作品だけでなく建築も楽しみたい。GoToトラベルで行きたい全国の美術館・アートスポット
GoToトラベルキャンペーンで足を運んでみたい全国の美術館やアートスポットを紹介。今回は特に建築にスポットを当ててセレクトした。今年オープンした注目の新施設から、知る人ぞ知る地方の美術館の名建築まで、この機会に訪れてみてはいかがだろうか。
北海道・東北
北海道でまず思い浮かぶアートスポットといえば、彫刻家イサム・ノグチがデザインしたモエレ沼公園だ。東京ドーム約40個分の広大な敷地には、幾何学形態を多用した山や噴水、遊具などの15の施設が整然と配置され、自然とアートが融合した美しい景観を楽しむことができる。
青森県からは、2020年に開館したばかりの弘前れんが倉庫美術館を取り上げたい。「記憶の継承」と風景の再生をコンセプトとした建築設計は、田根剛によるもの。築100年におよぶ煉瓦倉庫の面影を可能な限り残したという空間では、国内外のアート作品を紹介するとともに、弘前市と東北地域の歴史、文化と向き合う同時代の作品も展示している。
同じ県内では、青森県立美術館も立ち寄りたい。青森県出身の美術家・奈良美智による巨大な立体作品《あおもり犬》《森の子/Miss Forest》は、同館の見どころのひとつとなっている。建築設計は、隣接する縄文遺跡・三内丸山遺跡から着想を得た青木淳が担当。シンボルマークやサインはデザイナーの菊地敦己が手がけた。
1967年に平野政吉コレクションを展観する美術館として開館した秋田県立美術館は、その後2013年に安藤忠雄設計の建物に移転。藤田嗣治の30年代の貴重な作品群の常設展示を行うほか、調査・研究に基づいた企画展や特別展を開催している。
建築家・伊東豊雄の設計による宮城県のせんだいメディアテークは、全面ガラス張りの建物が目を惹く。目や耳が不自由な人々への情報提供サービスも積極的に実施し、美術や映像文化の活動拠点として幅広く利用されており、日々様々な映像作品が上映されている。
北陸・甲信越
2004年にヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を、2010年にはプリツカー賞を受賞した建築家ユニットSANAA(妹島和世+西沢立衛)の建築として知られる金沢21世紀美術館は、表と裏のないガラスのアートサークルが特徴だ。明るく開放感あふれる建築は、様々な出会いや体験を可能とし、公園のような美術館として多くの人々に愛されている。恒久展示作品としては、レアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》、オラファー・エリアソン《カラー・アクティヴィティ・ハウス》、アニッシュ・カプーア《L'Origine du monde》、ヤン・ファーブル《雲を測る男》などが知られる。
美しいガラスアートを紹介する富山市ガラス美術館は、美術館そのものも光り輝くファサードを持つ。ガラス・アルミ・御影石でつくられた独自性の高い建築は、隈研吾が手がけた。常設展では、富山市ガラス美術館所蔵の現代ガラス作品を展示するコレクション展をはじめ、展示室の壁面や図書館内に富山ゆかりの作家の作品を展示。また、6階「グラス・アート・ガーデン」では、現代ガラス美術の巨匠、デイル・チフーリの工房が制作したインスタレーション作品を鑑賞することができる。
山梨県では、谷口吉生から藤森照信、安藤忠雄、杉本博司まで多数の名建築が集まる清春芸術村を紹介したい。谷口が設計したルオー礼拝堂は、打ちっ放しのコンクリートでできたモダンな空間となっており、ここではルオーが制作したステンドグラスやキリスト像などが展示されている。また芸術村の中心部には、安藤忠雄が設計した箱型の美術館、光の美術館がある。同館は自然光のみの美術館であり、その建築には、ガラスで切り取られた天井の一角や壁のスリットなど、人々の心に響く意匠が凝らされている。季節や時間によって様々な光の表情を堪能できる美術館だ。
