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エッセイその93.恐怖のエアポート!②アデル見損なうとこだったの章


2017年3月のニュージーランド帰省は、
我が家にとっては思い出深いものになりました。

一つには、長女の大学最後の春休みであり、とりあえず、
一家揃って帰省できる最後の機会となりました。

また、祖父母の世代が過ぎ行き、子供・孫と一同に集まることが絶えていましたので、親戚の一人が企画して、100人規模で集まる計画がありました。
海外から参加する私たちに、予定を合わせてくれていたので、
これには是非参加したいところ。

加えて、夫がアデルのコンサートのチケットを全員分、
プレミアム値段で買ったというのです。

家族全員、アデルの大ファンですから、それは嬉しいです。
けれどもなんだか気持ちが忙しいのも本当です。

夫によると、チケットのネットの申し込みはあっけなく破れ、
あちこち探して入手したようです。


恐る恐る値段を尋ねてみますと、

You don’t want to know.

直訳すると、「あなたは知りたくありません」ですが、その意は、

「知らない方がいい」

ということだそうで、恐ろしくてはい、知りたくないです。

全てが最後の1週間に集中し、その綱渡り感と言ったらありませんでした。



さて、出発の日です。
名古屋の人が飛行機に乗る、セントレア、中部国際空港に、
十分時間に間に合うように早く到着し、
日本の航空会社のカウンターに行きました。
中部国際空港からのニュージーランドへの直行便がありませんので、
一度成田に行かないとならないのです。

・・ふと、にこやかだったグラウンド勤務の美女の美しい眉が曇りました。

(・・また曇った、今度はなに?)

嫌な予感がしました。

お客様・・・・・

ものすごく言いにくそうです。

お客様・・・
大変申し訳ございませんが、お客様のパスポート◯月◯日に切れます。
ニュージーランドの規則で、お帰りの日が、パスポートの切れる日より逆算して30日を切っていますと、出入国ができないことになっているのですが、
お客様のパスポートの切れるのが、ちょうど1日だけ30日に足りません。
ですので・・・

「はい・・・」(?ー?)

・・ですので、お客様は搭乗していただくことができません。

「はい?」

ただいまニュージーランド側に一応問い合わせいたしますので、
お待ちください。

(はいぃぃ〜〜?)

美しい地上勤務の女性は、ぐぐっと下がって行き、
向こうの方で、先輩のような感じのお二人と、
美しいおでこを突き合わせて、話し合っておられます。

ときどきこちらを振り返り、首をかしげたり、またこちらをチラ見したり。
心なしか、死刑の判決が下った罪人を見るような、
気の毒げ〜な表情をなさっているような😱

携帯を手に戻って来て、

大変お気の毒ですが、奥様だけ、お帰りの便をキャンセルなさり、
一日以上手前の日の便を新しくご購入いただかなければ、
ニュージーランドへ行っていただくことはできません。

「それは確かですか? 
  成田に行って、ニュージーランド航空の方と相談はできませんか?」

それは、当方は国内便でございますので、成田まで行っていただくのはなんの問題もございませんが、ただいま確認させていただきましたが、
ニュージーランドエアのニュージーランド行きに
乗っていただくことはできませんし、
仮に乗っていただいて現地に到着しても、入国はできませんので・・・・。


これは想定外の出来事でした。

できることは、この方の言う通りにするしかありません。
先に帰りの便をキャンセルしてしまって、適当な便がないと大変ですので、
その場であっちこっちに電話をして、チケットを買い直すことになりました。

この場合も、幸いなことに平日の朝9時過ぎで、
チケットを購入したIHSにすぐに電話がつながりました。

けれども、思っていたように、

「1日足りないので、1日早く私が帰る便を買う」

というようには、そうは都合よく問屋が降ろしませんでした。
三日も手前の日がやっとありましたが、日付的に帰国のピークだそうで、
ドタキャン費用と、新しい航空券と合わせると、
「もう一人、一緒にお連れできるぐらいの額のチケット」になりました。

さすがにその額は無理で、ではその1日前は? そのまた1日前は?
・・と、どんどん、日付が前に倒れていきます。

探してもらうたびに、「やってみます、お待ちになっていてください」となり、一度電話を切って、その場で待つ、ということになりました。

地上勤務の担当の女性がときどき、
かっかっかっかとヒールの音を立てて走って来られて、

いかがでしょうか、登場まであと30分です。

どうでしたでしょうか、ありましたでしょうか、あと20分です。

と、教えに来てくれます。

夫は、セントレアの床に正座して、気合を入れて、
あちこちに電話をしてくれています。



すると、

おやぁ〜?
ゴディバさん?

