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空と海だけ見えた夏④~四国お遍路ひとり旅~

定年後、今はひとりで小豆島に暮らしていると話すおじさんは、月に一度、このホテルに泊まるのが人生の楽しみになっていると缶チューハイを飲みながら語り出しました。

「いや~、普段はこんな風に泊まってるお客さんと話すことなんてないんですよ。あなたはなんだか話しやすい」

気さくに話しながらも、時折混ぜる敬語がおじさんの人柄を教えてくれました。窓から眼下に見える町を指して、「あの店はよく行く店で美味しいんだよ」「あそこに行けば、みんな顔見知りの客しかいないんですよ。もっと早い時間なら連れて行きたかったな~」と、高松の町の話しをたくさん聴かせてくれました。

私に、なぜお遍路に来ているのか、年齢とか話せる範囲でいろいろ笑。おじさんと語らいました。今、なんとなく、一つ、人生の節目であること、そんなニュアンスの話しをしました。おじさんは、「今の時代、みんな不安なんじゃないかなぁ。でも、いつか必ず死ぬんだから、やっぱり後悔しないように、やりたいことやったり好きなもの食べたり、そんな風に俺は生きてるよ。もちろん、健康には気をつけてるよ」と話しました。
「群馬帰ったら何するの?」
「まだわからないけど…農業とかもいいですよね」
「そうだな~、芸能の仕事とか合うんじゃない?」

え。
え?
おじさん、芸能って笑。

年齢も住んでる場所も状況も話した上で、芸能って。おじさんの「可能性フィルターのポジティブさ」が欲しい笑。少なくとも当時の私の心は晴れやかではなかった。でも、お遍路まで足を運んだ私が、おじさんにはそう見えている。本当に心が救われた時でした。それと同時に、もの凄く辛い状況でも、相手にはわからないものなんだということも理解しました。誰かのそれも、私が見落としてきたことはたくさんあるんだろうなとも。「言葉」に存在意義があるならば、自分とは違う誰かに伝える手段として使いたいし使ってほしい、改めてそう思いました。

席を立ち、自動販売機で缶チューハイを買ったおじさんは、私に「もう1本どうぞ。俺も群馬に連れてって欲しいな~。明日の為によく寝て下さい。今日はよく眠れそうだ」と言うと、「じゃあ、また。小豆島に遊びに来た時は案内するね」と部屋に戻っていきました。

お遍路は同行二人。空海と最後まで旅をすると言われています。最初、お遍路中はお酒も控えた方がいいのかなとか色々考えました。きっと、その旅を選んでいたら、その旅を選んだ旅になる。「淡路島のおばさん」に会っていたかもしれません。私はその日、お酒を飲むことを選んで「小豆島のおじさん」に出会いました。その夜過ごした時間は間違いなく、旅で忘れることのない出来事になりました。ただ、それだけ。

明日は87番札所の長尾寺、88番札所、大窪寺。缶チューハイを頂いて、私は眠りにつきました。


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マツウラツグミ
読んで頂き、誠にありがとうございました🙇‍♀️未来の地球を生きる方々に活かしていきたいと思います。時々、アイスカフェラテ代に使わせて頂きます。初めてサポートして下さった方が、そうおっしゃったので🤭🎶