切なくて美しいその世界は、限りなく青に近い黒。
秘密の呪文を教えよう。
そっと、盈月の晩に唱えてみるといい。
どうぞ、我を狼男にさせたまえ
男を食べる者にさせたまえ
女を食べる者にさせたまえ
子供を食べる者にさせたまえ
どうぞ、血を恵みたまえ、人の血を恵みたまえ
どうぞ、今夜それを恵みたまえ
偉大な狼の霊よ
我が心、我が身体、我が魂をすべて捧げよう…
煌々と輝く十五番目の月の許、狗の名残りの歯は鋭い牙となり、指先からは柔らかい肉を斬り刻む長い爪が生えてくる。雄々しい身体は黒々とした硬い毛に覆われ、最早、人の形ではなくなるだろう。
月を背に、そこに在るのはただの獣。舌舐めずりしてこちらを窺う、淫蕩な闇に住まう獣だ。
生贄は、今目の前に。
凍えるような冴々とした満月の光を浴びて、私は獣と化す。理性も人としての心も、この鋭い牙で噛み砕き、足元に吐き捨てた。