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落とし物の意味 ー 釜山にて

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釜山の旅の記録を書き残します。

光の航路と虹を見た日 ー 釜山にて|bijou blanc|note
ネガティブな感情の刷り込みがない世代同志の、清らかに紡がれた友情 - 釜山にて|bijou blanc|note

続きです。
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釜山の大学を卒業した長女の卒業式を終え、引き揚げる荷物をまとめ、明日は高速船ビートルで博多に戻る予定の日。
その日、長女がペイカードを落としてしまい、紛失届を提出しに警察署へ向かうことになる。

起こる出来事には何らかの意味があるとよく耳にするが、私はそれを信じている。
実際に後から思い起こして、そう思うしか説明のしようのない出来事を、私は今まで何度も経験してきた。

ペイカードを落として警察署に行くこと、それも今になって思うと、何かに呼ばれていたのかもしれない。


我が家は、釜山に祖先の歴史が刻まれていた時期があり、そのことを親戚から伝え聞いていた。
戸籍に記された、大正生まれの義祖父の生誕地は釜山とあり、
当時の地名は、○○町、〇丁目〇番地と、日本語で記されている。

その場所を、韓国語が堪能になった長女がリサーチをしていた。
釜山の港近くのポイントが、グーグルマップ上にマークされている。


今回の旅では、そこを訪れるつもりはなかった。
だけど、紛失届を出しに行くための、ホテルから警察署へ向かう道のその途中に、義祖父の生誕地がマークされている。

釜山駅横のホテルを出発し、大通りを西へと歩いて警察署へ向かう。
その道は、釜山駅と、釜山で最も有名な観光地・南浦洞とを繋ぐ道だ。大きな賑やかな幹線道路だ。

多くの車が行きかう賑やかな通りを進み、一つ目の大きな交差点を渡る。
グーグルマップ上の義祖父の生誕地は、ここから近い。
スマホの中のグーグルマップを、親指と人差し指で拡大する。
生誕地は、その大通りから1本入った通りをマークしていた。
賑やかな大通りから、ひとつ横の裏道に入り込み、生誕地を目指した。

その場所に到着した。
そこには、店舗兼住居のような古い建物があった。
通りには、同じような店舗兼住居が立ち並んでいる。
けれど、それらの店舗は営業されておらず、人が住んでいるのかさえ分からないような雰囲気だ。
閉ざされた店舗が、放置されている雰囲気だ。
賑やかな大通りからわずかひとつ裏道に入っただけなのに、途端に人通りもない。
その通りは、寂しく、忘れ去られているようにみえた。

義祖父や祖先は、この道を歩き、暮らしを営んだ。
そこにはどんな歴史が刻まれていたのだろうと思いを巡らすも、
思いがけず訪れた義祖父の生誕地の今は、寂しげな雰囲気しか感じ取れなかった。

以前、長女が釜山に留学するまでのことをnoteに綴ったことがある。
その時、義祖父の生まれた戸籍に記された海辺の町を、長女のガイドで訪れたい、そう綴った。


その時は、こんなかたちで、思いがけなく訪れた。

そして、警察署での紛失届を済ませ、何かに呼ばれる感覚が消えないまま祖先が暮らしを営んだ付近の探索をしながら、釜山駅横のホテルに戻る。
宿泊する15階の部屋の窓からは、釜山港が一望できた。

次の日の帰国予定のビートルのHPを覗くと、ビートルは故障の為に欠航が長引いたと記載されていた。

その日の夜、落とし物を探した行動が引きずられていたのか、落とし物をする夢を見た。
目が覚めて、薄暗い中で夢うつつのまま、脇に置いたスマホを手に取り「落とし物をする夢」を検索してみる。

暗闇の中に光ったスマホの画面のいちばん上に、「おざなりにしていることへの警告」というワードがヒットしていた。