日本語教師日記53.法則がわかれば怖くない(12)こそあど
今日は特に、日本語を教えて間もない皆さんや、
ボランティアなどでレッスンをされている方に、こっそりいいことを教えます、という投稿です。
これ・それ・あれ・どれ いわゆる こそあど は、
0初心者にとって、本当に最初の最初に出会うものですね。
私たちもやりました、これ・それ・あれ・どれ・・英語の授業で。
This is a pen.
That is a desk.
これ、と それ、はわかったけど、あれは?
...That way over there..(thatより遠いやつ)、
みたいなのは日本の英語の教科書に出て来なくて、
あれは英語でなんていうのかな? と、しばし悩んだような記憶があります。
「これ 」は、自分に一番近いもの。
「それ」は、少し離れたところにあるもの、
「あれ 」はもっとずっと離れたところにあるもの
と教えるのは、初心者、特にクラスレッスンでは正しいです。
それ以上のことは、
「日本語のみ」+「ジェスチャー」+「なんなら激しく動かす顔筋」
を駆使するしかない段階では、多少トリッキーで難しいです。
でも、難しくて教え控えたとしても、(その方がいい場合も多い)
教師がそのコアを理解していないのではよくありません。
理解した上で、担当する生徒が初級者の段階で 、
「これ 」は、物理的に一番近いということのほかに、
話者に「それが属している」
ということをじんわり 知らせていく必要があります。
同様に、「それ」は、聞いている人から見て、喋っている人に近いと同時に、
喋っている人に「属している」=自分の側には属していないものである。
ということも、しっかり把握しておきましょう。
A:これは 映画のパンフレットです。
B:そうですか。それは、日本語ですか?
A:はい、これは日本語です。そして、これは英語のパンフレットです。
パンフレットは、Aさんの所有物ではないかもしれませんが、
話題として、Aさんが取り出し、Aさんが手に持っていますね。
たとえ、AさんとBさんが、ソファに隣り合わせに座っていても、
ほとんどの場合、Bさんは「あなたの言っているその」パンフレット、
という認識があります。
これをぼんやりとでもわかっていていただかないと、あとで必ず混乱します。
また、「あれ」ですが、その物体は、話者とその相手と、等距離に「遠い」です。
距離だけについてまず教えます。
A:あれは? あれはなんですか?
B:あれですか、あれは私の新しい車です。
二人「とも」、「あれ」と言わなければなりません。
「あれ」は、物体だけではありません。
記憶や体験も、共有している同士では、お互いに「あれ」と言います。
A:あれ、どこいったあれ。
B:あれって?
A:ほら、昨日業スーで買った・・・
B:ああ、あれね。・・・なんだっけ?
A:あのときはくやしかったね。
B:うん?
A:ほら、あのチケット買えなくて。
B:あれね〜。あれは本当に残念だった!
ところがです、こんな掟破りがあります。
二人でリングを選んでいます。
A:これはどう?
b:これ? こっちのほうがよくない?
A:そう? じゃ、これは?
B:これはいいねぇ。
どうでしょう。二人の「気持ち」からは、
リングが「等距離」なのがわかりますね。
A:これ見て。いいでしょ。昨日フリマで買っちゃった。
B:あ、それ知ってる。ネットで見た。
Bさんはほぼ「これ知ってる」と言いません。
たとえ体をくっつけあって座っていてもです。
しかし、
B:見せて?
A:いいよ。はいどうぞ。
B:これ、いいよね〜。
Bさんにとって「それ」であったものは、一瞬で「これ」になりました。
A:Cちゃん、とうとう彼とわかれたんだって。
B:彼って、私の知ってる人?
A:知らない人。
B:その人、なにじん?
同様です。
さて、目に見えているものでないと、混乱が始まります。(生徒の側に)
でも、教師がしっかり把握できていれば、大丈夫です。
A:あのときは辛かったなぁ。
B:どのとき?
A:去年マラソンに出た時。
B:でたの? そのとき、何歳だったの?
一番面白いのはこれではないでしょうか。
歯医者さん:どうしました?
患者:はい。右の奥歯がいたくて。
歯医者さん:これですか?
(歯は、患者のもので、患者の口腔内にあるにもかかわらず!)
患者さん:そうそう、それですそれです。(歯は彼の口の中にありますが!)
どうですか、面白いでしょう。
こんなことばっかり考えているので、またお風呂で寝てしまって、
ゴボゴボゴボ、になりそうです。
皆様も気をつけてね!