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日本語教師日記188. ああ今教えたい今! (1)初級みたいな間違い方をする人たち

中級者を新たに教え始めた時に、ああ残念、と思うことが多いです。
すごくよくできるのに、初級者のような間違い方をする人たちが、ある一定数いるのです。

どんな人たちかというと、一つは両親のどちらかが日本人で、幼児期は日常的に話していたが、その後海外へ移住してだんだん日本語があやふやになっていく途中である人。
できるつもりでいて、日本の親戚にもやんややんやともてはやされるため、実は治すところがいっぱいあることへの自覚がありません。
あまりいちいち直していくと、がっくり来てしまって、よくありません。
お母さんの話してくれた、もの優しい、メルヘンな日本語のままの、
むくつけき大男の生徒もいたりします。
こ、これはおいおい、直していきましょう。
頑張ってついてきてください。

もう一つは独学の人。
天才肌の人で、着実に上達していく人も稀にいますが、やはり語学は、母語を身につけるプロセスになるべく近く、つまり、たくさん間違え、たくさん指摘され、直させられ、納得していくのが、なんと言っても早道です。

独学の人、漢字の国の人の中に、4択試験のチョイスだけ、なんとなく、勘で上手くなってしまう人もいますが、それではN4レベルであっても、合格は厳しいでしょう。

あとは、海外で非・日本人の日本語教師に習ったため、きちんと教えてもらえなかった人というのがいらっしゃいます。

導き手に問題があると、間違えても直してもらえませんし、下手をすると、日本語教師の日本語が怪しいです。

あるとき、外国で同国人の日本語教師に習った生徒が質問してきました。

「先生、こっちの先生に、
『なぜ、大きい小さいは、大きな・小さな と言うこともあるのですか』
と訊いたら、
『昔の日本語には、な形容詞はなかったから』と教わりました。
これは本当ですか?」

これには驚きました。
さすがにこれは生徒が可哀想。

流暢に聞こえるレベルでありながら、間違いが固定してしまっていて、初級レベルの間違いが多くて残念な人は、だいたい上記のような人たちです。

(ちなみに、よく、
「日本語は漢字があるから難しいでしょう」
と訊かれますが、そういうことはないです。
漢字は、数の多さや、幾つもある違う読み方に辟易するとしても、とにかくこちらが頑張って地道に覚えようとするならば、素直に相手をしてくれる気のいい奴らです。

多くの学習者にとってブロックとなるのは、まず助詞です。
助詞をおろそかにしてきたり、きちんと教師が教えられないと、

父に戦場へ行かされた。
父は戦場に行かされた。

の、意味の違いがわかりません。
助詞だけは、なんとなく流してしまうと、後になるほどに辛くなります。

あとはなんと行っても、言葉の出てくる順の違いです。
日本語は他の言語と、言葉の順番がとても違うので、一語ごとに律儀に置き換えていこうとしても無理があります。
私たち日本人が、
I…..と言っては絶句し、I…..と言っては、次が出てこない、これと同じ苦労を、日本語学習者もしているということです)

で、話を戻しますと、どの語学でもそうではないかと思うのですが、めちゃくちゃにブロークンであっても、ターゲット言語のネイティブと積極的に話す人は、一見上手くなりそうに思えます。
ところがこれが罠で、途中から急に辛くなることが多いようです。
ガラスの天井が、低いです。

そういう人はちょっと話している限りではまあまあ上手に聞こえますし、会話の流れというものがありますから、その人の周囲のネイティブ話者が、親切にいちいち引き止めて教えてくれることはありません。

たまに、そうじゃないよ、こうだよと言ってくれる人がいたとしても、
母語というものは普通、自分にとってあまりに自然なために、意識化していませんから、間違った理由や、このように考えて、このルールを用いれば改善されるよということは、ネイティブは外国人に説明できないことが普通です。

実例です。
時効ですので、勘弁してもらいましょう。
第一回目のレッスンでニアナのため、自由に話してもらったら、このようなことを言う人がいました。

「先生、昨日は友だちは新宿に会いました、と、
友達言いましたですね、と、銀座でおみやげ買いたいでした、
と、でも、高いでしたね。
と、だから高いでした、買いなかったですね」

うぬ・・・。
どこから直してあげたらよかろうか。

レッスン1回分の60分は意外に短いです。
あれもこれも教えようとしてしまうと、相手の頭が爆発してしまうし、モチベーションも下がるでしょう。

そこで、一つだけに集中することが、私の場合普通です。

「はい、ありがとうございます。
よくわかりましたよ。
では、ちょっとだけ直しますね。
高いです の 過去形はなんだったでしょう」
「高いでした・・・?」
「惜しい。
〜でした、は、名詞と な形容詞に使いましょうかね」
「あ、そうでした。I knew it, I always get mixed up!
(いつもわかっているのに、ごっちゃになってしまうんです」
「ごっちゃになりやすいですよね。
皆さん間違いますから、大丈夫、今、直してしまいましょう。
・・では、高いですの 反対は?」
「高いじゃないです」
「です→じゃないです  は、名詞と、な形容詞でしたね。
「高いです」は い形容詞ですから、
「高くありません」または「高くないです」ですよ。
では、it was expensive は?」
「高い・・高くでした・・高いでした・・いや、高かったです」
「はい、思い出しました。ビンゴです。では、it was not expensiveは?」
「たか・・高くなかったです」
「いいですね。もう大丈夫でしょう。
ではね、聞いてください。
高いです
高くないです
高かったです
高くなかったです
要するに、です!です!です!です!
【い形容詞はどこまで行っても、です! 】と覚えてください」
「あっそうか。ですですですです、ですね。わかりました!」
「もう絶対間違いませんね?」
「え、いや、それは・・」

次のレッスンでもしつこく追い詰めます。

「今日の東京のお天気は?」
「今日はすげえ暑いでした」
「おやん? ですですですですの法則は?」
「あ、すみません。すげえ暑かったです」
「とても、暑かったです」
「すいません、とても暑かったです」
「今日もうるさく言いますが、
今日はね、いつもの倍、いや3倍、ゆっくり話してください」
「わかりました」
「考えながら、ゆっくりです。それから、
「と」は、名詞の間だけに使ってください」
「はい」
「バナナとりんご、と言うのは正しいですが、
『行きました、と、たべました』
なんて言ってちゃだめですよ?」
「はい」
「文と文とは、あなたの得意な、ての形でつないでくださいね」
「わかりました」
「速い」
「え」
「今の三倍のスピードでね」
「あ、はい」

生徒もこの暑いのに追いかけまわされて、本当に大変です。
しかもお金を払うのはご自分です。
頑張りましょう。

続きます。



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