東海
静岡・長泉町の愛鷹山中腹にあるクレマチスの丘は、美術館や文学館、レストラン、自然公園などによって構成される複合文化施設。敷地内には、フランスの巨匠ベルナール・ビュフェの世界最大のコレクションを誇るベルナール・ビュフェ美術館や、幼少期を伊豆で過ごした井上靖を記念して設立された井上靖文学館、現代イタリアを代表する具象彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの個人美術館であるヴァンジ彫刻庭園美術館、写真と映像をとりまく環境や歴史を紹介するIZU PHOTO MUSEUMなどが点在する。四季折々のクレマチスの花や現代作家による企画展、各種文化的イベントなどを楽しむことができる。
また、同県熱海のMOA美術館は、国宝3点を含む約3500点の作品を所蔵。2017年、現代美術作家・杉本博司と建築家・榊田倫之が主宰する「新素材研究所」によってリニューアルを果たし、黒漆喰の壁や無反射ガラスを配するなど、日本の伝統的な素材を用いながら現代的な空間を実現している。
1995年に愛知県豊田市に開館した豊田市美術館。その建築は、美術館建築で名高い谷口吉生が設計した、乳白色のガラスと緑のスレートが特徴的なもの。街中にありながら自然豊かな庭園では彫刻作品を鑑賞できるほか、見晴らしの良い高台から豊田市街地を一望できる。
墨象作家・篠田桃紅の作品を中心とした美術品を展示するために、2007年に開館した岐阜現代美術館。同館では、桃紅の初期から新作まで800点あまりの作品と資料を所蔵し、桃紅作品の調査研究を行う。円筒形ドームの美術館建築は、1993年度「日経ニューオフィス推進賞<通商産業大臣賞>」を受賞。カスケードとプールが配され、周囲の自然と造形が調和した空間を堪能してほしい。
関西
まだ訪れていないのなら、ぜひ足を運びたいのが今年5月に京都市美術館を大規模改修して開館した京都市京セラ美術館だ。洋風建築に和風の屋根をかぶせた、和洋折衷のいわゆる「帝冠様式」を代表する建築として知られる美術館が、建築家・青木淳らの手によって生まれ変わっている。本館中心の旧大陳列室である中央ホールを通り、展示室として機能するようになった南北の回廊や、ガラスの大屋根をかけることで室内化した中庭など、広大な空間を堪能したい。
滋賀のMIHO MUSEUMは、パリ・ルーヴル美術館のガラスピラミッドで知られる世界的建築家のI.M.ペイが設計を手がけている。中国・東晋の詩人、陶淵明が漢詩『桃花源記』に描いた「桃源郷」の世界をモチーフに、枝垂れ桜の並木道、銀色に輝くトンネル、深い谷を渡る吊り橋を経て美術館棟へと続く。常設展示としては、同館の南館で、エジプト、西アジア、南アジア、中国・西域と、地域別に4つの展示室が設けられ、MIHOコレクションから世界の古代美術の名宝を展示している。
和歌山県の「熊野古道なかへち美術館」は、2004年にヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を、2010年にはプリツカー賞を受賞した建築家ユニットSANAA(妹島和世+西沢立衛)が最初に手がけた美術館建築だ。「美術作品を新しい空間で見せ、アートを通じた交流の場を生み出す」という構想のもと設計されている。
アサヒビール大山崎山荘美術館は、関西の実業家・加賀正太郎が大正から昭和にかけて建てた「大山崎山荘」を修復した美術館だ。また、安藤忠雄氏設計の新棟「地中の宝石箱」などを加えて1996年に開館。イギリスのチューダー・ゴシック様式に特徴的な木骨を見せるハーフティンバー方式をとり入れ、本館2階のテラスからは、桂川、宇治川、木津川の三川が合流する雄大なパノラマを楽しむことができる。
