コレクションを見せるとは。【松方コレクション展の感想】
東京上野の西洋美術館で現在開催中の松方コレクション展に行ってきました。
ちなみにわたしが展覧会レビューを書くのはこれが初めてです(ドキドキ)。
内容としては、ちょっと西洋美術史や日本近代史の知識があると、より楽しめる展覧会かなと思います。
そして、松方コレクションは西洋美術館を設立する基盤となったコレクションなので、日本の美術館の歴史に興味がある人は勉強になるんじゃないでしょうか。あとで詳しく言いますが、展示の見せ方としても、とても面白かったです。
眼玉は、モネとゴッホでしたね。
わたしはとくに、ゴッホの《アルルの寝室》を見れてよかったなと思いました。
ポスターやネットの画像を見るのと、実際に見るのとではここまで違う、というのがわかりやすい作品でした。
実物はもっと絵の具が盛り上がっていて、照明の反射できらきら光っていてとても綺麗。とくにベッドの枕なんてすごい絵の具が盛られていて、なめらかで、まるで陶器のようでしたよ~。
松方コレクションは、パリで保管されていた約400点が第二次世界大戦末期にフランス政府に没収されていましたが、戦後、政府間交渉で375 点が「寄贈」というかたちで返還されたという経緯があります(ちなみに寄贈が括弧書きなのはカタログの記述に倣っていますが、どんな意味があるんでしょうか)。
ただ、この《アルルの寝室》は、返還を拒否された20点のうちの一つで、現在オルセー美術館が所蔵しています。
それが本展のために来日中、つまり、日本でこの作品が見れる機会はそうそうないし、今回が松方コレクションの一つとして見ることができる特別な機会でもあるわけですね。
ゴッホの代表的な作品という点は何も変わらないはずですけど、こういう経緯を踏まえると、この作品が今ここにあることの意味がぜんぜん違ってきますよね。
このように、この展覧会の面白い点は、作品のすばらしさももちろんあるのですが、そこに松方コレクションの一部なのだという、作品それ自体からは見えてこない部分を見せている点にあると思います。
そんな文脈を知らされたうえで作品を見ると、めっちゃエモかったですよ(語彙力)。
美術の展覧会といえば、ある作家に焦点をあてたり、時代や国、芸術運動や作品のモチーフなどをテーマにするのが一般的ですが、今回はコレクションの形成過程を見せるという珍しいテーマでした。
なにより展示がすごくよかったですね。
まず、プロローグでは松方幸次郎の美術館建設構想を紹介し、手際よく導入としていました。
当時、美術館を建てることを前提に作品を収集するとこういうラインナップになるのか~といった心持ちで鑑賞することになります。
そして、大きな部屋に入ると、壁一面にいっぱい作品がかかっているんです。これは昔の西洋の展示スタイルで、いまではほとんどやらないやり方です。初めて見たので、とても新鮮でした。
たしかに部屋に入ったときの壮観さには感動がありましたが、やっぱり上の作品は見にくいということが確認できました(笑)。コレクションを総体として見せることを重視した結果でしょうか。個々の作品鑑賞の質よりも物量優先といった感じでしたね。テーマによってはこういうのもありなのかぁ。いや、やろうとしてもできる館はほぼないと思いますが(笑)。
あとは、絵画の裏面の展示(書き込みやシールが貼ってある)、額縁だけを単体で展示、コレクションが失われたり損傷したりする前に撮影されたガラス乾板の展示など、資料的な見せ方もいろいろあって面白かったです。
そして、目玉作品は、作品にあった色の壁に仕立て上げていたり、《アルルの寝室》にはアーチのようなセットまで作ってありました。ヒュー!お金がかかってるぅ!
いつも西洋美術館に常設されているモネの≪睡蓮≫に始まって、2016年に松方コレクションのものと確認され、修復を経た≪睡蓮≫で終わる演出もドラマティックでした。
日本の近代史的観点では、松方幸次郎が戦艦も含む船舶の建造で財を成した人という点や、美術館設立構想の動機の部分に関わってきます。
松方幸次郎は、美術の知識はあまりなかったようですが、とにかくお金はあるから本物の西洋美術をたくさん買って美術館を作ることで国のために尽くそうとした人だったようです。
日本がいよいよ近代国家として出発し、西洋に追いつけ追い越せとやっていこうとしていくという姿と重なるように思います。
第二次大戦によってコレクションがたどった運命もそうですが、近代日本の行く末とリンクしていて、その上に今があるという過去と現在の歴史的な繋がりについても考えさせられました。
これも作品それ自体だけでは見えてこない部分ですよね。
とにかく松方コレクション展は、展覧会によって作品をある文脈に乗せて見せる意義がよくわかる企画でした。
ちなみに、邦題では「松方コレクション展」だけですが、英題では「A One-Hundred-Year Odyssey」というサブタイトルがついています。
「Odyssey」という言葉がとてもよく似合う、一つの演目を見るような体験ができる展覧会かと思います。
9月23日までやっているので、まだの方はぜひ!