と、のんびりした声がしました。

夫の取引先の方で、嬉しそうにのんびりと近寄ってこられます。

ゴディバさん、帰省ですか?
いいですねぇ。
何時ごろ出られるの?

「はいはい、今ですね、妻が飛行機に乗れなくなりまして」

ほうほう・・・えっ?
えっ、なんで、なんでですか?

「それはですねぇ」

正座したまま夫が逐一丁寧に説明を始めました。

(夫・・・夫・・・ちょっとその、急いだ方が・・)

「あっ、そうでした。すいません、今電話しないといけなくて」

そうですかぁ。
いやいや、大変ですね。
また帰国されたらゆっくり・・

「はい、ゆっくり・・」


本当にその場に倒れてゴロゴロ転がって、うっき〜! 🙉
と、叫び出したかったです。

結局、家族よりも十日ぐらいも早く一人でしょんぼり帰る便、が取れました。

親戚の集まりにも、アデルのコンサートも もちろん行けません。


私たち一家は初めて、

パッセンジャーゴダイバ、
もうすぐ飛びますから急いでください

というアナウンスメントが響く中を、
地上勤務の女性とともに疾駆する、ということを、しました。

行きの飛行機で、私はどんよりして、映画も頭に入りませんでした。

ところが、このあと意外な展開がありました。

オークランド国際空港では私一人、日本のパスポートなので、
外国人用の列に並んで、入国審査を受けたのですが、
何も訊かれず、ぽん! と スタンプを押してもらいました。

夫がやってきて、

なんか手続きした?
なんか、何日までに出ないといけません的なスタンプもらった?

と聞くのですが、いいえ、いつもと同じです。

3ヶ月、ツーリストとしてニュージーランドにいてよろしい、

というような感じになっていました。

夫は「ふ〜む」とか言っていたのですが、そのあと、

「入国審査で、あのパスポートの期限を見ても
 何も言わずに入国させたので、3ヶ月はここにいられるのであって、
 全ては大丈夫なのである」

というようなことを言い出したのです。

えー。
そんなわけないのでは?

と一応私は言ったのですが、周りの人がまた、

何も言われず、スタンプぽん!なんだから、いいのよいいのよ。

と夫に唱和します。

「まあまあ任せておきなさい」

と夫は言い、キャンセル料を払って買い直したチケットを、またもう一回キャンセル料を払い、どういう魔術を使ったか、家族三人と私と、同じ飛行機に乗れるようにしてくれたのでした。


親戚の集いも、何年も会ってなかった人たちとも会って旧交をあたためました。

また、圧巻はアデルのコンサート。
そのコンサートを最後に、アデルは世界ツアーをしていないそうなので、
本当に、行けてよかったです。

私はパスポートを「定期券」のように思ってきて、
期限切れでは海外には行けないのはもちろんそうでしょうが、
期限のうちならなんの問題もない、と思っていたのでした。
帰国の日から数えて・・みたいな規則があることすら、知りませんでした。
今まで大丈夫だったのはただ運がよかっただけなのかもしれませんが、
知らないって恐ろしいですよね。

本当に長文、読んでいただいてありがとうございました


【思い出の写真集】

画像1


親戚の集まりで、ペットのやぎにオリーブの枝をとってやろうとしていたら、

遅い!

と、腹をひづめでどつかれました。


画像2

アデルコンサートへ向かいます。

画像3

一生の思い出になりそうです。


(トップ写真は、コンサートのフィナーレの紙吹雪。
一つ一つにアデルの曲の歌詞が書いてありました)



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