エッセイその103.おうちでロスト・イン・トランスレーション(2)
考えてみたら、一家では日本人は私一人でした。
日本語は一番できるけれども、英語は一番できなくなりました。
そんな毎日の中でいろいろ大変だという話を書きますね。
最近あったことです。
蒔いてみた種に、ぽちぽちと芽が出てきたのを見て、
夫が「シソ栽培セット」を持って来ました。
「君が成功しているということは、季節が良くなったんですね。
では、私もこいつを育てようと思います」
それは忘年会のくじ引きで当てたもので、小さなお猪口とシソの種と、
水を入れると膨らむ小さな苗ポットが入っています。
10粒以上も種があり、全部蒔いたら大変そうですが、
発芽率100%ではないので大丈夫でしょう。
英語の説明書が入っているから
♫ひとりでできるもん♫
と言います。
私がお節介なのを知っているため、「触らないでよ?」と言いました。
その後、通りすがりにお猪口を見ると、苗ポットは乾燥しているようです。
手を出すと嫌がるので、見るだけにしていましたが、
昨日は小さい種が苗ポットの外に出て、お猪口の壁にくっついていました。
(水やるとき、水道からジャー、ってやった感じ・・)
LINEで英語で連絡しました。
「あなたの蒔いた種のいくつかかが、
種を育てるための土の塊を紙で覆ったみたいなものから、
その外へ出ていて、乾燥しています。
私にそれらを、その中へ、戻してほしいですか?」
まどろっこしいですが、一生懸命が普通になっていて、こんなことになります。
it とかthemとかsomeとかyouとか、英文では言うことになっているが、
日本語では言わないので、気をつけながら言うとこうなるのですが、
よく考えると、こういうことをずっとやっているので、疲れている気がします。
「あんたの蒔いてたシソの種、
育苗ポットから飛び出してるから、戻していい?
自分でやる? なんか乾いちゃってるよ」
と、言いたいけど、自分の家で自分の旦那には言えないわけです。
授業でダメ出しをするときに、あまり変な英語で話すといけないかなと思い、
一生懸命しゃべってきたことから、こういうことになりました。
これから外国人と知り合って結婚したいと思っている皆さん、
実現するとこれが待っているので、覚悟しておいてください。
LINEには、プリーズドントタッチ、とすぐ返信がありました。
こういうとき、もう少しスマートに言葉が出てこないかなと我ながら思います。
日常的に、ちょっと込み入った話だと手を止めて一生懸命喋るモードになり、
すぐロストになります。
先日は、夫がチーズケーキを作ると言い始め、
カテージチーズはスーパーで売っていますか、と訊いてきました。
カテージチーズは、小さいケースのを見たこともあったのですが、
500gから1kgは欲しいと言います。
すぐには欲しい量が手に入らない感じがしました。そこで、
「スーパーにあるかもしれないけど、作れるよ」
と言いました。
牛乳を温めながら分量のレモン汁を入れてかき混ぜると、
分離してカテージチーズとホエイ(乳清)になります。
意外に思ったより、簡単です。
「はい、できたよー」とカテージチーズを見せたら訊かれました。
Is this the way they make cottage cheese?
直訳:「これが、彼らがコテージチーズを作る方法ですか?」
私はときどき、こんなシンプルな英語でつまづいてしまいます。
自分の理解したとおり、さあ、わからない、と言えばいいところです。
なのに、引っかかるとこだわってしまう性格。
私:
夫、Theyってだれのこと?
普通の日本に住んでる人ってこと?
それなら、この辺ではあまり売ってないんだから、
こんなふうに作ると思いますが、
それがnormal wayかどうかは、本当のところはわからないよ。
ネットで最初に見たレシピだから、これが一般的かどうかとかはわからない。
ところが、私の返事がこういうふうに長々しくなる時は、
夫は普段は気は長いのですが、すごく警戒します。
いや、だから、Is this the way they make cottage cheese?
もう一回訊いてきます。
声が一段大きくなっています。
子供扱いされた感じがして、こんどは私が少しむっとします。
(いや、同じこと訊いてくれても、声を大きくしてくれても、
こっちは同じことがわからないんだから。theyって誰のこと?)
と私は思っちゃうわけです。
私:
いや、だから、だからね、そのtheyって誰のこと、って訊いてるの。
コテージチーズがあまり売ってない、この辺の、
名古屋にいる人たちが、こう言うふうに作るのが普通かって訊いてるの?
それとも、「コテージチーズの作り方は普通これ?」
っていう、一般論的な意味で訊いてるの?
と、また私は訊いてしまうのでした。
別に旦那は、すごく重要なことを訊いてきたのではなくて、もしかすると、
「へー、カテージチーズってこんなふうに作るんだ」
と言っているだけだったかもしれません。
でも、日本語で言われれば、言ってることがわかるのに、
英語だと、「つまり何を言ってるの?」という迷路に迷い込むことがあります。
そうだとしても別に、「さあ そうじゃない?」 とか、「知らないな〜」
ぐらいで良いのに、英語で訊かれると、
変な意味で、しゃきっとしてしまうのです。
無駄な発熱をします。
(ずっと若い頃は、言葉のずれや認識の差で、
すご〜い夫婦喧嘩を たびたびしていました。
もう歳取りましたからね、老犬は喧嘩せずって言う感じです)
続きですが、(まだやってたかぁ〜)夫も後には引けなくなり、
だからね、シンプルなクエスチョンなんだから、
シンプルにイエスまたはノーで答えられるでしょう。
Is this the way they make cottage cheese?
イエス?
ノー?
どっち?
こう言われると私もカチンときて、
だからね、
Theyっていうのが、何を指すのか、ぼんやりしてて、私にはわからないの。
カレラって誰?
日本人のこと?
それとも人類全体の「人々」のこと?
本当に全く何をしているのでしょうかこの二人は。
娘らがその場にいたら、
おまーら、くだらねぇことで喧嘩してんじゃねぇよ(原文のママ)
と言われるところです。
夫:いや喧嘩してないですよ。
妻:そうだよ、別に喧嘩してないよ。
それから、私のほうが、少し職業業かも。
先生、角と隅とどう違いますか。
割くと裂くはどう違いますか。同じですか。
なんで時間を割くと書くけど、時間を裂くと書かないのですか。
布を割くと 布を破ると 布を裂くの違いを教えてください。
ポスターが貼ってあると、貼っておくの違いは何ですか。
などを訊かれ続け、答え続けてきたために、
言葉を「なんとなく」使うということが苦手なんだと思います。
わかるまで教えなければならぬ、と思ってしまうらしい。
昨夜はこんなことがありました。
壁の大きな鏡の前でパジャマに着替えていて、
左足を上げてパジャマの左脚が入るところに入れようとして、
なぜだかよろけて、右と左の分かれ道に、つま先が引っかかりました。
自分の前が開いていたら、
おっとっと、と言いながらケンケンして立ち直るのですが、
あいにく、目の前は鏡でした。
頭から突っ込んでいくのを避けようと、そのまま足をつきましたが、
足の小指とお姉さん指が内側に曲がった、変わった形で床に激突しました。
思いっきりタンスの角に小指だけ引っ掛けた時に似た感じの痛みでした。
氷で冷やしながら、説明しようと思ったんですけど、
ややこしすぎて、「どうでもいいんだけど、とにかく痛い!」と騒ぎました。
こんなのも、日本語でこれが言えるなら、
痛がりながらでも すぐに伝えられたのに。
じれったいロスト・イン・トランスレーションのお話でした.