日本語教師日記103.ある日本語教材
新しい教材に出会いました。
米国で作れたもののようです。
独習用の教材で、毎週1章ずつやるプログラムで、20回届くそうです。
英訳と、チャプターごとの動画があり、
費用は平均的な日本語の教科書一冊の30倍ぐらいです。
チェックや添削はありません。
新たに私のレッスンを始めた人が、それを自習用に購入しました。
すでに私の教科書で5時間ほど受講していますが、
レッスンのない日には、これを使いたくて買ったのだそうです。
(そういうときは一応先生に相談してみましょう💮)
送られてきたものを一読し、とても驚きましたが、
他の人はどう感じるかと思いまして、
日本語教師の友人、英和翻訳家をしているバイリンガルの非日本人、
日本滞在35年で日本語で仕事をしている夫などに意見を聞いてみました。
・これは、どこの国の人が作ったのですか?
・これは、クーリングオフ期間は過ぎてしまっていますか?
(返品はできませんか?)
・これで教えることになったのですか?
などと訊かれました。
私は生徒に言いました。
私はこの教材は使いません。
でも、バックアップはできます。
初めの30分私のやりかた、
残りの時間にこの教材から出てきた疑問に答え、
その内容を練習することはできますが、どうしますか?
それでいいということでしたので、始めることになりました。
(彼によると、これを書いたのは、マルチリンガルの非日本人だそうです)
問題1: 次のうち正しいものを選びなさい。
日本語教師なら、この教材を見たら頭を
(かく・かかえる・ひねる・壁にぶつける)だろう。
答え:かかえる
一つだけ例を挙げますね。
楽しみです=I am excited と英訳がついているそうです。
楽しみである、楽しみにしているというのは、この先、これまでずっと待っていた嬉しいことがやってくるので、わくわくしているという気持ちを表しています。
I am excited も重なりますが、待っていた嬉しいこと、は外せませんね。
例えば、豪華なケータリングサービスを前にして、
ネイティブが、
Wow! I'm so excited!
と言ったとして、これを日本語で、
わあ、楽しみです!
と言うでしょうか。
言いませんね。
この教材では、「私は楽しみです」と登場人物が言っています。
なぜこれを、少し不自然に感じるのでしょうか。
「なになに・が・楽しみです」
というときの「楽しみです」の使い方ですが、
日本語の主語隠しの法則により、「私は」言わないにしろ、
「私は」は、ちゃんと文頭に隠れています。
つまりはこうです。
(私は)なになに・が 楽しみです。
この人が、何々を、楽しみにしていると言う意味です。
A:いよいよ明日彼が帰ってくるのね。楽しみでしょう。
B:はい、とても楽しみです。
彼が帰ってくるのが、と言わなくてもコンテクストからわかります。
まず、「私はたのしみです」とは言わないことでしょう。
そこに、日本語を母語とする人は不自然さを感じるのだと思います。
一方、「私は」を省かずにを言う場合は、
【楽しみである、何かについて】を言おうとしているのではなく、
【誰が】それを楽しみしているか、
を言おうとしている文です。
例えば、
A:明日、会社の忘年会だね。
B:う〜ん・・
A:え、Bくんは楽しみじゃないの? ビンゴの賞品もすごいってよ。
B:Aちゃんはたのしみ?
A:うん、私は楽しみよ。B君は?
B:僕は楽しみじゃないよ、会社の忘年会なんて。
誰々はそれを楽しみにしており、
他の誰々は楽しみにしていない、という場合には、
主語は省けません。
「誰が」について言いたい場合には、「私は楽しみです」が使えるのですね。
その辺は、きちんと教えていきたいと思いました。
というわけで、この「私は楽しみです」は、
初心者の独習にぶつけるのには、難易度の高い、
間違えて理解されやすいものかなと思いました。
ところで最近、とても日本語の堪能な非日本人の方が、
Youtubeで面白く 日本語を分析して見せてくれるものが増えてきました。
Youtubeは、教材ではありません。
あくまで、日本語の堪能なYoutuberの発信で、楽しみごとです。
それを作るのも作り手の自由、見るも見ないも、これまた自由です。
金銭のやりとりがありませんから、構わないと私は考えています。
自己責任でいいと思います。
でも教科書は、母語として日本語の深みや、ニュアンス、自然さを理解している人が作るべきだと、今回つくづく感じました。
さて、私は、最初の3ページ(1週間分)を読みながら、
気になるところや、内容についてをメモしました。
私のメモ:
・とにかく情報量が多い。
・文法の間違い。
・不自然さ
・助詞が全て提出されている。
さらに、1つの助詞にある2つ以上の機能も紹介している。
会社の友達(属性)
私の友達(所有)
ラウンジのピアノ(場所的属性)
文型多すぎ。
①S は Oです(国籍・名前・友達)
②S は 【属性】の O です。(会社の)
③Sは 【所有】の Oです。(彼の)
④SはOですか。(疑問文)
⑤SもOです。
⑥Sは【場所】に (「に」を取る動詞)ます。
⑦は【場所】で (「を」を取る動詞の大半)ます。
⑧は【所有格の】Oです。
⑨Sは【所属】のOです。
➓Sは【場所】 にある
初心者の語彙? 久しぶりに・無事に・到着 etc 時間要件
何ですか の前に 誰ですかの提出
時間要件:年
〜年前(に、を避けている)
動詞のなります:ありません〜ない〜なくなります この3ホップは難しい
ないの形を教えるのはずっとあと。
これ作った人勇敢だな。
さて、初心者にとっての日本語レッスンには、
ひらがな・カタカナ、母語に存在しない「助詞」というものがありますし、
語順が全く母語と違う、
たくさんの語彙を仕入れてからでないと
本当に簡単なことすら、話し始めることはできない・・
などなど、非常にストレスが多いものです。
生徒が退屈しないよう、手を変え品を変え、
バラエティに富んだレッスンを作る工夫が必要です。
他の日本語教師の皆さんも、じっくり教えていらっしゃると思います。
さて、この教材が持ち込まれた回にレッスンでは、
その場でロールプレイを作って一緒にやってみました。
0初心者でも理解できることを目標にします。
カタカナはまだなので、「名前や、英語から来た言葉は本当はカタカナですよ」
と一応ことわります。
Sue is telling her teacher about the Christmas party.
すー:あした、くりすますぱーてぃです。
せんせい:そうですか。 いいですね。たのしみですね。
すー:はい、とても たのしみ です。
せんせい:どれす は・・・・
What is your dress like?
すー:あかい みにどれす です。
red
And some white fur.
そして、 しろい ふぁー です。
せんせい:かわいいですね。サンタのドレスですね。
・・・・・
レッスンの終わりには、日本語に入ってきて使われる英語は、
こんな発音になりますということを、
イラストを見ながら楽しく発語してみました。
🎅 🎄 🎂 🎁 🍗 👢 🕯
この先、この教材の第二章がどんな勇姿を表すか、
予想できませんが、心静かに待ちたいと思います。
2022年1月2日の追記
この投稿だけでは、私のこまか〜い性格だけが出ていて、
私がこの教材でどのような気持ちになったかが書けませんでしたので、
思い切って続編を書きました。
よろしければ読んでください。
私の中に沸き起こった気持ちをご理解いただけるかもしれません。
サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。