Agnes Chowの写真もその中にあった。彼女の屈託のない笑顔と真剣な眼差しに心を奪われた。
トークイベントまでまだ時間があったので、一旦、外へ出てゆっくりと中華街を散策。家族へのお土産にチャーシューを買うべきかどうか迷いながら、「トークイベントの最中に匂ったら嫌だな」という結論に至り、買わず。
時間となったので、再び、謎のディアハンターギャラリーに戻った。店員より先に「こんにちは、2階に上がります」と言ってのけ、頼りない木の階段をこなれた調子で、ヒョヒョイと屋根裏部屋へ。
先ほどよりも多くの人が密集していたが、無事に席を確保し、トークイベントに臨んだ。
話者は、主催者の写真家、中村康伸氏と「日本人と香港人のハーフです」と自己紹介した20代後半とおぼしき男性、そして、黒ずくめの衣装に眼鏡とマスク、キャップを目深にかぶった在日香港人の女性。素性が分からないようにしているとのこと。
現地で起きていること、各活動家の考えや行動など生々しい話が展開された。一番気になっていた周庭/Agnes Chowのことについて質問、「今もまだ彼女は収監されているのですか?」と。「はい、一応、6月には出られる予定ですが、その直前もしくは出所直後に再逮捕ということもあり得ます」とのこと。
日本語の上手な周庭/Agnes Chowを報道で見るたびに、強い同情の念が全身に充満する。自由が脅かされている、そのことを日本語によって、しかもかなり正確な文法で語る彼女を、姪っ子のように親しみをもって見ていた、感じていた。
「抗う香港」「抗うミャンマー」
今、自由が脅かされている。
私たちにとって、空気のような自由が。
放たれる催涙弾、バリケード、「撤回悪法」の旗印を掲げた集会、「清き一票」への命を懸けた訴え。
帰りの京浜東北線では、自由の儚さと何もできない自分にやや屈託の心持ちとなったが、やはりチャーシューは買わなくて正解であったと自らに言い聞かせた。