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ゴリラの目から見た人間社会の不思議なところ-『ゴリラからの警告』

「この文章,いい!」

中学生に国語の評論文を教える授業で『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』が題材で出てきた。

授業後に,一度本で読んでおきたいと思い購入した。


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著者は,京都大学で学長を勤めている山極寿一さん。アフリカに生息しているゴリラと共同生活し,人間社会に戻った後,人間の動作がぎこちなく見えたそうだ。

例えば,どうして人間はゴリラのように泰然自若としていないのか。ゴリラはいつも同じ集団でまとまっているのに,人間はどうして複数の集団を歩き渡れるのか。

採集や狩猟によって人間の祖先が進化していく中で,サルや類人猿とは違う習性が出るようになった。

そこで著書は,主に以下2つについて書かれている。

①ゴリラの目から見たとき,人間社会の不思議なところは何か?
②そしてそれが今どのような働きをしているか?


人間は家族と世間体を両立していた

人間は,猿や類人猿と違って家族を温存したコミュニティと世間体を両立させることができた。どうして両立できたのだろうか。

生物学的観点から見ていく。

赤ちゃんの母乳期間で見たとき,ゴリラは3〜4年,チンパンジーは5年,オランウータンは7年ほど月日を要するのに対し,人間は2年足らずで離れる。

人間の赤ちゃんの母乳期間が短い背景には,人間の祖先が類人猿の住む豊かで安全な熱帯雨林から離れ,大型の捕食動物が多い危険な草原へと進出した時代に獲得したと考えられている。

また,動物からの捕食によって高まる子供の死亡率を補うために多産になったと言われている。

しかし,人間の子供の成長は類人猿よりも遅い。それは脳を大きくしたからである。

直立二足歩行によって自由に移動できるようになった反面,骨盤が皿面に変形して産道が制限されたため,大きな頭の赤ちゃんが産めない。

そこで人間は,類人猿とあまり変わらない頭の大きさを持つ赤ちゃんを産み,類人猿の3倍以上の時間をかけて脳を大きくした。

実際,ゴリラやチンパンジーの子供の脳は4歳ほどで大人の大きさになるのに対し,人間の子供の脳は16歳ごろまで成長する。身体の成長を後回しにして脳の発達を優先した結果,頭でっかちな子供ばかり産まれた。

母親の手だけでは赤ちゃんを育てることができず,泣き止ませようと共同で食べ物を持ちかけたり,子守唄を通じて気持ちを一つにしたりしてきた。

つまり,共食と音楽によって平等の意識が産まれ,家族を温存したコミュニティと,互酬性に基づく共同体を両立することができた。

個食が進むと,人はサル化する

しかし,インターネットによって近くの人よりも趣味や価値観が合う遠くの人を優先するようになってきた。

食事にしてもコンビニやUberEatsを使えば,ササっと1人で食べられる。

ライフスタイルの変化によってなかなか時間が合わないこともある。ただ,個食が進むと,共感能力や連帯能力が低下して自分本位で考える機会が否が応でも増える。

個人単位で考えることは,サルの思考や習慣と近い。サルが食事をする際は仲間と分散して顔を合わせない。もし食べ物が少なかった場合,弱い者が強い者に譲る。ある種の序列社会であり,強者と弱者で明確に分けられている。

逆説的ではあるが,人間における「自分」は信頼できる人たちの期待よって作られるため,自分本位で考えると自分を見失ってしまう。

幸福な時間を取り戻すには

人間は生活を便利にしようと,他人に邪魔されず自分だけで使える時間を増やそうとしてきた。

物資の流通や情報技術の効率化を通じて時間を節約した結果,せっかく得た自分だけの時間も効率化の対象になってしまった。

自分の時間が増えれば増えるほど,孤独になって時間を持て余す。

そう考えると,人間が幸福だと感じる瞬間はお金や時間を増やすことではなく,仲間と共に過ごした時間によって強められるかもしれない。

自然災害然り,コロナ然りで社会が一転したとき,本当に頼れるのは家族や普段付き合っている人たちと言った目に見えない資産なるものだと思う。


以上です。


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新井 大貴
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