日本語教師日記100.英語に頼ってはいけないところ(2)頭の中の対訳表
生徒の中には、辞書に出ている訳のみをみて、「この言葉の意味はこれ」と、対応表を書いていたり、頭の中にそういう、1対1 のペアを作っている人がいます。
初級ではなかなか日本語だけで、微妙な違いまでは教えられず、
教師の方も、心苦しいながら、
「同じです」「書き言葉と話し言葉の違いです」
ぐらいにとどめることは多いと思います。
けれど中上級ともなれば、「同じではない部分」=「ここが違うという部分」を教えていきたいものです。
英訳すると同じになっても、日本語に2つも3つも似た言葉があるということは、使う場所が違うことが多いですよね。
生徒の中には、テストで正解するかどうかに強くこだわるタイプの人がいます。
そう言う人は往々にして、教科書に親切に書いてある説明を読まないことがあります。
闇雲に意味を暗記するために、ストレスが大きい割には結局本当のところからずれた理解や丸暗記をしてしまうことがあるのです。
「甘やかすと、ちやほやするは 同じ意味ですよね?」
と質問してきた人がいます。私の答えはこのようなものになりました。
「甘やかすは、上の立場から下に向かいます。
お母さんが子供を、飼い主がペットを甘やかします。
相手のためというより、自分の満足のためということが多いです。
その結果は、相手にとってよくないことであると想像できます。
わがままになるとか、未熟なままであるということが起きやすいです。
ほら、子供が喜ぶからって、甘いお菓子ばかりあげていると、
食べられるものが広がらないし、結局体に悪いでしょう?
そんなイメージかな?」
ーーでは先生、「ちやほやします」と同じですか?
子供に対して、かわいいねと何度も言うとか、これはちやほやですよね?
「重なりますが、違います。
『甘やかす』は、上から下へ、自分の満足のためでありますが、
『ちやほやする』のは、相手からの見返りを求めてのことが多いです。
相手とは同等の立場、下から上、上から下、どれもあります」
これだけ言った後は、例文を一緒に作っていくのが一番です。
甘やかす:
仕事をしていない娘を家において、なんでもやってやるなんて、
そんなに甘やかしたら、その子のためになりません。
彼は犬を甘やかして、人間の食べ物を食べさせている。
おじいさん、おばあさんは、つい孫を甘やかして、お菓子を食べさせすぎたり、ほしがるものを買ってやったりすることが多い。
vs
ちやほやする:
クラスの男子が、可愛い女子だけをちやほやしているので、
他の女子たちはむかついている。
社長の息子は、周りの人たちにちやほやされて、天狗になっている。
そのあとでこの人からは、
「ちやほやすると、胡麻をするは、同じですね?」
と言う質問が出ました。
「胡麻をする、というのは、
【相手が気持ちがよくなるようなこと】をわざわざ言います。
そのことによって、自分が利益を得ようとすることです。
『ちやほやする』はもっと感情的な世界にとどまりますが、
『ごまをするの』は、はっきりと自分の利益を目指していますね。
下から上に向けての行動です。
よく扱ってもらおうとか、自分のポジションを保とう、よくしようというよう目的がありますね。
そう言う気持ちがあっても、家族間では、胡麻することはありません。
あくまで、実質を伴った利益を求めて、他人に対してする行動です」
私の頭の中では、いろいろな伝わりにくい例が浮かびました。
サラリーマンのゴマスリも、昭和なのかなぁと思いつつ、
植木等さんの顔を思い出し、また、
子供にファースト取らせたくて
つい顧問に胡麻をすってしまうしまう吹奏楽部の子供の親
がいたなぁとか。
先日は、ネットでこういう便利なものを見つけましたと、見せてくれた人がいました。
さぞ=I am sure
そばから=as soon as
〜をおいて=without
さもないと=otherwise
〜をよそに=despite
〜を限りに=starting from
〜を経て=after
これを一生懸命暗記しているそうです。
声を出さずに、うめきました。
これは・・・まずいです。
一瞥して、だからこの人がときどき、
不思議な日本語になってしまうのかと理解しました。
これを素直に信じて日本語を作ろうとすると、極端な話、
朝ごはんを経て、学校に行きました。
私はさぞ彼が頭がいいです。
ミルクをおいてコーヒーを飲みました。
のような文も書けてしまいます。
実際、稀にそう言う人がいます。
これを見せてくれた人は、そこまでではありませんが、
書いた文を見せてもらうと、
「あれっ? 辞書で見たままを、
例文や説明をあまりじっくり読まずに日本語にしているかな?」
と思うことが結構多いです。
これは、英語と私の関係でも、よく起こります。
慌てずに、じっくり。
英訳になるべく頼らない方が、結局確実であることを伝えていきたいです。
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