大阪・住之江の北加賀屋は、大阪湾にほど近く、かつては多くの造船所があって賑わいを見せたこの地域は、2009年には「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」がスタート。アーティストやクリエイターたちの活動拠点となっている。ここにあるのが、平面作品から映像作品まで、美術家・森村泰昌の作品を展示するモリムラ@ミュージアムだ。それぞれ雰囲気が違う空間となるよう工夫された5つの部屋に加え、千古材バンクから提供された材料を使うなど、古いものと新しいものが融合している。
中国・四国
鳥取県の植田正治写真美術館は、山陰の空・地平線・砂丘を背景とした作品で知られる植田正治の個人美術館。自然豊かな大山の麓に位置し、高松伸が設計した同館は、水面に映る「逆さ大山」を楽しめるスポットとしても人気だ。
絶景を楽しめる美術館としては、島根県立美術館にも注目したい。宍道湖に面し、風景と一体化するような曲線的な形態が特徴的な建築は菊竹清訓の設計によるもの。「日本の夕陽百選」にも選ばれた夕日の鑑賞スポットとしても有名だ。
また、建築作品として必見なのが、磯崎新が手がけた岡山県の奈義町現代美術館だ。同館は荒川修作+マドリン・ギンズ、岡崎和郎、宮脇愛子の作品を常設展示。それぞれの棟は太陽、月、大地として見立てられ、作品が建築化したような空間を楽しむことができる。
香川県の猪熊弦一郎美術館もユニークな建築で知られる。谷口吉生が設計を手がけ、猪熊弦一郎との対話によって、それぞれの理念が細部にいたるまで具現化されている。
いっぽう広島市現代美術館は、改修工事にともなう休館に入るため、今年中に訪れたい美術館と言える(リニューアルオープンは2023年3月を予定)。
徳島県の大塚国際美術館は、2018年の紅白歌合戦で米津玄師が中継出演する際の舞台にもなった美術館だ。同館は、世界中の名画を陶器の板に原寸で焼き付けて展示する「陶板名画美術館」。修復前の《最後の晩餐》や、システィーナ礼拝堂全体などの再現で知られ、作品の質・量から、1日で回ることは難しいと言われるほどだ。
九州
福岡の福岡市美術館は、ル・コルビュジエに学んだ日本近代建築の巨匠、前川國男の設計だ。「エスプラナード」と呼ばれる広場とロビーを中心とした展示室等の配置が特徴で、前川の思想が反映された建築となっている。2019年にはリニューアルオープンし、前川が遺した建築意匠を尊重しつつ、西側に新しいアプローチを設け、大濠公園でくつろぐ方々を館内に誘う機能を強化している。
長崎県美術館は隈研吾の設計。運河を挟み西側と東側のふたつの棟によって構成されるユニークな建築で、日本建築家協会賞を受賞している。「ギャラリー棟」と呼ばれる西側の棟にはエントランスロビーや県民ギャラリーなどが、「橋の廊下」でつながった「美術館棟」と呼ばれる東側の棟には企画展示室や常設展示室などを設置。主な収蔵作品は、長崎ゆかりの美術とスペイン美術。ピカソ、ダリなどスペイン美術のコレクションは東洋有数の規模を誇る。
大分県立美術館は、2015年、大分市の中心部に誕生した。大分が誇る伝統工芸の竹工芸をイメージさせる外観とガラス張りの開放感あふれる建物は、坂茂の設計によるもの。入館無料でミュージアムショップやカフェに立ち寄ることができる館内は、触ると揺れる巨大なバルーンのオブジェや布製の大シャンデリア、プールを模した作品など、展示室の外にも気軽にアートを楽しめる空間が広がる。
鹿児島県霧島アートの森は、霧島連山の西に位置する自然に囲まれた野外美術館。霧島の雄大な景観の中で四季折々の変化を見せる野外の展示空間には、ジョナサン・ボロフスキーや草間彌生、椿昇ら国内外の造形作家による、同地の自然や歴史的・文化的な特徴を生かしながら構想したオリジナルの作品が設置され、自然のなかで現代美術にふれることができる。
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