微住がいざなう、郷里とつながる異日常の世界
文:K.Yamashita
コロナ禍の中にあって、耳にすることが増えたマイクロツーリズム。
そこには、感染リスクを回避しながら、同時に地域への再発見、経済循環がある。
観光の地産地消とも言える。「地方の時代」と言われて久しいが、
このコロナ禍を経て、観光事業においても大きな「飛躍」の時を迎えていると感じている。
そんな中、「完全に移住定住して生活するのでなく、旅のスタイルの一つとして福井のローカルな生活を体験する」福井微住として、初めての東郷に訪れた。
それまで、「東郷」は、私にとっては、なんとなく知っているまち。まちづくりが進んだ元気なまち、その程度の認識であった。今回、この東郷微住という企画を知り、これから福井を学ぶ上でも大きなきっかけになるでは?という漠然とした思いから、参加することとなった。滞在は三泊だった。一期一会ではなく、一期三会を目指した、その先に何が見つかったか、考えてみたい。
初日。ふるさと茶屋「杵と臼」で、コーディネータの方々との初顔合わせとなった。ここで、私の好きなことなど、ヒアリングを受ける。
どうやら、即興で私の要望を組み込んでアテンドくださるようである。
東郷の歴史や、古民家など、私との話の中でキーワードを選択し、地域の中で最適な場所、人を瞬時にセッティングしていく。恐縮している間もなく、アテンド開始。初日から、いきなり地域の方との接点を生み出し、その中に自然に私は誘われていく。まぁ、こんな経験は、なかなかない。
「『鶴瓶の家族に乾杯』か!」一人内心突っ込んでいた。
そして、東郷の人々のフレンドリーな笑顔に癒されながら、自分自身、開放されていくのを感じていた。
ざっと東郷の人と暮らしに触れてから、「杵と臼」で、テントサウナ設営の労働を行う。大きなビニールプールに空気を入れ、水をはり、薪運びや、薪割り。梅雨明け前でもあり、なかなかにハードワーク。しかし、共に汗を流すことで人との距離は一気に縮まる。夕食のバーベキューのころには、続々と東郷の重鎮の方々が集まってくる。小さな子供さんもいたりして、和やかに時は過ぎ、普段の旅では味わえないような、「受け入れてもらっている安心感」のような感情すら湧いてくる。あー、これが「ゆるさと感」だろうか?まだ初日であったが、早くも、東郷の微住人になりつつあった。
二日目は、東郷の街の礎ともいえる水路を巡るプチトリップへ。いやー、これが、もう、たまらんかった。
初日からの流れで、どんどん自分の中の微東郷愛が生まれていたところにきて、美しい建物と田んぼと水路のコントラストが、どんどん私の琴線に触れてくる。鳴りっぱなしである。景色の美しさだけではない、巧みに水を操る技術と、その技には、古代からのまちづくりデザインが生きている。東郷の豊かさの底辺に、この豊かな水との暮らしがあること、そよ風に揺れる青々と茂る稲を観ながら、堪能する。その広大に広がる水田の中央には、大森神社の鳥居が静かに建っている。なんとも神秘的な水の都の光景である。この美しい鳥居の存在は、東郷に生きる人々の自然と共存する豊かさの象徴として、日常の暮らしの景色の中で誇らしく生きているように感じる。午後には、地元のお母さん方と一緒に、夕ご飯を作る。お母さん方が愛情たっぷりに育てた夏野菜を使って、てきぱきと指示をもらいながら、楽しく調理。やさしい味付けで、それはそれはおいしいご飯だった。ここでのおふくろの味、胃袋まで、完全につかまれてしまった。しかも、一緒に作ったという満足感とともに。地元で作られたものを共に調理し、食することの、なんと豊かなことか。野菜の育て方や、お家のお話など、ご近所さんの井戸端話のよう。楽しい。自然と心が優しくなる。
この日は、微住発祥の地である佐々木さんの立派なお宅に泊めていただく。立派な木戸を開けると、優しい木の香りに包まれる。越前町の大工さんの職人技がふんだんに取り入れられた、贅沢な空間。これまで、多くの微住者の心を虜にしてきた、なんとも、居心地のいい気持ち良い空間である。ここで二日間お世話になる。この日は、佐々木さんと遅くまでお酒をいただきながら、いろんなお話をお聞きする。この方の大きな包容力の上で、東郷のまちのさまざまな潜在力が花開き、この微住という大きな文化が生まれているのだなということ、腑に落ちていく。ここは、「微住発祥の地」であるとともに、見守り続ける場所になるのであろう。佐々木さんは、それはいろんなお仕事をされておられる。最勝寺ご住職であり、一乗谷朝倉氏遺跡にも関わっておられるプロフェッショナル庭師でもある。庭創りデザインは、まちづくりに似ているのかもいれない。佐々木さんの優しく美しいイラストには、人々の思いを結集させて、向かう方向を定めてくれる力があるように感じる。まさしく、デザイナーであり、ディレクターであり、プロデューサーである。ふと、もしかしたら、古代、白山を開いた泰澄も、そんな宗教家だったのかもしれないという思いが頭をよぎる。
△小川館長さん
三日目は、東郷公民館で、小川館長のお話をお聞きする。古代史から遡ってのお話。ここで、東郷微住でなんとなく感じていたことの、「決定的」な答えをいただく。今回、微住者には、「微本」制作というミッションを課せられていた。この東郷微住の体験を、一冊の本にするというお題である。自分にとって、とても無理なお話であったが、自分なりに、まとめたものを小さな本にした。小川館長のお話のおかげで、自分なりの「結」を見出すことができた。地域には、それぞれの地理的条件により、そこで人が生きていくための様々な知恵が生まれ、今に生きている。東郷で、それを目の当たりにできたこと、その暮らしに身を置くことができたことにより、東郷を知ることを通して、人が生きるという普遍的な意味をも、問いかけられてきた。そして、自分自身の住む郷里、ルーツを知る新たな旅へも誘ってくれた。微住という、新たな旅カルチャーは、新たな気づきのステージに引き上げてくれることは、間違いないようである。
さあ、微住へ行こう。
あなたの新たなステージに向かって。